初めて審査委員長を務めさせていただきました。審査そのものに精一杯取り組むのはもちろんですが、同時にこの賞を通じて建築界が社会に向けて何を発信していくのか、その重みを考えさせられる審査にもなりました。
今年の応募総数は80作品。1次選考では、各委員が書類審査を行った上で、ひとつひとつの作品に対して十分な議論を交わし、時に投票も交えて現地審査対象32作品を選定しました。続く現地審査においては、1作品につき2名ないしは3名の審査委員が立ち合い、その後現地審査報告を全委員が共有したのちに、各賞についての議論を十分に交わした上で、すべての賞を決定しました。
今年の審査においては、さまざまな意味で審査する側の評価軸が試されるような作品が数多くありました。
中でも今年の審査を象徴したのは「BONUS TRACK」(株式会社ツバメアーキテクツ一級建築士事務所)です。小田急線の地下化に伴い生まれた地上の線形の土地に展開する、小さな建築群が生み出す商業施設です。建築の間に生まれた心地よい外部空間は、近隣の方々も含めて実に多くの人で賑わい、すでに地域の貴重な居場所として定着していることが感じられました。在来木造住宅のような、ある意味でアノニマスな建築を果たして評価して良いのか、という疑問も呈されましたが、企画段階から運営に至るプロセスに深く関わり、その一連の活動がこの活気に満ちた場の力に繋がっていることに疑いはなく、むしろこれからの建築家の職能を切り拓くものとして高く評価すべきとの結論に至り、一般一類部門の最優秀賞、および新人賞に選考しました。
「Rib」(一級建築士事務所株式会社御手洗龍建築設計事務所)は、街のどこにでもあるようなマンションの一室のリノベーションです。窓辺に居場所をつくることから発想された空間は、穏やかな薄い曲面壁の巧みな扱いによって空間に小さな場所性を生み出し、家族ひとりひとりの居場所と皆で集まる場所との楽しい関係性が築かれていました。ただ、この一室のリノベーションを共同住宅として評価するのは困難だとの意見もあり、リノベーション賞の受賞となりました。
「大山のいえ」(株式会社S設計室一級建築士事務所)も、やはりマンションのリノベーションですが、居室の一角を減築して外部空間化することで世帯間の関係性をうまく調停し、また半屋外での生活の可能性を拡張しているという点で魅力的な作品でした。今後の共同住宅のリノベーションのモデルにもなり得るとの判断から、共同住宅部門の優秀賞、そしてリノベーション賞の受賞となりました。
「武蔵野クリーンセンター・むさしのエコreゾート」(水谷俊博建築設計事務所一級建築士事務所、鹿島建設株式会社一級建築士事務所)は、とかく迷惑施設として忌避されるゴミ処理場を地域に開放し、さらに古い処理場をリノベーションして環境への意識を高める交流施設を併設したものです。都市が消費の中心として成長発展を遂げた過程でこうした施設は隠蔽され、他地域に押しやられてきましたが、こうした生活のありよう自体を問い直すことを、地域との継続的な対話を通じて建築に結実させたことは、多くの審査員の共感を呼びました。一般二類部門の最優秀賞、そして東京都建築士事務所協会会長賞の受賞となりました。
「FLATS WOODS 木場」(株式会社竹中工務店東京一級建築士事務所)は、都市部における木造化の試みです。使用している木材が少ないことに対する指摘はありましたが、木造化は、地球環境全体を考えた際に建築がとりうるひとつの有効な選択肢であることは間違いありません。その取り組みが質の高い建築によって都市部で具現化していくことの意義は大きく、共同住宅部門の最優秀賞、および東京都知事賞の受賞となりました。
「MIYASHITA PARK」も議論の尽きない作品でした。実際にでき上がった空間の快適さ、また多くの人に受け入れられている現実も含めて高く評価され、賞に値するとの声も強かった一方、公園が商業施設と結びついてしまうことによる公共の痩せ細りへの疑問も強く提示され、惜しくも選外となりました。
このように今回の審査においては、単にデザインの良し悪し、ディテールの美醜といった視点を超えた建築家の職能、あるいは建築の社会への貢献の仕方など、つくれば何でも上手くいく時代には想定もしなかったような視点で取り組んだ作品が具現化してきたことを実感する審査となりました。
こうした議論や取り組みが広く建築界で、社会で共有されることを願っています。
今年の応募総数は80作品。1次選考では、各委員が書類審査を行った上で、ひとつひとつの作品に対して十分な議論を交わし、時に投票も交えて現地審査対象32作品を選定しました。続く現地審査においては、1作品につき2名ないしは3名の審査委員が立ち合い、その後現地審査報告を全委員が共有したのちに、各賞についての議論を十分に交わした上で、すべての賞を決定しました。
今年の審査においては、さまざまな意味で審査する側の評価軸が試されるような作品が数多くありました。
中でも今年の審査を象徴したのは「BONUS TRACK」(株式会社ツバメアーキテクツ一級建築士事務所)です。小田急線の地下化に伴い生まれた地上の線形の土地に展開する、小さな建築群が生み出す商業施設です。建築の間に生まれた心地よい外部空間は、近隣の方々も含めて実に多くの人で賑わい、すでに地域の貴重な居場所として定着していることが感じられました。在来木造住宅のような、ある意味でアノニマスな建築を果たして評価して良いのか、という疑問も呈されましたが、企画段階から運営に至るプロセスに深く関わり、その一連の活動がこの活気に満ちた場の力に繋がっていることに疑いはなく、むしろこれからの建築家の職能を切り拓くものとして高く評価すべきとの結論に至り、一般一類部門の最優秀賞、および新人賞に選考しました。
「Rib」(一級建築士事務所株式会社御手洗龍建築設計事務所)は、街のどこにでもあるようなマンションの一室のリノベーションです。窓辺に居場所をつくることから発想された空間は、穏やかな薄い曲面壁の巧みな扱いによって空間に小さな場所性を生み出し、家族ひとりひとりの居場所と皆で集まる場所との楽しい関係性が築かれていました。ただ、この一室のリノベーションを共同住宅として評価するのは困難だとの意見もあり、リノベーション賞の受賞となりました。
「大山のいえ」(株式会社S設計室一級建築士事務所)も、やはりマンションのリノベーションですが、居室の一角を減築して外部空間化することで世帯間の関係性をうまく調停し、また半屋外での生活の可能性を拡張しているという点で魅力的な作品でした。今後の共同住宅のリノベーションのモデルにもなり得るとの判断から、共同住宅部門の優秀賞、そしてリノベーション賞の受賞となりました。
「武蔵野クリーンセンター・むさしのエコreゾート」(水谷俊博建築設計事務所一級建築士事務所、鹿島建設株式会社一級建築士事務所)は、とかく迷惑施設として忌避されるゴミ処理場を地域に開放し、さらに古い処理場をリノベーションして環境への意識を高める交流施設を併設したものです。都市が消費の中心として成長発展を遂げた過程でこうした施設は隠蔽され、他地域に押しやられてきましたが、こうした生活のありよう自体を問い直すことを、地域との継続的な対話を通じて建築に結実させたことは、多くの審査員の共感を呼びました。一般二類部門の最優秀賞、そして東京都建築士事務所協会会長賞の受賞となりました。
「FLATS WOODS 木場」(株式会社竹中工務店東京一級建築士事務所)は、都市部における木造化の試みです。使用している木材が少ないことに対する指摘はありましたが、木造化は、地球環境全体を考えた際に建築がとりうるひとつの有効な選択肢であることは間違いありません。その取り組みが質の高い建築によって都市部で具現化していくことの意義は大きく、共同住宅部門の最優秀賞、および東京都知事賞の受賞となりました。
「MIYASHITA PARK」も議論の尽きない作品でした。実際にでき上がった空間の快適さ、また多くの人に受け入れられている現実も含めて高く評価され、賞に値するとの声も強かった一方、公園が商業施設と結びついてしまうことによる公共の痩せ細りへの疑問も強く提示され、惜しくも選外となりました。
このように今回の審査においては、単にデザインの良し悪し、ディテールの美醜といった視点を超えた建築家の職能、あるいは建築の社会への貢献の仕方など、つくれば何でも上手くいく時代には想定もしなかったような視点で取り組んだ作品が具現化してきたことを実感する審査となりました。
こうした議論や取り組みが広く建築界で、社会で共有されることを願っています。
千葉 学(ちば・まなぶ)
東京大学大学院工学系研究科教授
1960年 東京生まれ/1985年 東京大学工学部建築学科卒業/1987年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了/2001年 千葉学建築計画事務所設立/2009年 スイス連邦工科大学客員教授/2013年 東京大学大学院教授/2016年 東京大学副学長/2017年 ハーバード大学GSDデザインクリティーク
1960年 東京生まれ/1985年 東京大学工学部建築学科卒業/1987年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了/2001年 千葉学建築計画事務所設立/2009年 スイス連邦工科大学客員教授/2013年 東京大学大学院教授/2016年 東京大学副学長/2017年 ハーバード大学GSDデザインクリティーク
カテゴリー:東京建築賞