イェール大学芸術・建築学部棟
連載:思い出のスケッチ #284
遠藤 勝勧(遠藤勝勧建築設計室)
 一九六五年の秋、ニューヨーク滞在中、いろいろな都市に建築を見に行きました。
 ペンシルヴァニア大学には朝暗い四時頃ニューヨーク、セントラルステーションで列車を待ちました。インフォメーションらしいものは皆無です。列車の出発が近づくと、駅員が新聞紙一頁程度の黒板にチョークで列車の行き先とホーム番号を書き込み、鈴を鳴らしてロビーを回ります。それを見て私はホームに降り、長く連結された客車の前方二両に電灯が点灯されている客車に乗り込みました。点灯された客車が混み出すと次の客車が点灯され、その合理性に感心しました。
 イェール大学に行く時は、生まれて初めて高速道路を走るバスに乗り込み、運転席のすぐ後ろに座りました。そしてバスの運転手の動作をじーっと観察すると、まず前方を見、即左後方を見、また前方を見、即右後方を見る規則正しい運転を見ながらニューヘヴンに到着しました。バスを降りる際、運転手にそのことが凄いと話すと大変喜びましたので、今日中に貴男の運転するバスはニューヨークに戻りますかと聞くと、十六時何分ここを通ると言われそのバスに乗る約束をしてイェール大学に着きました。まず初めに大学内の芸術・建築学部をのぞくと、日本からの留学生、井出一済氏と納賀雄嗣氏にお会いでき、エーロ・サーリネン設計のインガルス・ホッケーリンクなど学校内をくまなく案内していただきました。
 ここに掲載しましたスケッチは、ポール・ルドルフ設計の芸術・建築学部棟です。
 短い時間の見学でしたが五十年を過ぎても忘れられないことは、自分の手で測り、触り描いたスケッチのお陰です。
 約束した運転手のバスに乗り込み、最高の気分でニューヨークに戻りました。
遠藤 勝勧(えんどう・しょうかん)
1934年東京生まれ/1954年早稲田大学工業高等学校卒業/1955~94年菊竹清訓建築設計事務所にてホテル、オフィスビル、商業施設、美術館等教育施設、個人住宅等の設計に携わる/1995年遠藤勝勧建築設計室を設立 主宰として現在に至る