消防の「無窓階」
東京消防庁からのお知らせ⑨
東京消防庁予防部予防課
1 はじめに
 建築基準法では、居室に対する採光に有効な部分の面積や排煙上有効な開口面積が基準を下回る居室を、窓その他の開口部を有しない居室=「無窓の居室」と呼び、構造、内装、避難施設等の規制が厳しくなっています。
 消防法にも、避難上又は消防活動上有効な開口部がない階を示す、「無窓階」という似た用語があります。居室単位ではなく、階に対して有効な開口部が一定以上あるものは普通階(会話の中では有窓階と呼んでいる場合もあります)、ないものは無窓階と規定されています。
 消防の無窓を判断するための開口部は、大きさや、床面から開口部下端までの高さ、開口部に面する通路や、開口部の外側の格子等の有無、良好な維持管理状態が条件になっています。建築の無窓の考え方と大きく異なる点は、開口部を人が通るという視点があることといえます。
 無窓階は、普通階に比べ避難や消火活動が難しいため、消防用設備等の設置基準が厳しくなっています。
2 開口部の割合
 普通階とは、有効な開口部の面積の合計が、その階の床面積の30分の1を超えるものをいいます。一般的なはしご車が届く10階までの階では、窓等の外から活動が有効に行えることを想定して、有効な開口部のうち2カ所以上を大型開口部とする必要があります。
表 普通階の開口部の割合
3 開口部の位置
 開口部を設けてもその開口部にアクセスしたり、その先の避難ができなければ意味がありません。そこで、消防法施行規則では、10階以下の開口部は道又は道に通ずる幅員1m以上の通路その他の空地に面していなければならないと規定されています。
 図1のような場合、Aの面は道路に、B及びCの面は道に通じる幅員1m以上の通路にそれぞれ面しているので、A、B、Cの面にある開口部は有効な開口部になる可能性があります。しかし、Dの面は道に通じる通路が1m未満のため、Dの面にある開口部は有効な開口部にはなりません。
図1 開口部の面する道及び道に通ずる通路
4 開口部の大きさ
 消火活動を行う消防隊員は、防火衣という分厚いジャケットとパンツを身に着け、長靴をはき、首までが布で覆われたヘルメットをかぶり、さらに空気を吸うためのマスクをして空気のボンベを背負っています。(図2参照)
図2 消火活動のイメージ
 消防隊員が、外から入ることができ、建物内の人を救出したり、消火活動をしたりすることができる開口部が必要なため、消防法上の有効な開口部及び大型開口部は図3のように定められています。
図3 有効開口部・大型開口部
5 開口部の構造
 消防法施行規則では、格子など内部から容易に避難することを妨げる構造を有しないことと、外部から開放し、又は容易に破壊することにより進入できるものとすることが規定されています。室内から開放して避難できる必要がある点は、建築基準法の非常用進入口とは異なります。
 大きさを確保しても、床面から非常に高い位置にある場合は、避難ができず、進入した消防隊員も床面に落下してしまうおそれがあります。そこで、床面から開口部の下端までの高さを1.2m以下とすることが規定されています。
 ひとくちに開口部といっても、扉、シャッター、ガラス窓など様々な開口部がありますので当庁では種類ごとに有効な開口部と取扱うことができる構造を示しています。
(1)窓
 窓の形状(引き違い窓、片開き窓、はめ殺し窓、突き出し窓、回転窓等)、ガラスの種類、ガラスの厚みによっても異なり、破壊できないガラスを使用した場合は、有効な開口部とはなりません。
 例えば、厚さ6.8mm以下の網入りガラスを使用した引き違い窓の場合、室内からはクレセントを開けて、屋外からは窓の一部を破壊して、片側の窓を開放するので、開放した部分が十分に大きければ、有効な開口部となります。(図4)
 なお、同じガラスを使用しても、はめ殺しの場合は有効な開口部にはなりません。
 また、超高層マンション等で厚さ5mmを超える強化ガラスを使用している場合は、有効な開口部にならないため、どれだけ多くの窓があっても無窓階になります。
図4 引き違い窓の場合の有効な開口部の考え方
(2)軽量シャッター
 軽量シャッターでも、火災の煙を感知し鍵が解錠されて屋内外から手動で開放できるもの、屋外から常時手動で解錠できるサムターン付きのもの、避難階に設けられ消防隊が特殊な工具を使用せずに容易に開放できるもの等は、有効な開口部と取扱います。
(3)防火シャッター
 防火シャッターでも、防災センター等から遠隔操作で開放できるものや、水圧開放装置を備えたものは、有効な開口部と取扱います。
6 おわりに
 建築計画時に、無窓階とならないように開口部の配置を検討し設置しても、その後格子を取り付けたり、厚いフィルムを貼ったりすると無窓階になってしまうことがありますので、適切な維持管理が必要です。
 また、隣に建築物ができる等周囲の状況が変わることによって既存の建築物が無窓階となってしまう場合は、既存建築物には何も変更がなくても無窓階として必要な消防用設備等を設置しなければならないと解されていますので注意が必要です。
記事カテゴリー:建築法規 / 行政