事業場外みなし労働時間制と女性活躍推進法
社労士豆知識 第16回
木津 朋之(木津経営労務管理事務所 所長)
 職業柄、さまざまな業種の経営者の方とお話をし、悩みを聞く機会があります。相談内容は多岐にわたりますが、最近では、「せっかく仕事ができて優秀な社員なのに、育児や介護を理由に退職してしまう」とか、「女性の意見を取り入れた商品開発や社内体制を整えたい」といった相談を受けることが多くなりました。
 優秀な社員が退職してしまうと、求人や、採用後の教育に時間とコストがかかってしまい、企業としてさまざまなロスが出てしまいます。また、女性の意見を取り入れて組織体制等を整備していかないと、今後、優秀な人材の確保が難しくなってくるでしょう。国もまた、女性の能力を最大限発揮できるような社会にしていこうと、さまざまな方策を講じています。
在宅勤務のための事業場外みなし労働時間制
 今日、インターネット環境の普及によって多様な働き方が可能になってきています。中小企業でも在宅勤務制度を導入する企業が増えてきました。在宅勤務制度の導入に際して考えなければならないのは、労働時間の管理方法です。労働基準法上、使用者は労働時間を適正に把握する義務があります。在宅勤務制度を導入するとタイムカードを打刻することは不可能なので、現実的な把握の方法として、次の2パターンを考えることができます。

1. 上司に、始業と終業時にメールを出してその日のスケジュールを報告する。

2. 事業場外労働に関する「みなし労働時間制」を導入する。
 事業場外みなし労働時間制とは、事業場外で労働する場合で労働時間の算定が困難な場合に、所定労働時間もしくは労使協定で定めた時間を労働したものとみなす制度です。一般的には、営業職等の外勤の方に適用する制度ですが、在宅勤務であっても以下のA〜Cの条件を満たしていれば適用することができます。
A:当該業務が起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
B:当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
C:当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。(京労発基第35号平成16年2月5日)

 どのような業務を在宅勤務で行ってもらうかを十分に検討して、みなし労働時間を決定すべきです。また、情報セキュリティについても注意が必要です。給与計算業務や、平成28(2016)年1月から制度がスタートしたマイナンバーを取り扱う業務等は避ける必要があります。会社と同じ環境で業務を行うことができるクラウド等を利用することを検討してもいいでしょう。
女性活躍推進法
 平成27(2015)年8月28日に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)が成立しました。この法律は女性が、職業生活において、その希望に応じて十分に能力を発揮し、活躍できる環境を整備するために制定されました。これにより、平成28(2016)年4月から、301人以上の企業は女性登用の数値目標を盛り込んだ行動計画の作成と公表が義務づけられます。301人以上の企業は、以下の順で対策を進めていく必要があります。

1. 女性活躍に関する状況把握と課題分析
 状況把握は女性採用比率、勤続年数男女差、労働時間の状況、女性管理職比率については、必ず行うことになっています。

2. 行動計画の策定・届出・社内周知・公表
 状況把握と課題分析の結果を踏まえて行動計画の作成を行い都道府県労働局に提出します。行動計画には、A:計画期間、B:数値目標、C:取組内容、D:実施期間を盛り込む必要があります。

3. 女性の活躍に関する情報の公表
 省令で定める事項のうち、事業主が選択して公表します。
 行動計画の策定・届出を行った企業で取り組みの実施状況が優れた企業については、国が認定を行い、事業入札で受注機会を増やす等の優遇策も盛り込まれました。

女性活躍推進法に先駆けて「女性活躍加速化助成金」も新設されました。この助成金は、自社の女性の活躍に関する「行動計画」を策定して、計画に沿った取組を実施して「取組目標」を達成した事業主および数値目標を達成した事業主に対して助成金を支給するものです。助成金は300人以下の事業場も対象となっています。
木津 朋之(きつ・ともゆき)
木津経営労務管理事務所 所長
東海大学法学部卒業後、有限会社人事・労務にて、人事コンサルタントとして入社当初より中小企業のみならず上場企業に至るまで就業規則作成やES向上型人事制度の構築に携わる。最近では、IT関連業に特化したES向上型人事制度の実施に携わり定評を得ている。
記事カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士