深大寺の秋
連載:思い出のスケッチ #288
河野 有悟(東京都建築士事務所協会台東支部)
このスケッチは調布市にある深大寺の本堂を描いたものである。描いたのは、今から25年前。私が美大の建築学科を目指していた浪人生のころ。共に同じように建築を志す仲間と過ごした貴重な時期だった。
美大入試の実技試験のために、立体構成、平面構成、デッサンや水彩画を通して空間を読み解いたり、組み立てたりすることを繰り返した。これは建築を学ぶ基本的な眼差しや姿勢を徹底してトレーニングできたいい機会となった。
この絵の季節は晩秋11月。本堂横のムクロジの大木は見事に紅葉していた。試験を近くに控えて、自分の住む地域の建築を描きたいと思った。長い時を刻んだ建築と、それらを育む空間。境内には小川が流れ、木々の彩りとほどよい高低差の小道がつくる豊かな空間が広がっている。数日間、自転車にパネルを抱えて境内を駆け抜け本堂に通った。落ち葉を掃除する住職の姿。挨拶をし、二、三言葉をかわした。お昼には深大寺そばを食べて、1日そこで過ごしていると、本堂の下に広がる境内からは時折、家族や子供たちの声も聞こえてくる。自分が子供のころに家族や友人と訪れた時のことも思い返された。
そう、風景というのは、建築や空間はもちろんのこと、こうしたさまざまな人びとによって満たされて活き活きと立ち上がるものだと、スケッチを描きながら感じたことを覚えている。
街や地域にとって寺院の存在は、古くから人びとの繋がりの場としてコミュニティや文化に深く関わるものであり、深大寺はそうした雰囲気を残し、豊かな空間を継承していた。このスケッチを通して、建築を志した当時の空気と共に、建築と共にある街の広場やオープンスペースが、こうした人の繋がりを育むものであって欲しいと思いを馳せる。
河野 有悟(こうの・ゆうご)
建築家、河野有悟建築計画室代表
東京都生まれ/1995年武蔵野美術大学建築学科卒業/1995-98年早川邦彦建築研究室/1998-2002年武蔵野美術大学建築学科助手/2002年-河野有悟建築計画室