社労士豆知識 第42回
業務災害(通勤災害)と私傷病の違いについて
佐々木 隆(佐々木社会保険労務士事務所所長)
 業務中にケガをして会社を休業した場合、業務災害といって労災保険の給付対象となります。また、通勤途中でケガを負って休業した場合は通勤災害といって、これも労災保険の給付対象となります。では、旅行中に骨折した、普段の生活の中で病気になった等の社外でのアクシデント(以下、「私傷病」という)については、健康保険(国民健康保険)の給付対象となります。今回はこれらの違いについてご説明したいと思います。
業務災害の解雇制限
 業務災害の場合、労働者が休業している期間とその復帰後30日間は解雇制限といって解雇することが法律で禁じられております。逆に言えば、通勤災害や私傷病による休業が続く場合は、解雇制限は適用されないため、解雇を行うことは可能です。よって、仮に休職規程が無い会社ですと、私傷病での休業が続くと、労働者の労働力の提供における債務不履行を理由に普通解雇の対象とすることができます。
 多くの会社では、通勤災害や私傷病により休業が続いた場合、休職規程に従い休職発令を行います。休職発令の考え方としては、休職期間中に治癒できる可能性がある場合に休職させるといったケースが多く、治癒の見込みがない場合は、休職ではなく、解雇や自己都合退職といった選択にならざるをえないことがあります。
 ちなみに、私傷病で会社を4日以上休んだり、休職発令を受けた場合で、その休業に対して労務不能であることの医師の証明をもらえる場合は、健康保険から傷病手当金といって、標準報酬日額の2/3が最長で1年6ヶ月間給付されます。
 なお、解雇を選択する場合に注意したいのは、就業規則にその根拠が掲示されているかどうかです。たとえば、以下のような条文が載っていれば、規則上は解雇の事由に該当するものと判断されます。「身体や精神の故障で業務に耐えられない場合や業務を完全に履行できない場合は普通解雇とする」。
業務災害と通勤災害の違い
 業務災害と通勤災害に大きな違いがあります。先に説明した解雇制限は通勤災害にはありません。また、年次有給休暇は1年間(入社して最初の期間は6カ月)の所定労働日数のうち、8割以上の出勤率がないと付与されないことになっておりますが、その付与要件である所定労働日の8割以上出勤においても通勤災害で会社を休業した場合は欠勤扱いとなります。さらに、業務災害の場合は使用者責任といって、使用者が当該労働者に対して休業3日目までの給与を保障(4日目以降は労災保険から給付されます)しなければなりませんが、通勤災害の場合はその使用者責任は発生しません。
 要するに、業務災害も通勤災害も労災保険の給付対象にはなりますが、通勤災害の場合はあくまでも私傷病と同じ扱いとなり、労基法上の各種制限は適用外となる訳です。
休職規程
 話を休職に戻しますが、休職期間が満了した場合に100%の業務は出来ないが軽微な業務や配置換えが可能であるならば、復職可能なケースがあります。先の例による条文を見ると、業務の不完全履行の場合は普通解雇としているので、このようなケースは想定しないといった考えになりますが、会社の規模等(大企業などは特に)によっては、裁判で解雇不当の争いになった際に会社側が不利になることもあります。
 たとえば、今まで行っていた業務が肉体労働で、軽微な事務作業なら業務を行えるといったケースだと、実際に配置換えが可能であるにも関わらず、それを行わずに就業規則に従い解雇したとなると、解雇権の濫用と判断される可能性があります。
 また、リハビリ期間などを相当期間設けてあげるなどの配慮を求められる裁判例もあります。まずは休職規程を準備しておいて、私傷病(通勤災害も含む)が発生した場合は、いきなり解雇事由にするのではなく休職を第1選択肢として扱い、復職後の対応をある程度細かく決めておくのがベターであると考えます。
 なお、休職発令の際に休職期間満了時に一定の治癒が認められない場合の自然退職についても事前に伝えておいた方が良いでしょう。

 最後に、業務災害や通勤災害が発生した際で、実際によくあるケースについてご説明します。
 たとえば通勤中に転んだ、仕事中に誤ってケガをしたなどの軽微な事故の場合、労災保険ではなく健康保険証を使って病院に行くことがあります。これは、冒頭に申し上げた通り労災給付の対象になりますので、健康保険から給付を受けてしまうと、労災保険の給付に切り替える場合、一旦健康保険に給付額の7割分を返納しなければなりません。また、労災給付の場合は療養にかかる給付は原則10割保障ですので、健康保険の自己負担3割も必要ないので労働者に対して有利になります。
 労災指定病院は全国都道府県に複数ありますので、会社近くの労災指定病院をインターネット等で事前に調べておくことをお勧めします。
佐々木 隆(ささき・りゅう)
社会保険労務士、佐々木社会保険労務士事務所所長
1970年東京生まれ/血液型:O型/趣味:海釣り(アオリイカ、ヒラメ、マダイ、鬼カサゴ、シロキス、カワハギ)、野球、水泳
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士