テクノロジー+ 第13回
持続可能な社会に寄与するための外装システムの提案
松下 佳生(東京都建築士事務所協会賛助会員、YKK AP株式会社)
はじめに
 建築外装は社会的命題である環境配慮という観点から、ペリメーターゾーンの温熱環境向上を目指した環境配慮型システムや、多様化デザインを実現させるさまざまな要素技術が開発され、成熟期を迎えました。しかし、近年多発している未曽有の自然災害に対する建築物や、そこで働く人びとの安全・事業継続性、少子高齢化にみる建設現場での職人不足など、多くの新しい課題に直面しています。また、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す次世代への取組みも、さらに重要になってきています。
 外装メーカーとして、それらの課題を解決し、将来の持続可能な社会の実現に寄与するために、今までの技術を応用し、新しい考え方を付加した外装システムを、開発し提案することが私たちの役割と考え、今回3つの外装システムをご紹介します。
図1 現代社会の課題・ニーズに対応できる建築外装ソリューション
持続的な社会実現に向けた社会的課題と建築および建築外装ソリューションの関連性
3つの外装システム開発の背景
 現代社会の課題・ニーズに対応できる建築外装ソリューションの要素をまとめています(図1)。
 われわれは建築物を構成する外装メーカーですので、外装システムの考案にあたり社会的課題をしっかりと捉え、顧客である設計事務所やゼネコンの課題への取り組みである建築ソリューションに寄り添い、それらに対していかに貢献できるかが重要となります。
 環境保全と自然との調和へ向け、開口部やカーテンウォール(以下CW)の省エネ性能向上が重要になります。さらに、健康や感染症対策には、快適な室内空間づくりに貢献できる自然換気機能の充実が必要であると考えます。また、安全安心という観点では、近年多発している自然災害被害を最少にする対応力が重要であり、建築外装にとっても耐飛来物性能が非常に重要になってきています。そして、少子高齢化における職人不足などに対しては、現場での生産性向上が急務であり、そのための最適な供給方法が必要になってきます。
 このような背景より、さまざまな課題解決に貢献できる外装システムを開発し提案します。
図2 呼吸するダブルスキンシステム
省エネと自然環境との調和が可能なパッシブデザイン。
図3 呼吸するダブルスキンシステム外装詳細図
W1800を基本モデュールとした経済的割り付け。機能とデザインの融合を可能にした設計。
呼吸するダブルスキンシステム
 まず、呼吸するダブルスキンシステムです(図2)。
 一般的なダブルスキンシステムと同様、省エネ性能を期待できるだけではなく、高い自然換気機能を有したシステムです。基本モデュール1,800mm幅の端部に、300mm幅の自然換気パネルを設け、その外部側に防水性能と高いデザイン性を兼ね備えた縦ルーバーを設置した構造としています。このシステムは、豪雨時でも風速10m/s以下であれば、室内側の自然換気パネルを開放することで新鮮な外気を直接室内に取り込むことが可能です(図3)。
 また、インナースキンは、メンテナンス時だけではなく停電などの非常時に開放することで換気にも使用可能で、縦ルーバー部の自然換気パネルと合わせて、より安全で健康的な室内空間の実現に貢献します。ダブルスキンを構成するガラスは、アウタースキンに合わせガラスを採用することにより、飛来物に対する防御壁としても高い性能を発揮します。
 新型コロナウイルス感染症や、近年多発している自然災害を見据え、自然換気を最大限活用でき、安全安心なファサードシステムとして本システムを提案します。
図4 次世代型多機能窓
ニューノーマル時代のさまざまな要求に対応可能な窓システム。
図5 次世代型多機能窓外装詳細図
二重の開口部を基本として、環境性能・防犯・耐飛来物性能なども配慮した窓システム。
図6 次世代型多機能窓耐飛来物試験
JISR3109:2018「建築用ガラスの暴風時における飛来物衝突試験方法」に従って、プロトタイプによる試験を実施。
次世代型多機能窓
 次に、次世代型多機能窓です(図4、図5)。
 アウタースキンとインナースキンで構成される二重構造の窓システムになりますが、アウタースキンは要求性能に合わせて柔軟に着せ替えられる構造とすることで、意匠や性能を含めたさまざまな要求への対応が可能となります。インナースキンは3連窓で構成しており、中央部に眺望確保のための大きなピクチャーウィンドウを設置し、両袖に自然換気扉を配しています。中央部のピクチャーウィンドウは非常時の自然換気を可能とし、アウタースキンとの隙間から外気を導入することで、雨天時での自然換気も可能とします。また、両袖に配置した換気扉は直接外部に露出しているため、防災性能に配慮したアルミパネル構造にしています。
 窓を二重構造にすることは、単に省エネ性能に対してだけではなく、遮音性能や耐飛来物性能なども含めたさまざまな性能の向上に期待できます。耐飛来物性能については、JISR3109:2018「建築用ガラスの暴風時における飛来物衝突試験方法」に従って、プロトタイプによる試験を実施しましたが、アウターガラスとインナーガラスの中間層の見込寸法が大きいことが、非常に有利に働いており、高い耐飛来物性能が確認されています。(図6)。
 オフィスだけではなく、さまざまな建築用途にご活用いただき、環境性能・防犯・耐飛来物性能などの防災にも配慮した次世代型多機能窓システムとして提案します。
図7 中規模建築向けユニタイズドカーテンウォール
安全で高効率な施工を実現するカーテンウォール供給システム。
図8 中規模建築向けユニタイズドカーテンウォール基本設計図
中規模建築外装に必要な割り付け。意匠・性能(機能)を満足できるユニット構造。
中規模建築向けユニタイズドカーテンウォール
 最後に、建物高さ60m程度以下に適用する中規模建築向けユニタイズドCWです(図7、図8)。
 中規建築分野では、ノックダウンCWなどの採用が一般的ですが、足場が必要であったり現場作業が多かったりなど、現在の建築現場の課題を考えると今後は違う発想が必要になります。
 大型建築物の外装システムとして、すでに定着しているオープンジョイント方式のフロア to フロアのユニタイズドCWを、中規模建築向け専用に新しくアレンジしました。そうすることにより、工場製作ユニット化による足場を必要としない安全な施工を実現でき、長期的に安定した水密性能を有する高品質のカーテンウォールの供給を可能にしました。
 また、中規模建築物では、防火設備や排煙、換気、代用進入口などが必要となる場合が想定されますが、それらの機能をFIX部と同意匠となるようにシステムに取り入れ、デザイン性と機能性の両立を実現させています。
 現場での生産性向上に配慮し、中規模建築向けに最適化されたユニタイズCWとして提案します。
おわりに
 「呼吸するダブルスキンシステム」、「次世代型多機能窓」、「中規模建築向けユニタイズドCW」の3つの外装システムをご紹介しましたが、これらが社会的な課題に対するソリューションのひとつになればと考えています。また、今回は触れませんが、次世代テクノロジーとして機械化や自動化なども近々の課題として認識しており、IoTやAIを活用し、いかに現場での機械化や自動化、そして効率的で正確なCW施工を実現する技術開発にもしっかりと取組んでまいります。

※ご紹介の3つの外装システムは、「YKK60ビル」(東京都墨田区)にて企画展示「PROPOSAL 8th(プロポーザルエイス)」として実物大プロトタイプ展示をしています。PROPOSAL 8thは完全予約制のため、ご来館をご希望の際は、弊社営業担当までお気軽にお申し付け下さい。
松下 佳生(まつした・よしお)
YKK AP株式会社 専門役員 ビル本部 設計施工技術部 設計技術部長
1962年 兵庫県生まれ/1988年 同社入社/入社以来、国内および海外のオーダーメイドCWプロジェクトに従事/シンガポールなど海外勤務を経て、2019年より現職/一級建築士