座談会:持続可能な経営へ事業承継を考える
日刊建設工業新聞社連携企画
前田 幸則(エンドウ・アソシエイツ代表取締役)
武内 敏幸(中野文一設計事務所代表取締役)
廣瀬 光夫(広瀬建築設計事務所代表取締役)
千鳥 義典(東京都建築士事務所協会会長)
武内 敏幸(中野文一設計事務所代表取締役)
廣瀬 光夫(広瀬建築設計事務所代表取締役)
千鳥 義典(東京都建築士事務所協会会長)

前田 幸則 エンドウ・アソシエイツ代表取締役。

廣瀬 光夫 広瀬建築設計事務所代表取締役。

武内 敏幸 中野文一設計事務所代表取締役。

千鳥 義典 東京都建築士事務所協会会長。

座談会風景。
建築士事務所の経営者の高齢化が進む中、事業承継は業界全体に共通する喫緊の課題だ。社内承継、M&A(企業合併・買収)など多様な選択肢があり、それぞれに課題と成功要因がある。持続可能な経営に向け事業承継について考えようと日刊建設工業新聞社と連携し、異なる承継方法を経験した3人と千鳥義典会長による座談会を企画した。
難しい承継問題に多様な選択肢
社内承継のうち、親子や親族間はスムーズに進みやすく、実例も多い。だが新しい経営者や従業員に引き継ぐケースは実態がつかみにくい。前田幸則氏(エンドウ・アソシエイツ代表取締役)は中途採用者で社内承継を経験した。前社長が債務超過の解消にめどが付いたタイミングで後進に経営を託そうと判断。ブランドを維持するため従業員承継を考えたが、安心して託せる社員が育っていなかったため幹部候補をリクルートした。前田氏は以前、自身の設計事務所を営んでいたが、2020年3月に入社。「まさか入社5年で社長になるとは夢にも思っていなかったので複雑な気持ちだ」と本音を吐露した。武内敏幸氏(中野文一設計事務所代表取締役)は22年前に代表を引き継いだ。前社長が高齢となり、顧客への関係継続と従業員の生活確保のため社内承継を選んだ。当時、神田(千代田区)と葛西(江戸川区)に拠点を構えており、経費削減も含め事務所の統合を検討。江戸川区が設計業務の発注で区内業者を優先することもあり「取締役3人で話し合った結果、葛西営業所長だった私が社長に就くことになった」と振り返った。
M&Aを経験した廣瀬光夫氏(広瀬建築設計事務所代表取締役)は「肺がんを発症し、再発の恐れもあるため従業員の雇用維持や顧客との関係を考え、早く事業承継しなければいけないと思った」ことがきっかけだった。社内承継を模索したが、会社経営の経験がなく不安だとし、誰も手を挙げなかったという。顧客とのつながりを生かし、従業員も前向きに働けるのであれば、M&Aにより会社運営を親会社に任せ、技術面だけを承継する道を模索。東京商工会議所に相談し、いくつか会社を紹介されたが、「最終的には従業員が望む仕事ができる会社(池下ホールディングス)に買収してもらった」。施工図作成や人材派遣などを手掛けるグループでM&Aの経験も豊富。傘下に構造設計や設備設計を行う事務所があり、意匠設計として広瀬事務所が加わった形だ。
解決すべき課題は「人」「仕事」「資金」
顧客や協力会社との関係に変化が生じるとし、事業承継に踏み出せない経営者は少なくない。廣瀬氏は顧客が少し離れることを想定していたが、「きちんと説明すると『そうですか』というくらいの反応で、逆に経営基盤が安定したと見る方もいた。協力会社も離れる理由はないので関係はまったく変わっていない」と述べた。複数のプロジェクトを抱え第一線で仕事に取り組む前田氏は「プロジェクトを通じて取引先や顧客との信頼関係は維持できていると考えている。事務所が築いてきた信頼も大きく、関係は変わらずに続いている。もちろん協力会社も今まで通りだ。事業承継による障害は一切ない」と言い切った。中途採用で事業継承者となったため、社員のコミュニケーションを重視。「スタッフの中には不満を持っている人もいるだろう。同じプロジェクトに関わっているスタッフとはよく意見を交わすが、別のプロジェクトのスタッフとはなかなか突っ込んだ話ができていない」と語った。
事例の少ないM&Aを経験した廣瀬氏の会社について、千鳥氏は「グループ内で不足しているところを補う理想的な形で事業を継続している。これから事業承継を考える事務所にとっては、ガイドラインのような参考になる成功事例だ」と評価。さらに「皆さんが共通して挙げる解決すべき課題は、人、仕事、資金の3つ。承継のパターンによって3つの比重は変わるが、うまく乗り越えながら承継していくことが重要だ」との見解を示した。
成功事例を増やす活動を展開
入社して3年で取締役になり、5年で社長に就いた前田氏。これまでを振り返り、「実際に事業承継の行動を起こしてから引き継ぎまでの時間があまりにも短すぎたと考える。事業承継には時間をかけて計画的に行うことが重要だ」と強調。たとえば事前に顧客へあいさつするとか、スタッフに対しても、時間があれば別のアプローチができたのではないかとみる。一方、廣瀬氏は「事業承継に時間をかけても結果はあまり変わらない」という考え。ずっと悩んでいたとした上で「切羽詰まったのは病気になってからで最終的には踏ん切りだった。何年も一緒に歩んできた顧客もいて、廃業してスパッと終えることができなかった」と述べた。東事協会員はひとりで事務所をやっている人が多い。そこで「設計協同組合などの集まりができれば、顧客を引き継ぐこともできるかもしれない。ある程度の人数で会社組織になっていないとM&Aも実現できない」と提言した。
武内氏は中堅クラスの事務所は社内承継を考えるのがいいと主張。その上で「最も問題になるのが小規模やひとりの事務所だ。仕事をやめて事務所を畳んでも設計した建築物は残る。少人数の事務所が集まり協働して業務を行っていくような形が多くなれば、事業承継が進んでいくのではないだろうか」と問い掛けた。
「持ち株会社のような法人格のある会社をつくり、そこに廃業する人が今までの仕事を引き継いでもらう。そうして将来につなげていくことは可能だろう」と廣瀬氏。だが建築士法では管理建築士の兼任を認めていない。そこで「自身の事務所と、複数社でつくった事務所の管理建築士が兼任できれば、ひとりの事務所も事業を引き継いでもらえるし、やめるのも楽になる。事業承継の受け皿になるかもしれない」と訴えた。
3氏の体験談や今後への提言などを受け、千鳥氏は「建築士事務所の引き継ぐ要素は、人、技術、仕事の3つとなるが、建築士または設計事務所としての理念や責任感など精神的な部分も引き継がなければいけない」との考えを示した。承継がうまくいかないと事務所の数が減り、地域のまちづくりにも影響が出かねない。地域が衰退するか、しないかに大きく関わってくる問題だ。千鳥氏は「TAAFでは引き続きスムーズに事業承継できるような仕組みをいろいろ検討し、成功事例を増やす活動を展開していきたい」と締めくくった。
(2025/令和7年11月17日、東京都建築士事務所協会本部にて)
文責:山口 裕照(日刊建設工業新聞社)

前田 幸則氏(まえだ・ゆきのり)
東京都建築士事務所協会港支部、株式会社エンドウ・アソシエイツ
1963年 山口県生まれ/1989年 三重大学大学院工学研究科修了後、東九州設計工務入社/2003年 独立し設計事務所設立/2020年 エンドウ・アソシエイツ入社/2025年6月より同社代表取締役
1963年 山口県生まれ/1989年 三重大学大学院工学研究科修了後、東九州設計工務入社/2003年 独立し設計事務所設立/2020年 エンドウ・アソシエイツ入社/2025年6月より同社代表取締役

武内 敏幸(たけうち・としゆき)
東京都建築士事務所協会副会長・江戸川支部、株式会社中野文一設計事務所
1961年 愛媛県生まれ/1983年 芝浦工業大学建築工学科卒業後、株式会社中野文一設計事務所入社/2000年 同社取締役葛西営業所長/2003年 同社代表取締役
1961年 愛媛県生まれ/1983年 芝浦工業大学建築工学科卒業後、株式会社中野文一設計事務所入社/2000年 同社取締役葛西営業所長/2003年 同社代表取締役

廣瀬 光夫 (ひろせ・みつお)
東京都建築士事務所協会板橋支部支部長、株式会社広瀬建築設計事務所
1957年 東京都生まれ/1980年 日本大学理工学部建築学科/1985年 株式会社広瀬建築設計事務所入社/1997年 同社代表取締役
1957年 東京都生まれ/1980年 日本大学理工学部建築学科/1985年 株式会社広瀬建築設計事務所入社/1997年 同社代表取締役

千鳥 義典(ちどり・よしのり)
東京都建築士事務所協会会長・新宿支部、日本設計株式会社
1955年 東京都生まれ/1978年 横浜国立大学工学部建築学科卒業/1980年 同大学大学院修了/1980年 日本設計入社/2013年 代表取締役社長/2020年 取締役会長/2023年 最高顧問/新宿支部
1955年 東京都生まれ/1978年 横浜国立大学工学部建築学科卒業/1980年 同大学大学院修了/1980年 日本設計入社/2013年 代表取締役社長/2020年 取締役会長/2023年 最高顧問/新宿支部
カテゴリー:東京都建築士事務所協会関連
タグ:事業承継












