1 はじめに
火災が発生した場合に、避難や消火活動が困難である高層建築物や地下街、被害が大きくなることが懸念される不特定多数の人が利用する建築物等では、火災の初期段階で火災の拡大を抑制するために、カーテン、じゅうたん等は防炎性能を有するものとすることが消防法で義務付けられています。防炎性能とは、建築基準法の「不燃」性能とは異なり、あくまで「燃えにくい」性能をいいます。たばこやライターなどの小さな火種に接触しても、その部分が焦げる程度で容易に燃え上がらず、万一着火しても火炎の伝わりや、燃え広がりを抑制します。
一般品と防炎性能を有するもの(防炎品)との燃え方の違いを写真で示します。
防炎品には、消防法により使用が義務付けられる「防炎物品」と法令規制のない「防炎製品」の2種類があります。
2 防炎物品
消防法令による防炎規制は、昭和23(1948)年に東京都の火災予防条例で公衆集合所の装飾用材料の防炎処理について規定されたことにより始まりました。その後、昭和33(1958)年の東京宝塚劇場火災、昭和41(1966)年の水上温泉火災など、舞台幕やじゅうたんなどの繊維製品を延焼媒体とする被害の大きな火災が相次いだことを受け、昭和43(1968)年に消防法に規定され全国で防炎規制がされることとなりました。(1)防炎規制の対象となる防火対象物
消防法による防炎規制の対象となる防火対象物は、次の3つのグループに分けられます。
① 高層建築物及び地下街
② 劇場、飲食店、物品販売店舗、ホテル、病院等、不特定多数の人が利用する用途、容易に自力避難ができない人が利用する用途、可燃物量が多い用途等、火災が発生すると大きな被害が予想される防火対象物
③ 工事中の建築物その他の工作物
(2)防炎対象物品
消防法による防炎規制の対象となる品目を「防炎対象物品」と呼びます。防炎対象物品には、次のものがあります。
① カーテン
② 布製のブラインド
③ 暗幕
④ じゅうたん、毛せん、ござ、人工芝、タフテッドカーペット、ニッテッドカーペット、接着カーペット
⑤ 展示用の合板
⑥ どん帳、舞台において使用する幕、舞台において使用する大道具用の合板
⑦ 工事用シート
これらが対象とされているのは、カーテンやどん帳のように垂れ下がっているものや、展示用合板のように立ち上がっているものは、着火すると一気に天井まで燃え広がりやすく、じゅうたん等は、たばこなどが落下し着火すると室内のほかの可燃物に燃え移りやすいためです。
これらの防炎対象物品のうち、燃焼試験により基準以上の防炎性能を有すると認められたものを「防炎物品」と呼びます。
(3)防炎表示
防炎物品は、目で見たり、手で触ったりしただけで性能の有無を判別することや、実際に燃焼試験をすることは困難です。そこで、防炎物品には防炎性能を有することを示す防炎表示「防炎ラベル(図3)」が、カーテンは裏側の折り返し部分、じゅうたんは接着するものは部屋の隅、接着しないものは裏側などに貼付されています(図4)。
防炎ラベルを貼付できるのは、消防庁長官の登録を受けた者に限ります。
3 防炎製品
(1)防炎製品防炎製品は、公益財団法人日本防炎協会が自主的な制度として、消防法で規制している防炎対象物品以外の布製品などを対象に、一定基準以上の防炎性能を有することを認定したものです。対象は、寝具類、防災頭巾、エプロン、パジャマをはじめとする衣服、布張家具、ローパーティションパネル、木製ブラインド、自動車カバーなど、多岐にわたります。防炎製品の認定は、身の回りの製品を防炎化することによる火災予防のために総務省消防庁から通知がされ、昭和49(1974)年から始まりました。
防炎製品の使用は、消防法で義務付けられていませんが、住宅火災は、ストーブの炎が寝具に、調理中のコンロの炎が衣類の袖に燃え移ることで発生するものも多く、延焼拡大し、特に高齢者の方が多く亡くなられている現状をみると、着火する危険のある布製品を防炎化することはこれらの火災の防止に効果が期待できるため、防炎製品の普及を促進しています。
(2)防炎製品ラベル
防炎製品にも、防炎性能を有することを示すため「防炎製品ラベル(図5)」が貼付されています。
4 おわりに
冬は、火災が起こりやすく、空気も乾燥しているため火災が発生した場合には延焼しやすい時季です。工事現場で使用する工事用シートは必ず防炎物品としてください。
また、インテリアデザインの際、カーテン、じゅうたんだけでなく、天井などに使用する装飾用の布やサンシェードなどは、防炎品を使用するようにしてください。