東京消防庁からのお知らせ ⑬
小規模特定用途複合防火対象物について
東京消防庁予防部予防課
1 はじめに
 前回「みなし従属について」の中で、消防法施行令の一部改正に伴い、一部の用途はみなし従属の取扱いをしないという改正がされたことを説明しました。
 本稿では、みなし従属の取扱いの改正に伴う、消防法施行規則の一部改正と火災予防条例の一部改正による消防用設備等の設置方法について紹介します。
2 小規模特定用途複合防火対象物
 一般的に非特定防火対象物※より特定防火対象物※の方が不特定多数の者が出入りするなど火災危険が大きいため、消防法令の規制が厳しくなる傾向があります。現在、みなし従属の取扱いをしない用途は、消防法施行令別表第1(2)項ニ、(5)項イ、(6)項イ(1)から(3)まで、(6)項ロ及び(6)項ハのうち利用者の入居又は宿泊を伴うものです。みなし従属の取扱いをしないことにより、これらの用途がある防火対象物の用途は消防法施行令別表第1(16)項イとなり、特定防火対象物となります。(主な消防法施行令別表第1の用途例は、『コア東京』2017年2月号p.18「東京消防庁からのお知らせ第12回」の表参照)
主な消防法施行令別表第1の用途例(『コア東京』2017年2月号より)
 みなし従属の取扱いを変更したことに伴う影響が、他の用途部分に大きな影響を及ぼさないよう、消防法施行規則及び火災予防条例の一部が改正されました。その中での大事なキーワードが「小規模特定用途複合防火対象物」です。
小規模特定用途複合防火対象物とは、消防法施行令別表第1(16)項イに掲げる防火対象物のうち、次のいずれにも適合するものをいいます(図❶)。

① 消防法施行令別表第1(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供される部分の床面積の合計が防火対象物の延べ面積の10分の1以下
② 消防法施行令別表第1(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供される部分の床面積の合計が300㎡未満
図❶ 小規模特定用途複合防火対象物
3 消防法施行規則の一部改正
(1) 屋内消火栓設備等の非常電源
 延べ面積が1,000㎡以上の特定防火対象物に設ける屋内消火栓設備など消防用設備等の非常電源は、自家発電設備、蓄電池設備又は燃料電池設備としなければなりません。消防法施行令別表第1(16)項イのうち、小規模特定用途複合防火対象物は、非常電源専用受電設備の設置ができることとされました(図❷)。
図❷ 規則による非常電源の設置
(2) スプリンクラー設備
 消防法施行令第12条第1項第3号に掲げる防火対象物は、全体にスプリンクラー設備の設置が義務付けられています。消防法施行令別表第1(16)項イのうち、小規模特定用途複合防火対象物の10階以下の階で次の用途に供される部分以外の部分にはスプリンクラー設備の設置を要しないこととされました(図❸)。
① 消防法施行令別表第1(6)項イ(1)及び(2) ② 消防法施行令別表第1(6)項ロ(1)及び(3) ③ 消防法施行令別表第1(6)項ロ(2)、(4)及び(5)(介助がなければ避難できない者として消防法施行規則第12条の3に規定する者を主として入所させるもの以外のものは275㎡以上のものに限る。)
図❸ 規則によるスプリンクラー設備の設置
(3) 自動火災報知設備
 改正前のみなし従属の取扱いをした場合は消防法施行令第21条第1項第4号及び第6号に該当せず自動火災報知設備の設置が義務付けられなかったもので、みなし従属の取扱いをしない場合は全体に自動火災報知設備の設置が義務付けられることがあります。その場合、消防法施行令別表第1(16)項イのうち、小規模特定用途複合防火対象物の次に該当する部分以外の部分には、感知器、地区音響装置及び発信機(以下「感知器等」という。)の設置を要しないこととされました(図❹)。
① 消防法施行令別表第1(2)項ニ、(5)項イ、(6)項イ(1)から(3)まで及び(6)項ロ ② 消防法施行令別表第1(6)項ハ(利用者を入居又は宿泊させるものに限る。) また、この場合、防火対象物の延べ面積が300㎡以上でも、特定小規模施設用自動火災報知設備の設置ができることとされました。
図❹ 規則による自動火災報知設備の設置
(4) 避難器具
 小規模特定用途複合防火対象物のうち、消防法施行令第25条第1項第1号及び第2号に掲げる防火対象物の階で、下階に消防法施行令別表第1(2)項ニがあることで避難器具の設置が義務付けられる場合は、一定の要件でその避難器具を設置しないことができることとされました(図❺)。
図❺ 規則による避難器具の設置
(5) 誘導灯
 特定防火対象物は、全体に誘導灯の設置が義務付けられています。消防法施行令別表第1(16)項イのうち、小規模特定用途複合防火対象物の地階、無窓階及び11階以上の階以外の階は、避難口誘導灯及び通路誘導灯の設置を要しないこととされました(図❻)。
図❻ 規則による誘導灯の設置
 ただし、小規模特定用途複合防火対象物のうち、主用途が消防法施行令別表第1(9)項ロの場合は、全体に設置が必要ですので注意してください。
4 火災予防条例の一部改正
(1) 消防用設備等
ア 屋内消火栓設備等の非常電源
 3の⑴のとおり小規模特定用途複合防火対象物は、大規模な場合でも規則により屋内消火栓設備等の非常電源を非常電源専用受電設備とすることができるとされました。小規模特定用途複合防火対象物のうち、改正前のみなし従属の取扱いをした場合に、火災予防条例で非常電源を自家発電設備、蓄電池設備又は燃料電池設備としなければならない規模の防火対象物は、従来通り非常電源専用受電設備以外の非常電源を設置しなければならないこととされました(図❼)。
図❼ 条例による非常電源の設置
イ スプリンクラー設備
 スプリンクラー設備は、消防法施行令別表第1(16)項イは、地下4階以下の階の床面積の合計が1,000㎡以上で設置が義務付けられていますが、小規模特定用途複合防火対象物は、消防法施行令別表第1(16)項ロと同じく、地下4階以下の階の床面積の合計が2,000㎡以上の場合に、スプリンクラー設備の設置が義務付けられることとされました。
ウ 自動火災報知設備
 3、(2)のとおり小規模特定用途複合防火対象物で消防法施行規則により感知器等の設置を要しない部分のうち、改正前のみなし従属の取扱いをした場合、火災予防条例で自動火災報知設備の設置が義務付けられる防火対象物の部分には、従来通り感知器等を設置しなければならないこととされました(図❽)。
図❽ 感知器等の設置
エ 誘導灯
 3、(4)のとおり小規模特定用途複合防火対象物で消防法施行規則により誘導灯の設置を要しない部分のうち、改正前のみなし従属の取扱いをした場合、火災予防条例で誘導灯の設置が義務付けられる防火対象物の部分には、従来通り誘導灯を設置しなければならないこととされました(図❾)。
図❾ 誘導灯の設置
(2) 管理
ア 消防用設備等の集中管理(防災センター)
 消防用設備等の集中管理は、消防法施行令別表第1(16)項イは、地階を除く階数11以上で延べ面積10,000㎡以上の場合又は地階を除く階数5以上で延べ面積20,000㎡以上の場合に義務付けられていますが、小規模特定用途複合防火対象物は、消防法施行令別表第1(16)項ロと同じく、地階を除く階数15以上で延べ面積30,000㎡以上の場合に義務付けられることとされました(図❿)。
図❿ 消防用設備等の集中管理
イ 防火管理技能者及び自衛消防活動中核要員
 防火管理技能者の選任及び自衛消防活動中核要員の配置についても、小規模特定用途複合防火対象物は、消防法施行令別表第1(16)項ロと同様の規制を受けることとされました。
5 おわりに
 小規模特定用途複合防火対象物により、消防用設備等の設置方法が多少複雑になった感があります。
 特に既存の防火対象物の一部の用途を変更する計画の場合には、建物を管轄する消防署にお早めにご相談ください。
記事カテゴリー:建築法規 / 行政