色彩のふしぎ 第12回
色による美のつくり方(2)
南雲 治嘉(デジタルハリウッド大学名誉教授)
色による美はその対比から生まれる。
対比は2色以上の配色のこと。
どのような配色が美的効果に繋がるのか。
美の種類
 色で美をつくることが色彩デザインの最終目的です。ここで問題になるのが美には多くの種類があり、しかもそれは受け取る側の尺度によっても異なることです。万人が感動する絶対美がない限り、私たちは美を求めてさまよい続けることになります。
 建築という仕事において、美という問題を避けることはできません。これまで説明したことの繰り返しになりますが、美だけが人を感動させます。その感動の頂点にあるのが幸せです。美のない建築をつくることに何の意味もありません。しかし、漠然と美をつくるといっても問題の解決にはならないので、少なくとも美の種類を理解し、つくろうとする美の範囲を絞ることから始めることになります。絞り込まれた美なら、それを色によってどのようにつくり出すかが明解になります。人が美を感じる配色パターンは複数あります。
 最近まで私の研究室で美とは何かについての研究を行ってきました。そこで得た分析結果から美について説明します。美の種類には大別すると、理知的なものと感覚的なものの2種類あります。基本的なものが8種類あり、そのうち4種類が基本型、残りの4種類が日常型です。基本型は主に芸術やデザインで用いられ、日常型は生活の中で用いられています。

・基本型(美学の領域)
 「美しい」 ⇨ 内面的 ⇨ 本質的
 「きれい」 ⇨ 外見的 ⇨ 装飾的
 「可愛い」 ⇨ 精神的 ⇨ 愛玩的
 「好き」 ⇨ 嗜好的 ⇨ 主観的

・日常型(日常生活の領域)
 「面白い」 ⇨ 内面的 ⇨ 本能的
 「カッコいい」 ⇨ 外見的 ⇨ 装飾的
 「癒される」 ⇨ 精神的 ⇨ 心理的
 「イカす」 ⇨ 能力的 ⇨ 評価的
図1
「美しい」をつくる色数を抑えた配色。
桂離宮(京都)は材質の持つ美しさを全面に出している。
派手な色ではないがシンプルな美しさをつくり上げている。
カラーイメージ「シリアス」は、真摯さが漂う美しさを持っている。
図2
「きれい」をつくる豪華さを強調した装飾的な配色。
ファンテーヌブロー宮殿(フランス)の室内は金をメインカラーにし、赤をサブ的にリズミカルな使い方をしている。
カラーイメージ「豪華な」は、金の持つ輝きを利用し、誰の目にもきれいと言わせる力がある。
「美しい」と「きれい」の違い
 基本型にあるものは美学的なものであり、理論的に解析できます。美学などの学問で追求されている内容です。絵画や文学に登場する美の表現です。芸術作品はこれらの中のどれかを使って美をつくって人を感動させています。
 これらの美は、それぞれが人に働きかけてくる刺激が異なり、どの刺激を受け入れるかは複雑な感覚によって決まります。
 「美しい」ものをつくるには飾られているものではなくその本質から生まれてくるものです。装飾のない桂離宮は「美しい」建築の代表です。新幹線の車両のデザインや飛行機のデザインは機能的で計算から生まれてきたものですが、飾りではない本質の美といわれています。わびやさびもこれに属します。メッキを剥がしてもなお美しいものです。日常生活の中ではあまり「美しい」は口にしない言葉です。

【美しい─配色のポイント】
 デザインではシンプルデザインがこれに近いといえます。色による「美しい」効果は、派手な色を使わず、色数も抑えるという配色になります。建築でモノトーンが好まれるのは「美しい」という美意識が働いているものと思われます。(図1)
 人が「きれい」と口にするときは本質的なものよりも見栄えから発せられることがほとんどです。第一印象を大切にしろというのはまさに外見がその人の評価基準となるということです。外見を飾ることが、いかに重要かが分かります。
 表面だけを飾ることを「張り子の虎」や「羊頭狗肉」、「羊質虎皮」などともいいます。「馬子にも衣装」もある意味共通した美意識ということができます。
 外見を飾ることは、見た人を楽しませるという効果があります。結婚式やパーティ、カーニバルは飾りがなければ心が踊ることはありません。遊園地は舞台裏を一般の客に見せることはありません。外見を楽しんでもらえればいいからです。クリスマスも飾りがあるからこそ子どもたちはワクワクするのです。「きれいな」建築とは装飾や色使いが派手なものになります。

【きれい─配色のポイント】
 デザインでは装飾デザインがこれに該当します。色彩ではカラフルな配色、豪華な配色が使用されます。寺院は極楽浄土を表現するために極彩色を使い、宮殿では金銀の装飾物を飾りつけています。人は「きれい」が嫌いではありません。生活の中で使用される頻度は最も高い美といえます。(図2)
図3
「可愛い」をつくる配色は子どもっぽい色の組み合わせにする。
ガウディのカサ・バトリョ(スペイン)はパステルカラーと曲線で優しさが前面に出ている。
カラーイメージ「可憐な」は、ヤングイメージの明るい色を利用し、子どものような純粋さを出している。
「可愛い」という美の出現
 「可愛い」という言葉は決して珍しいものではありません。子どもやペットなどに抱く感情は世界共通です。「可愛い」も美の一種です。人は可愛く思うものを見ると心が癒されます。
 「可愛い」は子どもに対して愛しい気持ちを表現したものでした。方言の多くは、この気持ちを表現するのに「愛」の字に関するものが多いのは、「愛おしさ」から来ている言葉です。方言としては「可愛い」系と「めんこい」系のふたつに大別できます。「めんこい」は古語の「愛ぐし」から来ているとされていますが、いずれもキーワードは愛です。愛は美を感じる最高のものです。
 この可愛いは、単なる愛おしいものから、美としての意識に発展してきました。目上の人が目下の人に使っていた「可愛い」が目上の人に対しても使われ、妖怪のような恐怖の対象にまで「可愛い」と表現するようになりました。
 これは漫画やアニメの影響が大きいのですが、今や全世界で使われるようになりました。この美意識は外国には存在しないものです。この可愛いは見かけの言葉ではなく、人やものが持っているごく些細な可愛らしさを拡大して、感動しているところがあります。
 スペインの建築家が「可愛い」を知り、建築のあり様が理解できたと話したことがあります。「スペインには優れた建築物かダサイ建築物かの2種類しかなかった。ガウディをどう評価すればいいのか、賛否両論だった。確かに優れた建築ではあるが、スペインのこれまでのスケールでは計れないものがあった。そこに可愛いがあることを知り、まさにガウディはその美の代表であると気がつきました。だからこそ世界中から愛されるのだ」と。実は自分もその範疇の建築家だと自覚したとのことです。

【可愛い─配色のポイント】
 「可愛い」の配色はどこかに子供っぽさがあるカラーイメージになります。ただ、色だけで表現するのは難しく、曲線を使うことによってその効果が増します。(図3)
図4
「好き」をつくる配色は個性が強くなるのでいかに安定させるかにかかっている。
赤を好きという人も多いが、無彩色による緩衝帯をつくりバランスをとる。
赤を使うと、カラーイメージ「衝撃的な」になる。
赤を建築に応用するのは抵抗があるが、施主の要望であれば、屋根と窓に無彩色を取り入れ実現を計っている。
ライトな美「好き」
 「好き」は「可愛い」と並んで気軽な美の表現です。一般的に好きか嫌いを判断する機会は多いといえます。日本では、その中間ともいえる「どっちでもない」があります。「好き」と同様に使われるのが「いいね」です。
 「好き」の美的表現は愛しているほど深くはありません。ライトな好意を表すときに使われています。人の嗜好は感覚的なもので、そのときの気分によっても変化します。しかし、好きという情況は受け入れますが、「嫌い」はできれば避けたいという心理が働きます。人は「好き」な世界にいることが生理的にも望ましいといえます。
 建築における「好き」もそれほど深い意味を持っていません。自分の好みに合っているということで、嫌悪しないものであることを簡単に表現することができます。
 「どっちでもない」は自分にとって何ら影響がないというときに使っています。関心が元々ないので、好き嫌いの感覚も湧いてきません。自分の関心がないものは、どうでもいいのです。
 街を歩いていて、多くの建造物に出会います。好きと思う建物にも出会います。ここで「好き」を感じている建物をつぶさに観察すると、建物にどんなエキスを付加すればいいのかのヒントが得られます。特に好きになっている理由が何であるのかを分析します。色なのか、形なのか、素材なのか、自分の嗜好の傾向がつかめます。
 建築がどのように人の心を惹きつけるのか。これは建築家にとって設計の原点ともいえる発想の根幹は、意外に自分の好みから生まれていることに注目しましょう。

【好き─配色のポイント】
 基本的には施主の好きなカラーイメージのカラーパレットから色を選びます。施主の個性が強い場合は彩度の高い色も選ばれます。彩度の高い色の使用はバランスを考え、無彩色を有効に使うようにします。(図4)
図5
「面白い」をつくる配色はカラフルでありながら味のある配色になる。
台湾の高雄にあるこの建物は逆さまになっている。
カラーイメージ「メルヘンチックな」は、微笑んでしまうような夢っぽい配色になる。建物が逆さまになっていることでのおかしさと夢っぽさが混ざっている。
「面白い」は意外に深い美
 「面白い」の古語は「面白し」で、趣があるとか風流という意味で、物事のすばらしさをいうときに使われてきました。「おかしい」の古語「をかし」も同様の意味を持っています。私たちは気軽に使っている言葉ですが、かつての意味が失われている、と思うのは早計です。気軽に使ってはいますが、それなりの文化様式の中で美を表す言葉として日常的に使っているからです。現代は面白いものであることが必須のようになっています。そのため意識せずに使っているということです。
 「面白い」は万人うけのする美だともいえます。いわばエンタテインメントの美に通じるものです。ただしお笑い系のものも含まれますが主流ではありません。笑える面白さよりも芸術作品としての面白さです。
 建築における「面白い」とは、幾分奇抜な要素が入っています。面白さも行き過ぎると愚作といわれてしまいます。現代建築では形の奇抜さばかりが目立つものもありますが、裏側にストーリーがあったり、哲学があったりするものもあり、それらが「面白い」になります。

【面白い─配色のポイント】
 笑いとか楽しさを表現する配色ではなく、見た人の想像を超えて、意外性を感じさせる配色になります。カラーイメージにも「意外な」というワードがあります。予想を裏切るサプライズを演出する配色になります。人はある意味サプライズを求めています。意外な出来事を「面白い」と思うものです。小気味よいコントラストを与える配色が効果的です。(図5)
図6
「カッコいい」をつくる配色は無駄がなく洗練されている美のイメージが最適。
中東のバーレーンにある高層ビルは潤沢な資金で最高のカッコ良さを目指した。
カラーイメージ「都会的な」は、先端的で洗練されたものがあり、いわゆるカッコいいと言えるイメージである。光沢があり最も光っている部分は白とする。
「カッコいい」は便利な美の表現
 ハンサムな人を見て「カッコいい」といいます。言葉の意味はそのまま「格好がよい」ですが、もちろん人だけでなく物にも使います。当然外見のよさを讃えていますが、それだけではなく性格など本質を含めている場合が多いといえます。
 仕事で注文主から「カッコいいのつくってくださいよ」という言葉をもらうことがあります。こんなときは形のよさばかりではなくクォリティの高いものも求めています。美学的には注目されることのない言葉です。しかし、ものづくりの世界では無視できない美になっています。
 「カッコいい」の中に洗練された美があるため、ある意味、スマートでモダンなデザインを意味しています。注文主が「カッコいいのつくって」というときには時代的にも先端を行くものを求めていると思って間違いないでしょう。
 「カッコいい」と言葉にするとき、自分のセンスは大したことはないが、注文してつくるものはレベルの高いものであって欲しいという願望が込められています。「カッコいいものを」というときはその言葉の響きよりも重い願いがあります。
 「カッコいい建築物」で検索すれば、世の中が「カッコいい」といっている建築物を山ほど見ることができます。圧倒的に奇抜なデザインが多いのが分かります。

【カッコいい─配色のポイント】
 建築における「カッコいい」はまず形がユニークであることが求められます。したがって色はサブ的な扱いになります。スマートでモダンなものといえばモノトーンの配色が表現しやすいです。クラシックなものは避ける傾向があります。例外として、目もくらむようなカラフルな配色が行われることもあります。(図6)
図7
「癒される」は人によっても異なるが、精神的にリラックスさせる配色となる。
倉敷の水島コンビナートなどの夜景には現実から逃避させる美的効果がある。
カラーイメージ「未来的な」は、希望や将来を感じさせるものがある。
夜景は非現実的で未来を感じさせ、癒し効果となる。
図8
「イカす」はカッコいいよりもさらにさっぱりしている美である。
日本の「粋」に近い配色でつくる。
オランダのアムステルダムにはイカす建物が多い。
カラーイメージ「粋な」は、シンプルな配色だが、おしゃれな感覚が流れている。
黒と赤、そして白の組み合わせによる美になっている。
「癒される」と「イカす」の美的効果
 日本の若者は「癒される」ことをかなり重視しています。生活の中で生じるストレスを解消するために「癒される」ものを求めている人が多いといえます。多少のストレスはたくましく生きるためには必要とされていますが、それすらからも逃げようとする傾向にあるといわれています。
 癒してくれるものとしてペットやアニメなどが求められています。人に求められているもののランキングで優しさが上位にあるのもそうしたことが原因になっているとも指摘されています。
 建築が果たす癒し効果は、もっと生活に密着していると考えられます。仕事や人間関係からくる疲労を解消してくれるのが建物です。それはペットなどの癒しとは別の次元のものです。癒し機能を備える建築物は、別荘やホテルなどがありますが、リビングや寝室もその対象であるといえます。

【癒される─配色のポイント】
 癒しの美をつくる配色は、刺激の強い彩度の高い色を避け、落ち着いた配色になります。現実から逃避させてくれるイメージも適しています。また、青をメインカラーとした配色にもリラックス効果があります。コントラストは弱めに配色するのがポイントです。(図7)
 「イカす」は古語の「行く」からの派生語といわれています。物事がうまくやれるという意味です。どんなことでもそつなくやれる人を「イカす人」というようになり、軍隊で隠語として使われたものが、戦後、映画で石原裕次郎が「イカしてる」といわれ広まったとされています。
 「イケてる」はより古語に近い使い方です。「イケメン」は「イカす人」を元にした造語です。「イカす」は垢抜けているとか、センスがいいという意味で使われていますが、それはその人の行い、あるいは能力から来ています。
 では「あの建物はイカしてる」といった場合、どんな建物が該当するのでしょうか。外見だけのものではなく、そつなくまとめ、行き届いた配慮がある建物だと思います。

【イカす─配色のポイント】
 この配色には「粋な」や「シックな」というカラーイメージが適しています。日本の伝統でもある「粋」には無駄を排しても、なおかつインパクトのある色を選んでいます。コントラストもあり、無彩色の中に1色有彩色を入れるような配色になります。(図8)

次回は美をつくる定番の配色手法を解説します。
南雲 治嘉(なぐも・はるよし)
デジタルハリウッド大学・大学院名誉教授、先端色彩研究所代表(先端色彩研究チーム/基礎デザイン研究チーム)、上海音楽学院客員教授、中国傳媒大学教授 先端デザイン研究室、一般社団法人日本カラーイメージ協会理事長、株式会社ハルメージ代表取締役社長
1944年 東京生まれ/1968年 金沢市立金沢美術工芸大学産業美術学科卒業
著書『デジタル色彩デザイン』(2016年)/『新版カラーイメージチャート』(2016年)
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