西湖いやしの里根場
連載:思い出のスケッチ #285
写真:根岸 さえ子「窓を開ければ」 文:紙屋 宮本 重男
 昭和四一年、山梨県足和田村
 秋雨前線と台風二四号の影響で、九月二〇日から降り続いていた雨。そこに追い討ちを掛けるように、二五日夜半、台風二六号が山梨県に入り、一時間で通り抜けていった。大量の水を含んだ山腹は耐え切れなくなって未明に土石流となって沢を下った。四一戸の根場集落のうち三七戸を飲み込んで多数の死傷者を出す大惨事となった。

 平成十八年、山梨県富士河口湖町
 あの時から四〇年、平成の大合併で富士河口湖町になった西湖根場地区の災害跡地に、鎮魂と伝統文化の保存、伝承を目的に当時を偲ばせる集落がオープンした。

 平成二七年、西湖いやしの里根場
 年間二五万人の人びとが、目の前に広がる雄大な富士山、甲づくりの懐かしい茅葺集落、和紙や陶芸等の体験を楽しんでいる。
 根岸さえ子さんの「窓を開ければ」は、施設の最高地点にある見晴らし屋二階からの眺めを、西湖いやしの里根場で見つけた風景として切り取ったものです。二〇棟以上ある茅葺集落の向こうに樹海が広がり、その前方に日本画家片岡球子が描いた西湖からの富士山が太古よりの歴史を秘めて私たちを静かに見守っています。
宮本 重男(みやもと・しげお)