都市・街・建築──まちづくりと建築社会制度 第❾回
建築密度の規制(その3)──建築容積の移転①
河村 茂(都市建築研究会代表幹事、博士(工学))
容積移転の意義
 建築容積移転の社会的背景としては、その根っ子にビル建設需要の高まりがあり、それに応えるべく地権者等から土地の有効・高度利用が求められることにある。しかし、対象となる建築敷地には都市計画等で容積率などの建築制限が課せられており、建築敷地の扱いにも限りがある。すなわち、建築基準法は「一建築物一敷地」を原則とし、敷地を「一の建築物又は用途上不可分の関係にある2以上の建築物のある一団の土地」と定義されている(令1.1)。また、用途上可分か不可分かは、建築物の用途面における機能上の関連性(利用形態)に着目して、個別事案に照らして総合的に判断される。
 たとえば、学校や病院、また工場など敷地全体がひとつの用途に供されている場合、当該敷地内の校舎や体育館、診療棟や病棟、作業所や事務所、倉庫などは、それぞれ用途上不可分で一体のものと見なされ、全体で一敷地として扱われる。さらに、建築敷地は原則、接する道路などを越えて設定できない。例外措置として、法は「一の敷地と見なすこと等による制限の特例」として、特定行政庁の認定を受けた場合、用途上可分であっても一部の規定について、全体を一敷地とみなして扱うことができる措置を講じている(法86条)。いわゆる一団地認定の制度である。用途上可分な複数の建築物がある敷地が一敷地として扱われると、容積率規制などにおいて設計の自由度が増し、建築計画上有利になる場合がある(半面、既存不適格用途における面積制限や、日影規制における複合日影による制限の強化など、不利となることもある)。
 こうした建築基準法の枠組みの中で、土地の有効・高度利用を求める社会の動きに対応し、容積移転を可能とする制度が漸次整備されてきた。これら容積移転の制度を十全に機能させるためには、関係者がその制度活用にあたり容積率規制の趣旨や考え方を十分理解しておくことが肝要で、また行政においても容積移転の手法を用いて実現したい、都市づくり上の政策目標を予め明らかにしておく必要がある。
 容積移転は、単に事業者の土地の有効・高度利用要求に応えるものではなく、都市づくり政策の具体の展開のひとつとして運用され、はじめて社会的意義が発揮され有効なものとなる。そこで容積移転という手法を活用して達成される行政目標であるが、これはひとつではない。たとえば、整備された都市基盤施設を活用し土地の高度利用を進め、都市活動を活発化させることも重要であろうが、現に有する良好な都市環境を維持したり、また新たに魅力的な都市環境を整えていくことも重要である。前者は目標としての密度計画を実現していく立場からのものであり、後者は容積移転制度の運用を通じ、政策目的に沿った都市づくりを進めていく立場からのものである。実際には、これらの行政目標はミックスされた形で運用されていく。
 それでは次に容積の移転を実現する手法であるが、東京都を事例にとると、これまで以下に掲げる概念、考え方に基づき、各種の容積移転制度の運用がなされてきている。
容積移転の手法
①共同建築による一敷地化
 共同建築とは、所有者の異なる隣接する複数の敷地間において、一方の敷地が法定限度まで建築物の建設を予定していない場合などに、共同ビル化する(建築基準法上、敷地を統合しひとつのより大きな建築敷地を生み出す)ことで、一方の未利用容積を他方の敷地へと移し替え、全体として土地の高度利用を図る考え方、手法のことである。
 建築の規制システムという面から捉えると、幹線道路など表の大通りに面した敷地と、その奥に位置する区画道路(幅員12m未満)に面した敷地とでは、都市計画上同じ容積率が指定されていても前面道路幅員などにより建築基準法上利用できる容積率には差が出てくる場合がある。このことが表側と裏側の土地の共同化を促すひとつの要因となる。民間で広く行われている共同ビル化事業や市街地再開発事業は、この代表的な例である。
 共同ビル化や再開発は個々の敷地ごとにビルを建てるのに比べると、裏宅地の表宅地化が図られたり、階段やエレベータまた廊下等の共用部分の占める割合が低くなるなどして、土地の使用収益性が向上、より経済的で合理的な建築物の建設が可能となる。また、建築物が新旧更新されることにより、時代にあった機能的で、しかも耐震性・不燃性の高い、防災上も好ましいビルの建設へとつながる。そして日照・採光・通風等の確保も容易となり、室内の環境水準も向上するし省エネ効果など環境性能の高いビルとなる。さらに、建築物周囲の外部空間に車寄せや駐車場、また緑やオープンスペースを確保することも容易となるので、近隣環境も良好なものとなる。
 このように敷地の共同化
を政策的に促すことは、健全な形態を備えた使い勝手のよいビルの建設を推し進めるだけでなく、地区環境の向上にも寄与し、良質な社会資本ストックの形成につながり、都市の活性化にも貢献する。  東京都においては共同化を促進するため、市街地再開発事業や特定民間再開発事業(税制措置)などの円滑な施行に向け、用途地域の見直しや都市再生特別地区、特定街区、高度利用地区の指定または再開発等促進区に係る地区計画の都市計画決定、総合設計許可などの手法を活用し、プロジェクトの規模や内容・性格に応じ、建築規制の合理化のほか、補助金の交付や税制面からの支援など積極的に対応している。
②協調建築による一団地化
 一団の広い土地に建つ複数の建築物相互を一体的にとらえ、協調的関係のもとに土地利用上有効に配置構成を図ることで、この一団の土地を容積率規制などにおいて一体の建築敷地とみなし、事実上各敷地間での容積の移し替えを行う手法。一団地計画は比較的敷地規模が大きくなるため、共同建築化に準じたメリットが発揮される。
 この手法は土地が一定の規模を有していないと、複数の建築物を有効に配置することが難しいので、適用にあたっては区域規模要件など一定の条件がつく。ただ、この手法を適用すると建築物を共同化することなく容積移転が可能となるので、土地の処分やビルの管理運営面において自由度が高まる。建築基準法に規定する「一団地の総合的設計(一団地認定)制度」は、この考え方に基づく手法である。
 東京都においては、幅員の広い道路に面した表宅地と、そうでない奥に位置する裏宅地との一体化による協調的な建築計画を推進するため、幹線道路等から奥の敷地に至る通路等のオープンスペースを確保したり、一団地内に広場や緑地等を整備する建築計画に対し、敷地規模や建築構造、また通路、空地、外壁の後退距離等について要件を定め、これを満たすものについては一定の範囲内で容積の移転を認め、土地の有効・高度利用を促進している。
③容積の再配分に向け地区計画化
 建築基準法上一の建築敷地の範囲は、道路を挟んだ反対側の土地の部分にまでは及ばない仕組みとなっているが、都市計画としてとらえた場合、道路の反対側の敷地まで取り込み、これら複数の敷地を一体のスーパーブロックととらえ、建築をコントロールした方が良好な街区計画となる場合がある。このような敷地(街区)については、提案される建築計画を睨み、都市計画的視点も加え、この地区の密度計画を練り直し、個々の敷地(街区)単位に新しく容積率を設定しなおすことも肝要となる。
 たとえば、大きな街区と小さな街区があり、双方の敷地にそれぞれいっぱいに建築物を建て、それぞれの建築物の周りに空地や緑地をとるよりも、建築物は主として大きな街区にまとめ、すっきりとした使い勝手のよいビルをつくる。その一方で緑とオープンスペースは小さな街区にまとめ公園風に設計することで、まとまりをもったより使いやすい公開空地となる。
 特定街区(複数街区)、容積適正配分型地区計画の制度は、このような考え方に基づく手法であり、道路を挟む敷地間での容積の移転を可能としている。
 それでは特定街区を例にとって、複数街区を計画する場合の留意点を示すと、次の通りである。
①複数の街区を一体のスーパー・ブロックとして扱うにふさわしい都市づくり上の意義がある。
②個々の街区それぞれを同時に都市計画決定する。
③個々の街区について特定街区扱いするにふさわしい面積規模をもっている。
④個々の街区(敷地)が特定街区として扱うにふさわしい一定の幅員を有する道路によって囲まれている。なお、主要な道路への接道については、複数の街区をひとつの特定街区とみなし、全体として接道要件を満たしていればよいことになっている。
事例紹介①(共同建築)「アトラス押上」(従前「ビレッタ朝日」)
写真❶「アトラス押上」。筆者撮影
図①建て替え前の敷地状況
出典:(一社)日本ビルヂング経営センター「ビル経営管理講座」
契機
 従前のマンション「ビレッタ朝日」は、1972年3月に竣工した地上10階建ての共同住宅で、住戸数は58戸であった。建物の老朽化が進む中、2010年にマンション管理組合理事長から、専門家に老朽化対応の相談が持ちかけられると、翌年には建物診断、耐震診断の実施が決まる。さらに、その翌年には再生検討委員会が発足、建物の老朽度判定及び耐震判定(Is値0.6未満)をふまえ、居住者アンケートが実施される。ここで居住者から安全性に対し不安が寄せられたことから、同年、建て替えに向けコンサルタントが選任され、耐震補強による改修案も含め検討がなされる。しかし、改修するとブレースだらけとなり居住性がよくなくなることから、この案は断念されるが、建て替え推進員会が設立され、コンサルタントを導入し建て替えに向け検討(建て替え決議まで20回開催)が開始される。
難題の発生と対応
 建て替え前のマンション敷地(共有地)は、ほぼ建物直下の部分に限られ、道路への接道も南側で2m程度しかなく、建て替えても5階建て程度にしかならないことが判明する。それは前面道路となる国道や南側道路に接するマンション敷地(共有地)周囲の土地の大部分を、マンション管理組合理事長(当該マンションの住戸、10数戸を所有)が所有していたからである。そこで理事長の承諾を得て、これらの土地を含め建て替えが計画される。しかし、それでも旗竿型の敷地となることから、事業として保留床を生み出すまでには至らなかった。
 そこでさらに国道に面して建つ木造住宅の敷地を取り込む案の検討が開始される。当該住宅敷地は、「ビレッタ朝日」を建てる頃までマンション管理組合理事長が底地権を有し、その後に借地人に譲った土地で、今日に至るも両者の関係は良好であった。そこで共同化を打診してみると、これら住宅敷地は将来、国道の拡幅整備が進むと半減され、再建築が難しいことが判明した。また、「ビレッタ朝日」の建築に伴い終日、陽が当たらなくなったこともあり、この地での居住継続と環境改善を求め、「ビレッタ朝日」の建て替えに加わりたいとの意向を持っていた。
 一体の敷地となれば未利用容積の活用も可能となり、事業成立に向け保留床を確保することができる。その後、東側に隣接する者も加わり、マンション権利者+隣接地権者5名の共同事業というスキームとなる。2013年に事業協力者を選定し、2014年4月に総会で建て替え決議を行う(賛成57戸、反対1戸)。この時、反対した者も売渡請求前の催告で賛成へと回り、結果、全員合意で等価交換事業へと進む。
 しかし、ここでまた難題が持ち上がる。マンションの建て替え決議の後、地元墨田区の集合住宅条例が居住水準の向上とワンルームマンション抑制の観点から改正され、「総戸数が50戸以上で、かつ半数以上を床面積40㎡以上の住戸が占める場合、総戸数の20%以上を70㎡以上の住戸とする。ただし、全住戸が40㎡以上の場合はこの限りでない」とされた。本マンションは従前30㎡ちょっとの床面積の住戸で、その後、世帯が小規模化し広い住戸を必要としない権利者が出てきた、また70㎡以上の住戸を多く計画すると市場性が弱まることもあり、結局、住戸規模を40㎡以上で対応することになる。この関係で、自己負担額が数千万円にも膨らむ権利者も出て、転出者が増加することになった。
 高齢単身世帯の増加という現実をふまえると、建て替え・居住継続の場合は、特例措置の検討が必要かもしれない。工事の方は翌年1月に解体に着手、新しいマンションは2017年8月に竣工した。
建て替え成立の肝
 本件マンションの建て替えが実現したポイントは、老朽化が進み建物使用上の不具合(結露、隙間風、ひび割れ、雨漏りなど)が生じていたこと、また東京都の都市防災施策として特定緊急輸送道路(災害時、救助活動や復興の大動脈となる道路)の沿道に位置していたことから建物の耐震診断が求められ、診断すると問題ありとなり、住民が建物の安全性に不安を抱くようになったこと。そして耐震改修等が必要な場合、解体費用などの補助を受けることができること。さらに、元地主が共通ということで、隣接地を含んで共同事業化を図ることで、未利用容積の活用(保留床の創出)が可能となったことが大きい。
【事業概要】
所在地:東京都墨田区向島三丁目1番
交通:東京メトロ半蔵門線「押上駅」徒歩9分
都市計画:商業地域(容積率500%)、35m高度地区、防火地域
事業手法:全員合意の任意建て替え(等価交換方式)
補助制度:緊急輸送道路沿道建築物耐震化助成制度(特定緊急輸送道路)
敷地面積:612㎡(従前)/1,061㎡(従後)
延べ面積:3,262㎡(従前)/7,430㎡(従後)
階数・高さ:10階・30m(従前)/11階・35m(従後)
戸数・住戸規模 58戸・約30–45㎡(従前)/90戸・約43–71㎡(従後)
建築時期 1972年(従前)/2017年(従後)
事例紹介②(共同建築(道路整備を伴う場合))「デュオ北千住」(防災街区整備事業「関原一丁目中央地区」)
図②権利変換の概念図
出典:(一社)日本ビルヂングセンター「ビル経営管理講座」
写真❷デュオ北千住
出典:東京都不燃化ポータルサイト
https://www.funenka.metro.tokyo.lg.jp/initiatives/disaster-prevention-block/sekihara-1-chome/
 本地区は、足立区の南部中央からやや西に寄った場所にあり、北千住とは荒川放水路を隔てた北側、西新井橋北詰の小竹橋通り沿いで、環状七号線の内側に位置している。
 東武伊勢崎線梅島駅からは東南方向に1kmほどの所にある。もとは水田であったが、高度成長期に急激に市街化が進み、道路・公園等の不足した住商工混在の木造密集市街地が形成された。
 1980年代半ばに、区の呼びかけに応じ、関原一丁目地区に「まちづくり協議会」が設置され、住環境整備モデル事業(現、密集市街地整備事業)が、2013年まで展開されてきた。その間の2005年には、防災街区整備地区計画が導入される。今回、防災街区整備促進事業の対象となった、関原一丁目中央地区は関原一丁目地区の中央に位置している。
 本地区は、狭い行き止まりの路地に沿い、建て替えのできない老朽木造住宅が密集していたことから(14棟の住宅(内、6棟が無接道、居住世帯は7世帯)と保育園1棟)、災害時に延焼火災による被害が危惧された。そこで地区の南側の都市計画道路(補助第136号線)の整備と一体的に、でき得る限りの共同住宅化を進めることで、埋もれている建築容積の活用を図り、地区防火帯としての建築物を建設、地区の防災性能や居住環境の向上に寄与することになった。地区内には高齢者も多く組合施行に不安もあったことから、関係権利者の同意を得て民間事業者が施行者となり、個人施行者方式(相鉄不動産(株))で事業化が図られた。
 権利者は45名(土地所有権18名、借地権26名、借家権1名)で、足立区がまちづくり用地として所有していた土地を事業用の種地として提供している。この土地部分に個別利用区(888㎡)を設定し、10棟10世帯分の住宅を整備、ここに従前居住者2世帯が移り(敷地面積約100㎡)、残余の区画は戸建て住宅分譲地(敷地面積約89㎡)として業者に売却、また共同利用区(約1,400㎡)には、共同住宅(敷地面積1,957.8㎡、延べ面積4,993㎡、8階建)1棟を建て60戸を整備、ここには従前居住者1世帯が入り、あとは保留床として売却された。これら分譲された土地、建物床は事業費に充当された。
 従前居住者7世帯のうち残った4世帯は、それぞれ2世帯ずつコミュ ニティ住宅(低額な家賃で供給される公的賃貸住宅)と、地区外転居となった。そのほか道路は、区から工事費管理者負担金を得て、委任を受けた施行者が拡幅整備(主要生活道路:幅員5m、区画道路:幅員4m)、区保有公園用地は同面積で児童遊園(約540㎡:防火水槽100t、かまどベンチとマンホールトイレ各2基)として整備された。
【事業概要】
事業名:関原一丁目中央地区防災街区整備事業(個人施行、施行地区約0.4ha、事業費約21億円)
所在地:東京都足立区関原一丁目地内
都市計画:準工業地域(容積率200,300%、建蔽率80%)、第三種高度地区、最低限度高度地区(7m)、防火・準防火地域、防災再開発促進地区、特定防災街区整備地区(敷地面積の 最低限度100㎡、外壁後退距離50cm)、防災街区整備促進事業
【事業経緯】
2004年4月 関原一丁目地区防災再開発促進地区都市計画決定
2005年6月 関原一丁目防災街区整備地区計画都市計画決定
2007年9月 関原一丁目中央地区防災街区整備促進事業都市計画決定
2010年4月 事業施行認可
2010年11月 権利変換計画認可
2010年11月 個別利用区工事完了(戸建て住宅工事着工)
2011年12月~2013年1月 防災施設建築物(共同住宅)建築工事
2013年12月 事業終了認可
【建築概要】
敷地面積 1,958㎡ 延べ面積 4,993㎡ 容積率 261.8% 階数 8階 高さ 24.5m
事例紹介③(協調建築)「日比谷シティ」(特定街区、一団地認定)
図③「日比谷シティ」建物配置図
出典:
https://www.hibiyacity.com/access/
http://cjplife.com/memorandum/d035.html
写真❸「日比谷シティ」
筆者撮影
写真❹公開空地サンクン広場
筆者撮影
 本計画(「日比谷国際ビル」、「富国生命ビル」など)は、特定街区と一団地の総合的設計の制度を活用し、街区全体として協調的に建築物を配置設計(先行して建築された「日本プレスセンタービル」の未利用容積を他のビルに配分)することで、個々の敷地単位を超え街区全体として、容積の有効・高度利用を図ったプロジェクトである。
 すなわち、本計画においてはスーパーブロック方式を導入し、都市空間を一体的に構成することで、ニューヨークの「ロックフェラーセンター」の前庭並みに、冬にはスケートリンク(その後、フットサル場など多様な利用形態を辿る)として、また通常時にはイベント広場として利用することが可能な広大な都市広場を創出し、地区環境の整備改善を図っている。
 本街区は日比谷公園の南側、都営地下鉄三田線内幸町駅の西側に位置し、区域面積は約2.7haである。この街区の南側に位置する西新橋一丁目特定街区(「日比谷セントラルビル」)も、このプロジェクトと協調する形で計画されている。
 この内幸町二丁目特定街区は、容積率指定がA街区(「日比谷国際ビル」、「富国生命ビル」、広場)1,035%、B街区(「日本ブレスセンタービル」が立地する既存建物街区)850%の複数街区計画となっている、全体では994%である。また、特別区道を挟み隣接する西新橋一丁目計画は1,003%の容積率指定となっている。
 なお、この地域の用途地域は商業地域・容積率800%である。
事例紹介④(容積再配分)「泉ガーデン」(容積適正配分型地区計画、一団地認定、第一種市街地再開発事業)
写真❺尾根部の住宅棟「泉ガーデンレジデンス」。
筆者撮影
写真図④配置図
筆者撮影
写真❻谷部の業務棟「泉ガーデンタワー」。
筆者撮影
写真❼傾斜地をつなぐエスカレータ(やや左寄り、正面の赤色は店舗)。
筆者撮影
写真❽尾根部の「泉屋博古館」と緑地。
筆者撮影
 この地のまちづくりは、開発と保存、賑わいと静謐さという、相反する要素を融合させる再開発に取り組んだ。すなわち、この地は地形上の特性などをふまえ伝統的に形成されてきた、尾根部の安らぎを醸す自然地と谷部の賑わいを醸す佇まいとが調和する、魅力的なまちづくりがめざされた。
尾根部の文化施設や傾斜地の住宅街がもつ静謐さ、そして谷地の商業・業務街の賑わいとが調和する、この地のまちづくり構想を制度上も可能とするため、傾斜地の上下で一体的な再開発が必要となり、手法として権利変換方式の第一種市街地再開発事業制度が選択された。
 また、容積を地形や建物用途に応じ(尾根部のA街区と傾斜地・谷地のB街区に分け)適正に配分するため、都市計画として容積適正配分型地区計画が活用された。また、B街区については、さらに一団地認定により同一街区内で敷地間の容積を再配分、そして建築物をタワー状にすることで、賑わいと静謐さとが矛盾なく両立するようにした。
 施設配置としては、尾根部に位置する武家屋敷の面影を引きずる「旧住友会館」と庭園に代わり、文化施設を配し、その周囲に緑地として緑豊かで良好な環境を残した。
 一方、傾斜地から谷にかけての木造住宅等の密集地は、社会の求めに応じ住宅棟と商業・業務棟とに分け、建物を集約し、新しくできる施設建築物の機能を「泉ガーデンレジデンス」(住宅棟)と「泉ガーデンタワー」(業務棟)という形で、都市空間を合理的に再構成するとともに、谷地では「泉ガーデンタワー」の足下に5層程度の商業施設を配し賑わいを創出した。
 また、谷地の地下鉄東京メトロ南北線・六本木一丁目の駅コンコースから、尾根部に存する美術館・緑地までを、地形の起伏を意識し斜面に沿ってエスカレータ(動く歩道)を設置し、傾斜地を緑と店舗からなる三次元の空間として構成しなおし、エスカレータに乗って上下に移動している間も、移動するにつれ景色の移り変わりが楽しめるように工夫している。
 尾根部に上がってしまうと、そこには閑静な緑地が広がり、敷地内にはクスノキとケヤキの大木が美術館入口に移植され、地域における緑のシンボルとなっている。こうして尾根道沿いは引き続き野鳥の棲家となり、この先に位置する「アークヒルズ」の広大なサンクチュアリー・ガーデンや「城山ヒルズ」、「仙石山ヒルズ」の緑地へとつながっている。
 また、歩行者路を先に進めば、「城山ヒルズ」地内の歩行者通路を通り、地下鉄メトロ日比谷線神谷町駅に徒歩6分で到達できる。
都市計画
 この地では第一種市街地再開発事業を適用する必要から、その前提として再開発等促進区を定める地区計画を策定、あわせて容積移転を行うために容積適正配分型の地区計画も策定した。
 都市計画の内容としては、尾根部に位置するA街区(0.6ha)については、建蔽率を14%、容積率を50%に抑え、ここに低層の文化施設を配し、あわせて緑地(約2,000㎡)を整備した。また、谷地の「泉ガーデンタワー」のあるB街区(2.6ha)には、A街区の未利用容積をここに移し、建蔽率63%、容積率1,000%とし、ここにオフィスとホテル、マンション(261戸)等の施設を配置し、土地の高度利用を図っている。地区全体の面積は3.2haで、延べ面積は約21万㎡、店舗数は25である。尾根と谷との結びつきを強めるため建物周囲には緑を配し、ビジネスと生活と文化施設(「泉ガーデンギャラリー」や「泉屋博古館分館」)の一体感を高めている。
 昨今、谷地の「泉ガーデンタワー」には、金融、IT、法務税務のコンサルタントなど、知識集約型サービスの先端企業等が入居し、「アークヒルズ」等から連なる国際ビジネス拠点として発展している。
施設概要
 谷地の放射1号線に面し業務棟(「泉ガーデンタワー」と「泉ガーデンウィング」)、そして傾斜部に住宅棟(「泉ガーデンレジデンス」)また台地の尾根部分に美術館(「泉屋博古館」)とホール(「泉ガーデンギャラリー」)、広場を配置している。この谷と尾根との間には長いエスカレータを複数設置し、地形のくびきから解放しふたつの街区を結んでいる。敷地面積は約23,869㎡、建築面積は約11,990㎡、延床面積は総計で約208,401㎡である。
 各棟の内訳は、業務棟の「泉ガーデンタワー」が地上45階・地下2階建てで延べ面積157,365㎡、高さは216mである。このビルには事務所とホテルのほか地上5階までが店舗、レストランそして上部に住友会館が配されている。また、住居棟は「泉ガーデンレジデンス」で、地上32階・地下2階建てで延べ面積44,097㎡である。業務棟と住宅棟との間にはフィットネスクラブを配し、近隣の人びとの利用にも供している。この他にオフィスタワーの脇に「泉ガーデンウイング」として、地上6階・地下2階建て、延べ面積3,401㎡のオフィスビルが配されるとともに、尾根部には「泉ガーデンギャラリー」として地上1階・地下1階建て、延べ面積2,175㎡、「泉屋博古館」として地上1階・地下1階建て、延べ面積1,363㎡の施設が、それぞれ配置されている。
[参考文献]
日端康雄・容積率研究会『建築空間の容積移転とその活用:都市再生を目指して』清文社、2002年
横山寛・川原伸朗「新しいまちがはじまる…六本木一丁目西地区第一種市街地再開発事業」『再開発コーディネーター』No.101、再開発コーディネーター協会、2003年
深海隆恒(編著)、不動産事業スキーム・ファイナンス研究会(著)『不動産事業のスキームとファイナンス』清文社、2004年
深海隆恒(監修)、不動産事業スキーム・ファイナンス研究会(編)『激動!不動産:不動産開発事業のスキームとファイナンス(2)』清文社、2009年
(一社)日本ビルヂング協会連合会/日本ビルヂング経営センター『ビル経営管理講座テキスト 2:企画・立案 下巻』
河村茂「固有性まちづくり Vol 3:東京・六本木 自然地形を活かし緑を保持して 機能融合型のまちづくり」(一財)日本不動産研究所、2013年 https://www.reinet.or.jp/?page_id=12141
(一社)東京建築士会『2025年版 建築基準法規集』新日本法規出版、2024年
国土交通省住宅局市街地建築課「建築基準法(集団規定)」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907399.pdf
河村 茂(かわむら・しげる)
都市建築研究会代表幹事、博士(工学)
1949年東京都生まれ/1972年 日本大学理工学部建築学科卒業/都・区・都市公団(土地利用、再開発、開発企画、建築指導など)、東京芸術大学非常勤講師(建築社会制度)、(一財)日本建築設備・昇降機センター常務理事など/単著『日本の首都江戸・東京 都市づくり物語』、『建築からのまちづくり』、共著『日本近代建築法制の100年』など/国土交通大臣表彰など
カテゴリー:建築法規 / 行政