根津神社の「間」
思い出のスケッチ #287
河野 有悟(東京都建築士事務所協会台東支部)
台東区と文京区の境には坂道が多く、緩やかな地形の変化が街を豊かにしている。平面的な地図の世界や、交通機関に頼った点から点への移動ではこうした地形は感じにくい。時には自分の足で自分の街を歩きながら、地形と景観を身体を通して感じたい。今後の景観づくりに活かすためにも、歴史ある緑豊かな景観の成り立ちを学ぶことを、街を歩き、感じることから始められたらと思う。
交通量の多い不忍通りを「千駄木二丁目」の交差点から本郷方面へ曲がり、「根津裏門坂」を上る。本郷通りの向丘一丁目へと至るこの坂の中腹あたりで、根津神社にさしかかる。こちらはいわゆる北参道だ。近くにはかつて森鴎外が住み、後に夏目漱石が住んで『吾輩は猫である』を書いた通称「猫の家」があった。現在は、建物は犬山の明治村に移築され、時を今へとつなぐ石碑が残されている。
傾斜のある地形は、坂道と街を豊かに彩り、長い時を経た大きな樹々を垣間見させてくれる。四季折々に、四月のツツジや、秋の紅葉などが眼前に迫る。人の心に残る景観が時の流れと共に生み出されきたことに、「歩く」という身体的な時間感覚のなかで改めて気づかされる。
スケッチは、北参道から現在の街にしてはスケールの小さな路地を回りこんだ先にある、楼門と唐門の間の空間を描いたものだ。ここにあるのは、ゆったりとした静謐な移動空間としての「間」。根津神社は重要文化財に指定された権現造りの社殿が有名だ。だが、風景を感じる対象は、建築そのものだけでなく境内に配された門や社殿が織りなす「間」にもあると思う。境内の奥へと歩き向かう移動のスペース、つまり何もない部分が生み出している空間に心惹かれる。
河野 有悟(こうの・ゆうご)
建築家、河野有悟建築計画室主宰
1969年東京都生まれ/1995年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業/1995-98年早川邦彦建築研究室/1998-2002年武蔵野美術大学建築学科研究室助手/2002年-河野有悟建築計画室