女性活躍推進をめざして新たな挑戦
人材復帰支援事業からスパイラルアップ事業へ、企業の継続力強化に支援
寺田 宏(東京都建築士事務所協会副会長、団体課題別人材力支援事業運営委員会委員長、団体別採用力スパイラルアップ事業WG主査、清水建設株式会社一級建築士事務所)
 一昨年より実施しました休眠人材の設計現場への復帰を目指す、団体課題別人材力支援事業(以下、「人材復帰支援事業」)では、会員、支部の皆様にはたいへんご協力いただき、ありがとうございました。
 次なるステップとして、女性活躍推進及び働き方改革の視点に立った支援を行う、団体別採用力スパイラルアップ事業(以下、「スパイラルアップ事業」、令和元年から2年間)の公募が、公益財団法人東京しごと財団からあり、当協会として次のステップを目指して応募したところこのたび採択されました。この事業は受け入れ企業に重点を置き、人材の確保と定着を目指した支援事業です。
人材復帰事業で得た新たな課題の解決へ
 人材復帰支援事業では、41人の再就職を支援できました。(『コア東京』2019年3月号同5月号参照
 その活動から人材確保が業界の重要課題であることを改めて痛感いたしました。その中で、特に印象的なことは、求職者と求人者の意識のギャップ、求人コンサルタントなどの専門家の知識を活用していないこと、また、BIMなどの技術のツールの進化が速く追随することが大変な課題であることです。また、若い層が他業界を含む多くの業界に興味を持つ中、われわれが建築設計の魅力を必ずしも伝えきれていないということです。
 そして、何よりも上記の動きが今後の重大な課題という認識が企業経営層で低いということです。(『コア東京』2019年5月号同封の「好事例集」参照)
喫緊の課題を女性活躍推進として
 スパイラルアップ事業の企画提案を立てるにあたり議論した点は大きく次の3つです。
  1. 個人のライフステージにあった働き方に対する企業側の環境整備
  2. 多様な働き方を実現するための生産性向上の実現
  3. これから設計業界を担う人たちに対する有効な情報発信、魅力の伝達
 さらに真っ先の課題として女性活躍推進、定着率向上が喫緊の課題解決につながり、さらには継続的な人材確保にもつながると考えました。
 現在、建築系学科に占める女性比率は21%、1級建築士合格者での女性比率は26%と将来の担い手の数は確保されていますが、現時点における当協会会員事務所開設者の女性比率は3%と急速に減少します。女性活躍推進に焦点を絞った企画提案がまずは第一歩と判断しました。
スパイラルアップの具体的な実効策
 まず企業の環境整備ですが、第1に、若い層が関心を持つ業務規則や就労規程、給与規程などの明文化が必須です。しかし、それがなされていないことが多く、求人でも不利であることがわかりました。社労士、コンサルタントなどの専門家の指導の下に時代の流れをつかんだ規則や決まりづくりを、セミナーや個別コンサルティングで指導します。
 第2に、建築設計業務にかかわる情報やツールは日進月歩です。働き方改革でも生産性向上が必須の条件と考えられます。そのために企業に対するBIMなどのツール指導や、在宅勤務やサテライト勤務などを多様な働き方をモデル的に実施します。
 第3に、人材復帰支援事業でわかったことですが、やはり今日の情報の展開は直接個人にダイレクトに伝わることがいちばん有効で速いということです。
 さらには他の委員会、ワーキングとも連携して認識を高める活動を共通項目として実施し、建築設計業界の人材確保の課題を、女性活躍推進だけでなく、定着促進の視点からも進めるつもりです。
企業支援事業の特色
 今回の事業の特色ですが、第1に1次支援で建築設計業界の調査・分析を行い、課題に沿った支援メニューを作成、ご協力いただける参加企業25社の選定を行います。その後、2次支援としてその25社に支援メニューを展開する2段階とします。1次支援の調査・分析では、建築設計業界の現状課題をとらえるためにアンケート、ヒアリング調査を行い、問題点を確認して、必要な場合はベンチマークを作成して実施します。
 会員の皆さまにお願いする(8月予定)アンケートのご回答をよろしくお願いいたします。
 もちろんコンサルティング、セミナー受講に当たっては受講料等の応募企業の負担はありません。

 働き方改革は建築設計事務所経営では避けて通ることのできない問題です。われわれの業界の力強い未来のためにも、まずは喫緊の課題として女性活躍推進と働き方改革にスポットを当てた本事業をスタートさせます。
 会員、支部の皆様のご協力をよろしくお願いいたします。
寺田 宏(てらだ・ひろし)
東京都建築士事務所協会副会長、団体課題別人材力支援事業運営委員会委員長、清水建設株式会社一級建築士事務所
1956年 大阪府生まれ/京都大学大学院修士課程(建築学専攻)修了/1980年清水建設株式会社入社、清水建設株式会社一級建築士事務所/現在、同建築営業本部副本部長/中央支部