メンタル不調者への対応と労務管理
社労士豆知識 第11回
本領 晃(本領社会保険労務士事務所 所長)
精神障害の労災請求件数、支給決定件数が過去最高に
厚生労働省は平成26年度の「精神障害に関する事案の労災補償状況」の取りまとめを発表しました。それによると請求件数は1,456件で前年比47件の増加で過去最多。また、支給決定件数は497件で前年比61件の増加となりこれも過去最多となりました。
メンタルヘルス不調者への対応は今や企業の人事労務管理において最大のポイントとなっています。労災認定された後に裁判で高額な損害賠償の支払いが命じられるという判例も出ており、企業とってはリスクマネジメントという観点からその予防を進めていかなければなりません。
精神障害の労災請求件数と支給決定件数
メンタルヘルスとは
メンタルヘルスとは「心の健康」のことです。体の健康が大切なことはもちろん、心も元気であることは仕事を進めるうえで重要なことです。厚生労働省は「労働者の心の健康増進のための指針」を提案し4つのメンタルヘルスケアの取り組みを進めています。
・セルフケア
自らストレスの状態であることに気づき、正しい理解とストレスへの対処ができるようにする。
・ラインケア
管理監督者による相談の対応、職場環境の改善など。
・事業場内産業保健スタッフ等によるケア
セルフケア、ラインケアが効果的に実施されるように保健スタッフ等による企画立案など。
・事業場外資源によるケア
事業場外ネットワークにより情報提供や助言を受ける。職場復帰における支援など。
地域産業保健センター、健康保険組合等を活用。
メンタル不調を想定した就業規則の作成が必要
メンタル不調者に対応した規定でいちばん重要なのは休職に関する規定です。休職とは社員が私傷病など自己の都合で働くことができなくなった場合に、会社に籍を置いたまま、一定期間労働を免除することです。休職の制度は法律で決まっているものではありませんので、休職の制度を採用するかどうか、またその内容についても会社の裁量で決めることができます。休職制度を採用する場合に休職から復職までの間について決めておかなければならないのは次の項目になります。①どんな場合に休職になるのか。また会社は休職命令を発令することができるのか。②休職期間は何カ月とするか。③休職期間中の取り扱いについて。④復職可否の判断について。⑤休職期間満了で復職できなかった場合の扱いについて。
ストレスチェック制度について
安全衛生法が改正され、平成27年12月1日より労働者の心理的負担の程度を把握するための医師、保健師等による検査(ストレスチェック)の実施が義務化されます(ただし従業員50人未満の事業場については当分の間努力義務)。概要は以下の通りです。
①ストレスチェックを1年に1回実施する。
②高ストレス者として面接指導が必要と評価された労働者からの申し出により医師による面接指導を行う。
③面接指導の結果必要があると認めるときには、作業の転換、労働時間の短縮、その他適切な就業上の措置を講じなければならない。
④面接指導の申し出を理由として解雇、雇い止めなど不利益な取り扱いの禁止。
ストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調のリスクの高い者を早期に発見し、 医師による面接指導を行うことにより、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止する制度なので労務管理として積極的に活用していくことが今後重要になってきます。
本領 晃(ほんりょう・あきら)
本領社会保険労務士事務所 所長
大学卒業後、大手半導体製造装置メーカーの技術者、統括管理部門長などを経験。人を育てる社員教育に於いての豊富な経験を持ち、就業規則の導入コンサルを軸とした持続可能な事業活動の運営をサポートしている。元東京労働局企画室総合労働相談員、現在東京簡易裁判所で司法委員として民事訴訟の和解において裁判官の補助を行うなど労働問題を中心に活躍中。
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