在職老齢年金(以下、「在老」という)制度とは、就労し、一定以上の賃金を得ている60歳以上の老齢厚生年金受給者を対象に、当該老齢厚生年金の一部または全部の支給を停止する仕組みのことで、令和4(2022)年4月に60歳台前半の方に適用される在老の支給停止基準が、65歳以上の方に適用される在老に揃えられ、一本化されました。
在老の計算式自体は簡単なものですが、各項目に変動要因があること、また支給停止対象者は在職受給権者の17%、全額支給停止対象者は8%の方々が対象となっていることもあり、計算に際し留意すべき点について解説します。
在老の計算の仕組みと注意点
年金額のうち、加給年金額*1を除いた老齢厚生年金の報酬比例部分の月額のことです(老齢基礎年金は在老制度の対象とはならず全額支給されます)。
年金額とは、「年金証書・年金決定通知書」、「年金改定通知書」等に記載されている年金額になります。
なお、従来65歳以降の加入期間分の年金額は、退職時や70歳到達時の資格喪失時でなければ改定されていませんでしたが、令和4(2022)年度より在職定時改定の制度が導入され、65歳から70歳になるまでの厚生年金保険被保険者の老齢厚生年金額が毎年9月1日を基準日として基準日の属する月前(前年9月から当年8月まで)の加入記録に基づいて改定され、毎年10月分から年金額が増えることになりました。改定後の年金額は支給額変更通知書で通知されます。
標準報酬月額40万円の方で毎年年額にして約26,000円(月額2,200円)ほど年金額が増加しますが、年金の支給停止額に影響が出るケースもあります。
【総報酬月額相当額とは?】
総報酬月額相当額とは、
(①その月の標準報酬月額)+(②その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
で計算されます。
① について。
計算月の標準報酬月額を指します(上限65万円)。
定時改定・随時改定等に伴い変動しますので、給与の変動があった際は標準報酬月額の変更がないか確認してください。
② について。
その月以前の1年間とは、たとえば6月の在老計算であれば前年7月から当年6月までを指します(標準賞与額の上限は1月当たり150万円)。
年度での計算ではないので注意してください。
【支給停止基準額とは?】
支給停止基準額は、現役男性被保険者の平均月収(ボーナス含む)を基準に名目手取り賃金変動率*2に従い改定されます。
令和5(2023)年度は48万円ですが、過去には46万円、47万円の年度もあり、年金の支給停止額に影響がでるケースもあります。
*1:「加給年金」とは、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方が、65歳到達時点で、その方に生計を維持されている配偶者または子がいるときに加算される年金版扶養手当のことをいいます。年金が全額支給停止される場合は加給年金も支給停止となります。
*2:「名目手取り賃金変動率」とは、前年の物価変動率に2年度前から4年度前までの3年度平均の「実質賃金変動率」と「可処分所得割合変化率」を乗じたもので、実質的な賃金の変動を示す指標になります。
中村 正敏(なかむら・まさとし)
社会保険労務士、なかむら社会保険労務士事務所
1980年 横浜国立大学経済学部卒業/大手メーカーにて、国内営業、海外営業を経た後経営企画部門にて25年間経営計画の立案、連結管理に携わる/現在、台東区上野にて開業中。就業規則の作成・改訂、助成金を中心に活動中
1980年 横浜国立大学経済学部卒業/大手メーカーにて、国内営業、海外営業を経た後経営企画部門にて25年間経営計画の立案、連結管理に携わる/現在、台東区上野にて開業中。就業規則の作成・改訂、助成金を中心に活動中