色彩のふしぎ 第15回
空間の活性化とインパクトの付け方
南雲 治嘉(デジタルハリウッド大学名誉教授)
色が2色あればそこに対比の効果が生じる
その効果はインパクトを生み
空間を活性化し生き生きとさせる
図❶ 赤だけの部屋
1色の空間は統一感があり、ある意味美しいが、生理的には多くのリスクをはらんでいる。ここには色の対比は存在していない。
1色だけの空間がない理由
 色はそれぞれ特有の生理反応を引き起こします。1色だけの空間は存在しないが、もしそのような空間があったとしたら、私たちはその色だけの刺激を受けることになります。1色だけなら配色を考える必要はないので、色決めはいたって簡単です。
 1色だけの空間では、その色の刺激のみになるため、脳生理が偏り精神に変調をもたらすことになります。1色の部屋で生活する実験的研究は世界中で行われています。赤の部屋で1週間過ごすと、アドレナリンの分泌により徐々に心拍数が上がり、やがて精神錯乱を引き起こすという報告があります。
 スペインの赤が好きなインテリアデザイナーが自分の部屋のすべてを赤にしたところ、1カ月後に精神と体調に変調を起こし、入院したというレポートもあります。
 青の部屋では最初は集中心が高まり、睡眠もとれていたのですが、心拍数が徐々に低下し鬱的な症状を見せるようになり、実験を中断したという報告もあります。
 ただ、特例があります。白だけの空間ではほとんど変調をきたしません。白はすべての色を含んでいるため色彩生理への刺激は自然界と同じだからです。
 逆に黒だけの空間は人に必要な色の刺激がないため、ビタミン不足になる可能性があります。日光は人の生活に欠かすことができないということです。
 1色の配色は意味がないことを明確に知っておくことは、配色の重要性を認識するのに役立ちます。(図❶)
図❷ 視覚は意識している色に支配される
空間は種々の色によって構成されているが、視野に入る正面にある色からの刺激を多く受ける。意識している場所の色を知覚する。
複数の色があれば対比効果が生まれる
 色は2色あれば対比効果が生まれます。隣接する色がどのような色であるかによってその効果は異なります。意識しなければ適当に配色をしてしまうものですが、対比効果を利用することで、空間の性格をつくり出すことができます。
 対比には見ているその時に効果が生じる同時対比と、ある配色を見た後に目を移して効果が生じる継時対比の2種類があります。この2種類は別物ではなく関連し合っています。日常ではずっと同じものを見ている(同時対比)わけではなく、時々目を移したときに見えるのが継時対比となります。
 同時対比はさらに5種類があります。一般的に色の3属性と深い関係があります。その属性によって効果も異なります。
・明度対比──明るさの差から生まれる
・色相対比──色味の違いによる効果
・彩度対比──色の鮮やかさの差による効果
・補色対比──色相対比のうち補色同士の対比
・縁辺対比──隣接する辺に生じる変化
 この他に色が占める面積の大小による面積対比があります。
 対比自身は平面の世界での効果ですが、建築空間はこの平面によって構成されているため、単なる対比効果ではなく、環境心理的な効果になります。
 人の視野は両眼では水平180~200度程度と垂直130度程度です。この範囲にある色から同時に刺激を受けることになります。生理的には見えている色すべての刺激が多かれ少なかれホルモンの分泌に関与しています。
 ただし、見えている色の面積によって刺激の性質は異なります。面積の広い色の生理的な刺激が特に強くなります。また、意識して見ている色からは心理的な影響を受けています。
 広い視野を目にしているわけですが、意識して見ているものが見えている(ズームアップ)という状態になります。つまり他のものは視野には入っているものの見えていないのと同じということです。
 以上の理由からそこにある色の対比が必ず効果をもたらすということではないということです。(図❷)
図❸ 明度の対比はインパクトに影響
白と黒の対比が美しい熊本城
玄関ドアと外壁の対比
白と黒の対比はゲームにも用いられている
明度対比は明るさのぶつかり合いとなり、空間にインパクトを与える。見ていると頭が明晰になる。
明度対比とコントラスト
 色には固有の明るさがあり、その明るさが対比の強弱になっています。これを明度対比といいます。対比の意味は元々コントラストという言葉が日本では使われています。最も強い明度対比は白と黒の対比です。つまりコントラストが最も強い配色ということです。
 無彩色の対比は色味がないシンプルな感覚が特徴です。白は単純に光であり、黒は色味としての刺激をまったく持っていないため、落ち着ける環境になります。無難な対比なので使用する人が多いといえます。一見するとしゃれた雰囲気ですが、個性的ではありません。
 中国では古来より陰陽の思想があり、白と黒の対比には並々ならぬ意識が養われてきました。そうした中で生まれたゲームが囲碁です。ヨーロッパで誕生したチェスボードも白と黒の対比を表現したものです。交互に配置された白いマスと黒いマスが、美しい格子模様をつくり出しています。
 日本には白と黒の対比を利用したものが数多く存在します。熊本城の天守閣は白と黒の美しいコントラストを誇っています。
 これに近いコントラストの強い配色は黄と黒です。最も遠方より視認できる対比として交通標識や危険注意などに使われています。
 明度対比でお互いの明度が近くなると明快さがなくなり混沌としたイメージになります。コントラストが強いということは見る人への刺激が強くなります。それはインパクトが強くなるということで、誘引性や印象性が同時に強くなることを意味しています。
 そこで、配色のルールとして、「隣接する色同士、コントラストを付けなければならない」が生まれました。このルールは配色における基本として最も重視されているもののひとつです。明度差を付けることによって、空間は生き生きとしたものになります。ただし、コントラストが強すぎると刺激も強くなり、それだけそこにいる人は疲労が増すため、マックスの対比は場所によって避けた方がいいといえます。(図❸)
図❹ 色相対比と高揚感
遊園地の配色はほとんどが色相対比で行われている。色味が多くなると気持ちが高まる。
同じ色でも背景の色によって見え方が異なる。赤地の橙は黄味を帯び、黄地の橙は赤味を帯びる。
下地の色との関係が文字の可読性に影響する。明度差の影響も大きい。
色相対比と高揚感
 色相対比は色味の性質が関わってくるためイメージの表現が生じ、感情的な刺激が豊かになります。それぞれの持っている色の性質が近ければ統一感による美的効果となり、性質が反対の場合は激しいハレーション効果を生みます。
 色相対比といっても純色だけでないので、それだけイメージにも幅があることになります。彩度が低い色同士の対比では優しさが増したり、彩度が高く純色に近い色同士の対比ではエネルギッシュな活動が感じられたりします。
 文字における色相対比を見ると、対比の働きがよく分かります。赤地の上の黄の文字は見えやすい(可読性が高い)ですが、青の文字は見えづらい(可読性が低い)です。赤と黄は明度の差が大きく明度対比から見てもコントラストが強く明快さがあります。一方、赤と青は明度が近く混沌とした対比効果となっています。
 文字の可読性は色相と明度が大きく関わっています。最も可読性が低いのは同明度の色相対比です。結局、明度対比が形を認識する上で重要であることが分かります。
 色相対比の特徴でもある生理的効果は感情的な刺激になりますが、この刺激は明度対比では出すことができません。感情への刺激を計画的に応用すると、人の心理を高陽させる力にすることができます。色味の対比は生理的な刺激により、ワクワク感の演出が可能になります。特に補色に近い色相対比では激しく感情を揺さぶることができます。
 室内ではそれほど多くの色を使わない傾向がありますが、それだけに1色が占める面積は大きくなります。面積が大きい色同士の対比はインパクトも強くなります。(図❹)
図❺ 彩度対比は審美性に深い関わり
彩度の低い配色では少しでも色味のあるものが空間のキーとなる。彩度対比は美的効果があり、高い芸術性が感じられる。
同じ色でも彩度が低い背景である場合、鮮やかさを増す。
彩度対比と統一感
 彩度対比は色の鮮やかさの対比です。同じ色相の色でも隣接する色によって色味が異なって見える効果です。たとえば、同じ色でも周囲の色によって鮮やかさが違って見えます。
 これは、同じ色でありながら周囲の色によって異なる色に見える錯覚の1種といわれています。
 周囲の色の彩度が高く鮮やかな場合、彩度が下がり発色が鈍って見えます。たとえば、同じ家具でも置く場所によって彩度が異なって見えるということです。絵画でも、彩度の高い空間に飾ると、発色が濁って見えます。逆に彩度の低い空間では、発色の効果が上がり鮮やかに見えます。
 彩度対比の場合でも彩度の差が大きいほどその効果も大きくなります。差が小さいと色味が近くなり、その境がぼけてきます。見る人に曖昧な印象を与え、泥沼のような感覚になります。
 彩度対比の場合は同一色相か同系色の関係が中心になるため、色味の統一感が得られます。これまでにも述べてきましたが、色の統一感は美に通じており審美性に深く関わっているといえます。彩度対比で程よいコントラストの場合は格調の高い美が得られます。
 彩度対比だけでなく美は色の対比によって得られます。これまでの色彩で使われてきた調和ではなく、程よい対比こそが生き生きとした美に繋がることを覚えておいてください。(図❺)
図❻ 補色対比は空間に活力を与える
重厚な色味の補色対比だが、空間を活性化している。補色をいかに対比させるかは建築における重要な手段といえる。
緑と赤は明度がほぼ同じなのでハレーションが最も激しくなる。明度差が大きいとインパクトが強まる。
補色対比による活性化
 色相対比の中で、最強のコントラストを発揮するのが補色対比です。純色同士の場合はマックス状態でのコントラストになります。
 補色対比の一番の特徴は接している部分でハレーションが生じることです。ハレーションはチカチカする現象で、目の焦点が定まらないような視覚を指しています。バイブレーション(ぶるぶる震えているように見える)とかフラッシング(ピカピカ光るように見える)などともいいます。
 補色対比の特徴はハレーションによって視線を引き寄せる効果があります。そのため補色対比が用いられた配色は目に入りやすく、強いインパクトを感じます。補色対比だけではありませんが、人は光るものに目が引かれると同時に大きな刺激を受けてしまいます。
 補色対比の特徴は、互いの色の性格を引き立て、生き生きと見せるところがあります。それはハレーションの効果ともいえるものです。チカチカすることによって色光に近い発色となり、その色の特徴が増幅されるからです。それが空間全体に波及し、生き生きとしたものにしてくれます。
 活性化された空間は生活行動にも深く関わっており、やる気さえかき立ててくれます。そのため、補色対比による活性化は種々のものに応用されています。
 補色対比の中で最も多く用いられているのが赤と緑です。赤と緑は明度がほとんど同じであるため、ハレーション効果が最も高くなります。黄と青紫の補色対比は、明度の差が大きく明度対比の効果が強くインパクトは強いですが、ハレーション効果はそれほど高くありません。
赤と緑の補色対比は、料理などにもよく用いられています。刺身にはつまが添えられていますが大根の他に大葉などが使われています。赤味の刺身に緑の大葉、これは補色対比になっており、互いに生き生きして見せる効果があります。クリスマスの配色も赤と緑の補色対比になっていますが、ワクワク感を増幅させる効果が発揮されている例です。(図❻)
図❼ 縁辺対比は錯視効果として使える
元々陰影が付いているので立体的に見えるが、縁辺対比がさらにそれを増幅させている。
明度の縁辺対比
両縁の明るさが変化して見える。
色相の縁辺対比
混色した元の色味が見えてくる。
色相の縁辺対比
混色した元の色味が見えてくる。
ハーマングリッド
ハーマングリッドは特殊な縁辺対比といわれている。交差点に見えないはずの点が見える。
縁辺対比と微妙な刺激
 段階的に明度が異なる色を隣接して配色すると、隣接している縁の近辺の明るさが変化しているように見えます。これを縁辺対比と呼んでいます。同じ色に見えなければならないはずの色が、縁の方だけ色味が変わります。
 縁辺対比が生じる理由は、人間だけでなく動物の視覚は色や形などの境界をはっきりとさせるために、境界線を強調して感じ取る働きがあります。これを側抑制といいます。
 光を感知する網膜を形成する視細胞は無数存在しています。その数は約1億個といわれています。隣接する色を見ると、その両方の視細胞同士が活動を抑制するため、境界線がはっきり見ることができます。
 縁辺対比には明度、色相、彩度によるものがあります。それぞれの属性の特徴に従って効果を発揮します。
 一般的に明度の縁辺対比がよく知られていますが、グレースケール(白から黒の段階的なグラデーション)の隣接する色の変化は際立っています。明るい色はさらに明るく、暗い色はさらに暗く見えます。
 隣接する色の明るさの変化は、空間に微妙な変化をもたらします。無機質な空間に息づかいが与えられ、人の気持ちに少しだけ近づきます。縁辺対比の無視できない特徴といえます。
 色相の縁辺対比では、赤から黄までの段階的グラデーションでは隣接する色味に変化が生じます。赤に近い色はさらに赤味を増し、黄に近い色は黄味を増します。黄から青のグラデーションでも同様に、黄に近い色はさらに黄味を増し、青に近い色は青味を増します。
 三原色以外の色は三原色による混色によって生まれるため、混色する原色の色味が強調されるところから生じる現象です。
 彩度の縁辺対比は文字通り隣接する色同士の鮮やかさが変化する対比です。彩度の高い色の方が色味を増し、彩度の低い方はより鈍くなります。2色の面積の差を広げるとその効果も高まります。
 彩度の縁辺対比の特徴は感情的な刺激を与えるものになります。より鮮やかに見えるのは、実際には眼の錯覚なのですが、その色が持つ生理的な刺激が影響し、感覚に作用するからです。
 縁辺対比の中で特殊なものがあります。ハーマングリッドと呼ばれる格子模様の交差点に生じる暗い影の点がそれです。生じる原因については諸説ありますが、理由はどうであれ誰でも見ることができます。
 これも一種の錯覚なのですが、本来存在しないものが見えてしまうというところから色彩学の本では必ず掲載されています。黒の格子模様では黒い点、赤い格子模様では赤の点が生じます。
 ハーマングリッドは有名なのですが、空間においてはほとんど見ることがありません。壁などの模様に応用すると面白いかもしれません。(図❼)

 次回は色のバランスとアクセントカラーの役割について解説します。
南雲 治嘉(なぐも・はるよし)
デジタルハリウッド大学・大学院名誉教授、先端色彩研究所代表(先端色彩研究チーム/基礎デザイン研究チーム)、上海音楽学院客員教授、中国傳媒大学教授 先端デザイン研究室、一般社団法人日本カラーイメージ協会理事長、株式会社ハルメージ代表取締役社長
1944年 東京生まれ/1968年 金沢市立金沢美術工芸大学産業美術学科卒業
著書『デジタル色彩デザイン』(2016年)/『新版カラーイメージチャート』(2016年)
カテゴリー:その他の読み物
タグ:色彩