アンケート:行政庁の建築確認について
寺田 宏(東京都建築士事務所協会理事、法制委員会委員長)
はじめに
 東京都建築士事務所協会法制委員会では建築士事務所を取り巻く環境、行政の方針、考え方について調査、研究する活動の一環として、平成28(2016)年7月に行政庁の建築確認審査についてのアンケートを実施しました。このアンケートは平成25(2013)年度に実施したアンケートと継続性を持たせるため、25年度よりの3カ年の実績について同内容、あるいは関連内容の質問を設定して実施しました。
 実施に当たっては各行政の関係者の皆様、支部長・会員の皆様の多大なご支援、ご協力で、東京都下33の行政庁より回答を得ることができ、今回その内容を公表することとしました。
 なお、同時に耐震診断、設計、工事の実績や補助の現状についても設問を設けアンケートを実施しましたが、その内容についてはデータの整理、調整に時間を要しており、別の機会を設け公表することとしましたので、ご了承ください。
図1 行政庁による確認審査の件数の推移
図2 民間機関による確認申請の比率
行政庁での確認審査は減少傾向、
民間機関が90%以上
 前回調査の平成22(2010)年度実績から今回実施の平成27年度実績までの行政庁による確認審査の件数の推移を図1に示します。平成24(2012)年度と25(2013)年度だけはほぼ同件数でしたが、減少傾向は変わらずほぼ毎年20%以上の減少傾向が見て取れます。
 民間の指定機関への確認審査の移行が進み続けていることがわかります。これは別の設問の結果からもうかがえます。(図2)。
 近年は民間による事前審査を活用することにより審査期間の短縮を図るという目的も一因のようです。しかし、行政庁による現場確認・調査を伴う審査を避けて許可を取り、建物が完成してから法令違反が発覚するトラブルも発生しているようです。最近の指定機関での審査に起因する業務処分などのトラブルを鑑みると、事前相談を含めて確かな行政庁の指導を的確なタイミングで得ることも必要であると考えられます。
 各行政庁への「いちばん配慮しているポイント」、「いちばん留意してほしい項目」での複数の回答が下記の2点でした。
・避難規定に関する項目
・道路に関する項目
さらに複数の行政庁からは計画地の現地確認を行うことが挙げられています。行政庁の審査は現地確認を行うために、審査段階でそれがさまたげになることも指摘されています。
審査基準の成文化
 成文化の実施については16回答ありました(一部実施を含む)。4回答あった「予定を持つ」を合わせた20回答が成文化に取り組んでいますが、うち5回答は公表していないとの回答でした。これは平成25年度のアンケート調査結果より成文化につては2回答の増加となりました。しかし、いまだ半数近くが予定なしであり、成文化して公表は35回答中11回答に過ぎません。
 成文化については前回アンケートの報告(『コア東京』2015年5月号)にもありますが、公平性を審査する側、される側で共有することに意義があると考えられます。そのため、行政手続法第5条を受けて建築基準も成文化される方向であるべきですが、実施、公表はいまだ低い状況です。
 その実施率の上がらない点での要因を拾ってみますと、
・個別判断が必要である(一律基準の適用ではできない)。
・情勢の変化に成文化された基準が追随できない。
・成文化が法と勘違いされる。
・成文化で運用が硬直化する。
・別の基準に準じたガイド(質疑応答集、適用事例集等)を活用することで十分である。
などでした。これはこの後の設問でも上がっていますが、審査請求の件数の増加などに見る判断基準の説明責任と建築物の当該性の一致が要求されるために、一律の基準が適用できない点にあるものと考えられます。
建築確認制度の問題点
 多くの行政庁から現状の課題として複数回答があった点は、
・現地調査の実施
・避難設備の厳格な計画
の事項でした。
 現地調査については設計にあたって現地の確認を十分行うことが指摘されています。当該地によりそれぞれ状況が異なる中で、現行法規、条例を解釈することが求められます。その場合、現地の正確な事情と甘くない法解釈の必要性が指摘されています。
 避難設備についても同様です。安全に関わる点のために現行の法文に対して厳しく解釈して設計を進めることが要求されています。
 行政庁、民間審査機関の解釈の差が後の問題点を引き起こすことが考えられるため、当該性を持って早い段階で行政庁との協議が必要であると思われます。
 次に指摘事項として図面の内容の精度が挙げられています。適法性を判断できるだけの内容が図面中に盛り込まれて申請されているかというということです。図面審査の過程で合法性が確認できないために審査が遅滞することがあるとの指摘です。
 建築基準法や東京都安全条例等においての民間機関との判断が異なった事例については、
・避難について、特に窓先空地について
・小屋裏収納
等について回答がありました。
 今回のアンケート調査においては、個別の要素として特定天井、エレベーター・エスカレーターの脱落防止について設問を設けましたが、回答事例は少なかったです。
明確な課題として
 いくつかの設問の回答に共通して、設計者へ要望事項として図面の整合性が指摘されています。
 特に建築図と構造図、設備図の整合性が指摘されています。適判手続きが単独でできる状況では、整合性が検査においても要望されます。
 さらに建築物省エネルギー法により、省エネルギー申請が確認申請に付随して実施される事態が4月以降起こるため、さらに精度のある整合性が完成された設計図に要望されます。今後は図面の作成プロセスまで含んでの課題とも考えられます。
最後に
 今回のアンケートの実施に当たっては行政の皆様、支部の皆様の協力により、回収が非常に迅速でした。この調査により設計事務所の業務がより的確、円滑に進むことにつながれば幸甚です。ご協力いただいた皆様に厚く御礼を申し上げます。
 常に遵法により発注者に安全で安心の建築事業を提供することがわたくしたち建築士事務所の使命です。法制委員会は今後も会員の皆様の業務に有意義な調査研究活動に努める所存です。
アンケート:行政庁の建築確認回答 p.1
アンケート:行政庁の建築確認回答 p.2
アンケート:行政庁の建築確認回答 p.3
アンケート:行政庁の建築確認回答 p.4
アンケート:行政庁の建築確認回答 p.5
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寺田 宏(てらだ・ひろし)
東京都建築士事務所協会理事、法制委員会委員長、中央支部副支部長、清水建設株式会社執行役員設計本部副本部長
1956年生まれ/京都大学大学院修士課程(建築学専攻)修了/1980年清水建設株式会社入社、清水建設株式会社一級建築士事務所/現在、同執行役員設計本部副本部長
記事カテゴリー:建築法規 / 行政