思い出のスケッチ #319
野川の菜の花
稲垣 法子
 調布に移り住み早や七年となる。野川は西東京を横断する多摩川とほぼ平行して流れて、二子玉川辺りで多摩川に合流するのだが、住民の生活に密接につながり親しみ易いコミュニティの場でもある。一年を通してジョギング、ウオーキング、買物の途中の散歩コースとして楽しむ人が多い。
 川沿を散策すると、四季折々に移りゆく自然の情景をみることができる。早春はレンギョ草、雪やなぎ等の草花をめでる。何と言っても開花が待たれる桜が花開くと両岸の桜並木は一気に華やかに彩られる。また桜の枝がしだれて土手から川面に写る姿も優雅で美しい。新緑になるころには、川の土手や中洲は菜の花が満開となり一面黄色に覆われ、蜂や蝶が飛びかっている。川のせせらぎを求めて、サギやカワセミなどがエサをついばんでいる。春の陽を浴びて植物も野鳥も昆虫も皆、水の恩恵を受けて輝いている。親子連れのグループが水に親しんで遊ぶ様子は穏やかな春の午後のひと時を感じる。
 この野川も二〇〜三〇年前には、まだ橋のたもとから遠く西方に富士山を望むことができたそうだが、今や住宅や高層マンションが建ち、富士山を垣間見ることすら難しくなった。しかし、人と自然を結びつけてくれる心のよりどころとして、これからも大切に守っていきたい。
稲垣 法子(いながき・のりこ)
1944年 富山県富山市生まれ/1967年 女子美術大学芸術学部デザイン科インテリア専攻卒業/1977年 高木滋生建築設計事務所勤務/1992年 稲垣アトリエ二級建築士事務所設立/2005年 稲垣アトリエ一級建築士事務所設立(夫と共に)/2015年 同事務所、廃業