色彩のふしぎ 第13回
色による美のつくり方(3)
南雲 治嘉(デジタルハリウッド大学名誉教授)
美を感じる配色は無限にある
しかも感じ方は人によって異なる
共通した美的配色法を利用することになる
美をつくる配色のルールの歩み
 美をつくる配色とは、美的効果がある配色ということです。美的効果を発揮する配色法は複数行われてきました。自分が目指すイメージの実現に必要な美を決め、配色法を選定します。
 一般的に、配色のやり方は個人によってスタイルを持っていることが多いのですが、その場合のリスクとして、施主の要望に柔軟に対応できないことがあります。
 配色の基本は自分のスタイルを押しつけないことです。普遍的な配色法によって、施主の希望するイメージを実現することです。この普遍的な方法というのは、人類の歴史の中で繰り返し行われてきたもので、それなりの効果が認められます。
 配色ルールには、機械的なものもあります。色相環を使って、一定の角度の関係の色を使う配色法があります。しかし、そこにはなぜそれが美なのかの根拠がありません。色相環自体が非科学的なものなので、その結果を信じることができません。
 色彩調和という言葉があります。多くの色彩学者が色相環を元に調和の理論を発表していますが、そもそも色の調和とは何なのかが定義もされていません。自然の風景が見せる美しい風景はこの調和の理論からは説明できません。
 調和させなければならない理由も不明です。都市の景観法にこの理論が応用されていますが、それが正しいとするなら、活気のない都市になってしまいます。ちなみに東京都の景観法でいくと、東京タワーのあの赤はNGです。しかし東京タワーがあの空間を個性化し、活気づけていることは見ての通りです。
 調和ではなくイメージを求めていればあのような景観法はつくられなかったでしょう。調和の理論は施主や建築家の希望を満足させることができません。
図1 美をつくる5つの定番配色
美における秩序
 建築家や芸術家は美をつくる方程式のようなものを求めています。そこに普遍的なルールが自然に成立したと思われます。配色法は絵画の技法や工芸などにも使われてきました。
 多くの芸術家に影響を与えたアラン(本名エミール=オーギュスト・シャルティエ、1868~1951年、フランスの芸術評論家)は「美をつくるのは秩序」であると分析しました。バラバラな素材に対して秩序を与えていくのが芸術家であると述べています。
 その具体例として、著作の『芸術論』(1920年)の中で制服を取り上げています。「個性や容貌、スタイルが違う人たちが制服という秩序を与えることで、美が生まれている。さらに制服を着て整列するとさらに秩序が加えられ、美しさを増す」と解説しています。
 素材がバラバラに描かれた作品に、方向性を統一するという秩序を与えると、確かに美的なものを感じます。これはアマチュアとプロの違いを語るときにもよく使われますが、同じ素材を用いても、秩序立てを知っている芸術家は美をつくり、アマチュアはだらしないイメージにしてしまうということです。秩序立てを知っているかどうかで芸術になるかどうかが決まるともいえます。
 この秩序の中に色も当然含まれます。色による秩序こそ配色ルールなのです。この秩序を与える方法はひとつではありません。多くの方法を芸術家はつくり上げてきました。たぶん芸術家自身は気がついていなかったかもしれません。自分のしている描画技法が美を作る秩序立てであるとは意識していないことが多いのです。
 多くの絵画や建築物の配色を分析して、共通している方法を抽出してみて、初めて美を作る配色のメカニズムが明らかになります。分かっている配色法を使えば、より的確に、スピーディに美しい配色効果が手に入れられます。
 では、美をもたらす秩序にはどのようなものがあるのか、使われている頻度が高いものを取り上げてみましょう。美を作る5つの定番配色は建築における配色に役立ちます。(図1)
図2 同一色相による配色
色味の統一「同一色相の配色」
 最もシンプルで効果的な秩序は、色味を統一する方法です。代表的なのは水墨画です。水墨画は無彩色だけで表現される絵画技法として、中国で誕生しました。墨の濃淡だけで深みのある表現を行っています。色が墨の色に統一されているため、形や奥行きによって深遠な美が作られています。
 デジタル色彩では色記号の数字を同一のものだけを使うことを意味しています。赤の同一色相という場合、620~780nmの範囲にある色ということになります。おなじ色相を統一し、カラーイメージ(記号のアルファベット部分)だけで配色を行うのが同一色相による配色です。
 この配色の特徴はその色味の持つ性格やイメージが強調されることです。例えば、青だけで配色した場合、青の気持ちを落ち着かせる冷静効果、緊張感を和らげるリラックス効果、集中心を高める効果などが強まります。
 その色が持つイメージ効果をフルに利用する時には明度差だけを意識すればよいので難しいことはありません。さらにその色が指定されていたり、こだわりがある場合には適しています。
 無彩色は色味に影響することがないので使用できます。白や黒が同時に配色されても、使用する色の効果を高めることはあっても支障となることはありません。
 アクセントカラーも使用できます。アクセントカラーを入れる場合は、少量ということを忘れてはいけません。アクセントカラーが目立つことは避けます。アクセントカラーはあくまでも全体を活性化し、引き締める目的で使います。
 同一色相の配色では濃淡だけでの配色になるため、隣接する色とのコントラストに注意しなければなりません。コントラストがないとだらけた空間になります。しっかりコントラストを付けると、軽快な生き生きとした空間になります。
 あえて同一色相で配色を行った場合、純粋で深遠なイメージを得ることができます。無駄のないシンプルな空間は、心が洗われるような感覚を味わうことができます。(図2)
図3 同系色による配色
隣接する色味「同系色の配色」
 同系色はスペクトル上の隣接する色2色を指しています。色記号の数字が±2の関係にある2色です。例えば黄は7ですが、±2の関係にあるのは5の黄橙か9の黄緑です。このどちらかの色と配色を行うことになります。
 同一色相の配色はシンプルで緊張感がありましたが、同系色の配色では、色味に余裕が生まれます。料理でいう味わいの幅が広がることになります。あくまでも同系の色であるため、統一感があり、これが美を作ることになります。
 同系色の配色は、生活にもなじみやすいという特徴があります。同一色相の配色は、純粋すぎて周囲になじまず孤立することがありますが、同系色の配色は余韻のようなゆとりが他の色を取り込んでいくことになります。
 暖色系の同系色の配色は人を饒舌にさせる力があります。気分的な盛り上がりと、快活な意欲が湧いてきます。どちらかといえば活動的で積極的な人に向いています。
 一方、寒色系の同系色の配色は、緊張を解きほぐしリラックスできる効果があります。思索や読書、音楽の鑑賞などに適しています。特に、寝室などの配色に用いられています。逆に暖色系はどうしても血流を促進し興奮させる効果があるため、寝室には不向きとされています。
 注意しなければならないのは、明度の高い同系色と明度の低い同系色では人が受けるイメージは異なります。明度が高い場合は朝のような清々しさ、彩度が高い場合は現実的な印象を与えます。明度が低い場合は、夜のような落ち着いた雰囲気を演出します。
 明暗が入り乱れる配色は、コントラストが生じて快活な効果をもたらします。同明度の配色にすると快活さが失われ、頭の回転を鈍らせるといわれています。つまり、程よいコントラストは頭の活性化にもつながるということです。
 同系色で同明度、さらに低明度の配色はいわゆる「調和」しているといわれるものですが、脳の活性化が弱く、認知症を進めることが調査で分かっています。空間の配色は、そこを利用する年代層にも考慮が必要であることを示しています。(図3)
図4 高明度による配色
若々しい空間「高明度の配色」
 明るい色は光に近く、光の輝きのような美しさを感じさせます。高明度の配色はパステル調の配色とも呼ばれています。この配色は明るいだけでなく優しさや夢っぽさがあり、気持ちよくなる効果を発揮します。
 高明度の配色は、若々しさがあり、未来への希望が感じられます。それが夢っぽさにつながっています。この夢っぽさが、若い人から支持される原因となっています。朝のもやがかったような明るさは、イヤなことを忘れさせ、明日への期待を持たせるものです。
 優しさは、その反面弱々しさを伴います。人は優しさを好みますが、そこには弱々しさとはかなさが感じられるからです。強さを求める人からは敬遠される配色といえます。
 幼児の空間や若い女性の空間には高明度の配色がよく使われます。この配色の特徴である優しさがあるからです。快活でエネルギッシュなイメージを求める人には物足りなさがあります。
 カラーイメージの中で高明度のものは2種類あります。ヤングイメージとフェザーイメージであり、若々しさが特徴です。若々しさというのは、それ自体で美しさを生み出しますが、幼児が持つ愛らしさや愛玩的な美だといえます。
 幼児向けのショップや施設、エステ関連のショップではよく用いられる配色です。それだけ優しく心に刺激を与える配色といえます。歌を歌ったりストレッチやダンスをするのには適しています。感性に訴える配色ということができます。
 高明度配色の空間の注意点は、気持ちは若返ることができるが、思考するのを鈍らせる作用があります。感性を刺激しますが、理性に対しての刺激は微弱ということです。したがって、読書や勉強するための空間としてはお勧めできません。
 子供部屋として適していますが、就学前までの効果が高く、小学校に入学する時期には集中心を高め、理性を刺激する配色に切り換えることが望ましいです。集中心を高めるのは青系の配色をメインにします。それができない場合は机の前に青を置くか、カーテンなどを青系にします。(図4)
図5 高彩度による配色
気分を高める「高彩度の配色」
 パーティ会場など雰囲気を盛り上げるための空間の配色に欠かせないのが、高彩度の配色です。高彩度の色とはいわゆる純色(ピュアイメージカラー)系を指しています。色味の中で最も彩度の高い色です。
 高彩度配色がもたらす美は、鮮やかな色が織りなす錦絵や着物の世界で利用されてきました。深さのある美ではなく、考えることや疑問もなく「きれい」といってしまう定石のような美です。高彩度の高い色はカーニバルやお祭りの装飾に使用されます。建築物ではほとんど使用されることはありません。遊園地や子どものための施設などでは重視される配色です。
 高彩度の配色は、それぞれの色味が持つ刺激が最も強く、見ている人の気持ちを上下に揺さぶりワクワクした気持ちにさせます。彩度の高さは、そのままその色の性格が強く出るので、色の生理的な刺激も強く出ます。お祭りのように多くの彩度の高い色味や色光が使われる場合は、それぞれの異なる刺激に溢れ、精神的な興奮状態を招きます。
 純色は甲状腺への電磁波としての刺激が強く、これによって昂進作用が促進されます。つまり、純色を見ることによって多かれ少なかれ人は興奮するということです。純色が多くなればさらに強まります。カーニバルや遊園地は、視覚的な刺激が圧倒的に強く、興奮が高まるのはそのためです。
 極彩色の寺院や宮殿は、同様に興奮をもたらします。これは極楽浄土というものがそのような高彩度のものと思われていることから極彩色という配色が取り入れられると考えられます。人を軽い陶酔状態にする効果があり、思考が麻痺します。
 嫌なことを麻痺させると、楽しい気持ちになります。高彩度の配色は、ある意味麻薬的な力があるのです。もちろん、本物の麻薬とは違い副作用はありませんが、いつまでも見ていると疲労してきます。
 高彩度の配色で注意しなければならないのは、絢爛豪華な高彩度の配色では、それぞれの色の主張が強く、まとまりがなくなることです。まとまりやメリハリを付けるために、白ないし黒を色と色との間に差し込むようにします。色のぶつかり合いが抑えられ、まとまりが生まれて美的効果が高まります。(図5)
図6 無彩色による配色
思索的な深さ「無彩色による配色」
 ここまで、有彩色による配色技法を見てきましたが、無彩色が作り出す美もあります。これは、水墨画やモノクロ写真のような表現に使われる配色です。
 無彩色の世界では色味によるイメージ作りができません。使用できるのは黒の濃淡だけです。白から黒に至る段階は無限にあります。その無限にある段階を利用して表現できるのは遠近感です。
 表現の世界で遠近感が大きな働きをしています。平面をあたかも凹凸があるように感じさせるのはこの遠近感であり、それは立体感にもなっています。
 水墨画の美は、墨の色(黒)で統一されているところにあります。当然、色味がなければ形に意識は集中しますが、水墨の場合輪郭がぼけているため、美的かどうかは墨のボリュームと構図にかかっています。
 無彩色の配色を空間に応用すると、より遠近感を感じることができます。ある色彩研究家は「白は進出色なので、白の部屋は狭く感じ、黒は後退色なので広く感じる」と説明していますが、これは大きな間違いです。ここで進出と後退の心理を当てはめるのは場違いです。
 白は光であり広がりを感じ、黒は光がないので遮蔽を感じます。そのため黒の部屋のほうが狭く感じます。ただし、無ということは安心感を与えるため、狭さよりも精神的な落ち着きにつながります。
 白から黒への段階(グレースケール)を応用すると深遠な空間を意識することができます。その応用として思索ができる空間の配色に向いています。
 無彩色の配色で注意すべきことは、色味がないことはすっきりしていていいのですが、空間としての活性化には微少でも色味が不可欠です。ここではアクセントカラーとして彩度の高い施主の好みの色を使うとよいでしょう。(図6)

次回は美をつくるデザインを含めた配色手法を解説します。
南雲 治嘉(なぐも・はるよし)
デジタルハリウッド大学・大学院名誉教授、先端色彩研究所代表(先端色彩研究チーム/基礎デザイン研究チーム)、上海音楽学院客員教授、中国傳媒大学教授 先端デザイン研究室、一般社団法人日本カラーイメージ協会理事長、株式会社ハルメージ代表取締役社長
1944年 東京生まれ/1968年 金沢市立金沢美術工芸大学産業美術学科卒業
著書『デジタル色彩デザイン』(2016年)/『新版カラーイメージチャート』(2016年)
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タグ:色彩