ライトアップされた茅葺き集落
連載:思い出のスケッチ #286
写真:中川 美治「夜会と富士山」 文:西湖いやしの里根場 宮本 重男
 西湖いやしの里根場の年一度の夏祭り。夜店も出て賑わう広場から少し離れた高台で、遠き若きあのころを思い出していた。
 狭い道をさらに狭めて両側に並ぶ夜店からのカーバイトの匂いが非日常を演出している。誰もが辛い日々のことは忘れて、公民館の盆踊り会場を目指して歩いている。新しい揃いの浴衣で参加の地区がある。仮装しているグループがいる。太鼓の音頭と美声の若者の盆踊り唄に合わせて二重三重の踊りの輪がある。帰ってきたご先祖さまも輪の中にきっと混じっていた。婦人会の接待がみんなを和ませる。花火が時々夜空に咲いた。十二時を過ぎるころを境に三々五々家路につく多くの人びと。小さい輪になった盆踊り会場で、若者たちが朝まで踊り続けていた。
 三日三晩続く盆踊り。みんな若く元気だった。踊っていれば楽しかった。明日の力になった。
 広場からの喧騒が夏の生温い風に乗って聞こえてきて我に返った。
 目の前の富士山の山小屋の灯りが見える。世界文化遺産になった日本の宝、富士山には多くの国の人が、六根清浄唱える日本人と一緒に登山中だろう。それぞれの人の素晴らしい明日のための日の出を拝めますようにと祈って広場に戻った。
宮本 重男(みやもと・しげお)