「東京消防庁からのお知らせ」⑭
新型パッケージ型自動消火設備について
東京消防庁予防部予防課
1 はじめに
 平成24年に福山市のホテル、平成25年に長崎市の認知症高齢者グループホーム及び福岡市の有床診療所で発生した火災は、比較的小規模な防火対象物で発生したにもかかわらず、多くの方が亡くなってしまいました。これらの火災を受け、平成25年12月及び平成26年10月に消防法施行令(昭和36年政令第37号。以下「政令」という。)、同法施行規則(昭和36年自治省令第6号。以下「規則」という。)等の一部が改正され、平成27年4月1日及び平成28年4月1日にそれぞれ施行されています。
 これらの改正で、自力で避難することが困難な方が入所する高齢者、障がい者等の施設並びに避難のために患者の介助が必要な有床診療所及び病院(以下「社会福祉施設等」という。)には、原則として面積にかかわらずスプリンクラー設備の設置が義務付けられました。
 小規模な施設では、水源水槽や非常電源としての自家用発電設備等が必要な通常のスプリンクラー設備を設けることが困難な場合が多くあります。従前から「特定施設水道連結型スプリンクラー設備」という水源水槽、非常電源等が不要なスプリンクラー設備や、「パッケージ型自動消火設備」という水の代わりに消火薬剤を噴射する消火設備を設置することもできましたが、今般、さらに小規模な施設で設置がし易い新しいパッケージ型自動消火設備が整備されましたのでご紹介します。
2 パッケージ型自動消火設備の経緯等
 昭和62年に発生した東京都東村山市の特別養護老人ホーム「松寿園」の火災を踏まえ、スプリンクラー設備等の設置基準を強化する消防法令の改正が行われました。
 平成9年の国の消防庁通知により、既存の社会福祉施設等への自動消火設備の設置を促進するため、政令第32条(特例)を適用して、スプリンクラー設備の代替設備としてパッケージ型自動消火設備を設置することが認められるようになりました。
 平成16年には、性能規定化の中で定められた消防庁告示(パッケージ型自動消火設備の設置及び維持に関する技術上の基準を定める件(平成16年消防庁告示第13号。以下「基準告示」という。))により、パッケージ型自動消火設備の設置及び維持に関する技術基準が定められ、必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等として設置ができるようになりました。
3 パッケージ型自動消火設備の構成等
 パッケージ型自動消火設備は、消火薬剤貯蔵容器、放出口、放出導管、感知部、受信装置等から構成されています(図❶)。
 火災により発生する熱を感知部で感知し、消火薬剤貯蔵容器の消火薬剤を、天井に設けられた放出口から自動的に放射して消火する消火設備です。
消火薬剤は放射できる量が限られているため、消火能力が高い消火薬剤を用いています。
 感知部は、一般的に自動火災報知設備の感知器が用いられます。誤作動防止のため異なる種別の感知器が設置され、複数の感知器が作動した場合に消火薬剤が放射されるシステムとなっています。
図❶ パッケージ型自動消火設備の構成例
4 パッケージ型自動消火設備を設置することができる防火対象物
 パッケージ型自動消火設備は、基準告示の改正によりⅠ型とⅡ型に分類されました。
 Ⅰ型は従来からあるパッケージ型自動消火設備です。
 Ⅱ型が本稿でご紹介する新しいパッケージ型自動消火設備で、小規模な施設にも1つの居室内で設置できるように、消火薬剤等を格納箱に収容し、省スペース化されたものとなっています。
 Ⅰ型を設置することができる防火対象物又はその部分は、スプリンクラー設備の設置が義務付けられるもののうち、政令別表第1(5)項若しくは(6)項に掲げる防火対象物又は同表(16)項に掲げる防火対象物の(5)項若しくは(6)項の部分で延べ面積が10,000㎡以下のものです。
 Ⅱ型を設置することができる防火対象物又はその部分はスプリンクラー設備の設置が義務付けられる政令別表第1(6)項に掲げる防火対象物はその部分のうち、延べ面積が275㎡未満のものです。(主な消防法施行令別表第1の用途例は、『コア東京』2017年2月号p.18「東京消防庁からのお知らせ第12回」の表参照)

5 設置及び維持に関する基準
(1)パッケージ型自動消火設備の放出口を設置する部分
 放出口は、階段、浴室、便所、開放廊下、手術室、レントゲン室など規則第13条第3項各号に掲げる部分以外の、居室などの部分に設置します。
屋内消火栓設備の設置が義務づけられる防火対象物では、放出口を設けない部分には、パッケージ型消火設備(ノズル、ホース、消火剤貯蔵容器、加圧用ガス容器等及びこれらを収納する格納箱で構成され、屋内消火栓設備の代替設備として設置することができ、1人で操作できる設備である。)を設けることができます。
 また、感知部は同時放射区域を有効に包含するように天井、壁等に取り付けることとされています。
 「同時放射区域」とは、火災が発生した場合において、作動装置又は選択弁等に接続する一の放出導管に接続される一定の区域に係る全ての放出口から消火薬剤を放射し、防護する区域をいいます。
(2)Ⅰ型のユニットを共用する場合における従来からの要件
 ある区域で火災が発生した場合、隣接する区域は一般的に延焼拡大するおそれがあるため、延焼拡大した場合には隣接の区域の設備が作動し、確実に消火しなければなりません。このため、隣接する区域は異なるユニットの設備を使用することとなり、全ての区域ごとに設備を設置するとなると膨大な数のユニットが必要になってしまいます。
 このことから、パッケージ型自動消火設備は、一定の防火性能又は耐火性能を有する壁等で区画され、隣室等に延焼拡大するおそれがない場合には、消火薬剤等の設備を2以上の同時放射区域において共用することができるとされています。
 また、入所者が就寝に使用する居室以外であって、リハビリ室、講堂、その他これらに類するもので、可燃物の集積量が少なく、かつ、延焼のおそれが少ないと認められる場所に設置する場合には、共用することができるとされています。
(3)Ⅰ型のユニットを共用することができる要件の追加
 Ⅰ型のユニットを共用して設置することができる要件は、(2)で述べたとおりです。基準告示の改正により、既に特定施設水道連結型スプリンクラー設備の設置が認められている基準面積が1,000㎡未満の施設に設置する場合、「火災が発生した同時放射区域以外の同時放射区域に対応する区域に設ける放出口から消火薬剤が放射されないように設置する場合に、消火薬剤等を共用することができる」ことが追加されました(図❷)。
 この場合の設置方法の詳細については、「必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令第1条第2項の規定に基づくパッケージ型消火設備の設置及び維持に関する技術上の基準の一部を改正する件等の運用上の留意事項について(平成28年2月23日消防予第48号。以下「48号通知」という。)」を確認してください。
図❷ Ⅰ型の設置例
6 Ⅱ型の設置基準ついて
 Ⅱ型の主な設置基準については、次のとおりとなっています。
① 基準告示によりユニットの共用は認められていないこと。
② 基準告示で規定する火災拡大抑制試験時に使用した材料と同等以上の性能を有する材料で室内の仕上げをした部分にのみ設置ができること。
③ 消火薬剤貯蔵容器から放出口までの放出導管の長さが10m以下であること。
 その他の設置基準については、基準告示及び48号通知を確認してください。
7 基準告示改正後の自動消火設備の種類と対応面積
 社会福祉施設等に対応した自動消火設備の種類等については、政令第12条で規定するスプリンクラー設備及び特定施設水道連結型スプリンクラー設備、延べ面積10,000㎡未満の防火対象物に対応したパッケージ型自動消火設備(Ⅰ型)、基準面積が1,000㎡未満のものに対応したパッケージ型自動消火設備(Ⅰ型で5、(2)又は(3)の方法により設置するもの)、延べ面積が275㎡未満の防火対象物に対応したパッケージ型自動消火設備(Ⅱ型)となります(図❸)。
 基準告示の改正は、基準面積が1,000㎡未満及び延べ面積が275㎡未満の社会福祉施設等に対応すべく整備されたものであり、改正前の基準告示の取扱いを変更したものではないことに留意してください。
図❸ 自動消火設備の体系
おわりに
 当庁では、昨年3月末までに今般の政令等の改正の影響を受ける可能性のある既存防火対象物の実態調査を実施し、新たに設置が必要となる消防用設備等について関係者にお知らせしたところです。消防用設備等の設置については経過措置が設けられていますが、利用者の防火安全の確保のため、早期に設置していただくことが望ましいと考えています。
 また、これから新たに開業される場合は、現行法令で必要な消防用設備等が設置されていなければなりません。
 なお、設置方法等の詳細については、お近くの消防署でご確認ください。

参考:パッケージ型自動消火設備(Ⅱ型)の種類
※ 設置場所の内装仕上げに制限がある場合がありますので、仕様書等により確認してください。
記事カテゴリー:建築法規 / 行政