裁量労働制について
社労士豆知識 第10回
塚田 育子(塚田パーソネルサポート 代表)
専門業務型裁量労働制とは
裁量労働制は、仕事のやり方や進め方、時間配分等を労働者本人の裁量に委ね、その労働時間の計算を実労働時間でなく、あらかじめ労使で定めた時間を働いたとみなす制度です。
現在、経営の中枢部門で企画・立案・調査・分析の業務に従事する労働者を対象とした「企画業務型」と、研究開発や弁護士・デザイナーなど、その業務の性質上、専門性が非常に高い職種の労働者を対象とした「専門業務型」の2種類があります。
専門業務型裁量労働制の対象業務は、業務の遂行の手段、時間配分の決定等について具体的な指示をすることが困難な業務として、厚生労働省で限定されており、建築士の業務はその対象業務です。
しかし建築士の業務だからといって必ずしも裁量労働制の対象となるわけではありません。裁量労働に該当するかどうかは、実際の業務内容から実質的に判断することとなります。厚生労働省の通達で厳密に規定されており、「建築士の業務とは、法令に基づいて建築士の業務とされている業務をいうものであり、たとえば、建士法第3条から第3条の3までに規定する設計または工事管理」は該当しますが、「たとえば他の建築士の指示に基づいて専ら製図等を行うなど補助業務」を行う労働者は該当しません。

労使協定の締結、届け出が必要
専門業務型裁量労働制を実施するには、事業所ごとに対象業務やその業務の遂行に必要とされる労働時間、対象労働者に対して使用者が具体的な指示をしないことなどの一定の事項を定めた書面による労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出をしなければなりません。また、対象労働者の意見を聞くことが望ましいとされています。
時間外、休日、深夜労働や休憩時間については?
この制度の適用により対象労働者の1日当たりの労働時間は、実際に労働した時間にかかわらず協定で定めた時間、労働したものとみなされます。たとえば協定で定めた時間が8時間である場合、実際に労働した時間が3時間であっても10時間であっても、8時間働いたとみなすこととなり、時間外労働は発生しません。
しかし協定で定めた労働時間が法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超える場合は、時間外労働となり割増賃金が必要となります。深夜労働、休日労働についても、その時間数を把握して、割増賃金を支払わなければなりません。また裁量労働制の対象者であっても、他部署等の対象業務以外に従事した場合は、みなし労働時間を適用することは出来ませんので、実労働時間に基づき割増賃金を算出する必要があります。
休憩時間や休日についても法定通りに与えなければなりませんが、裁量労働制では労働時間の配分は労働者の裁量に委ねていますので、労働時間中に休憩時間を取ることを就業規則や労使協定に定めておき、対象労働者の判断で休憩時間を取ることとなります。休日については、対象労働者が勝手に休日を決めることはできません。使用者の決定に基づいて休日を取得することとなります。

裁量労働制でも勤務状況の把握は必要
専門業務型裁量労働制は、仕事のやり方・進め方、時間配分の決定について具体的な指示をしない旨を、労使協定で定めることが導入要件とされています。したがって使用者は、賃金算定の基ともなる労働時間を把握しないことを前提とした制度です。
しかし深夜労働や休日労働をさせれば割増賃金を支払わなければなりません。また制度導入に際しては、勤務状況に応じての健康診断の実施、相談窓口の設置等の、健康・福祉確保措置の具体的内容を労使協定に定め、措置を講ずる必要があります。
深夜労働や休日労働の実態把握のみならず労働者の健康確保のためにも、勤務状況を把握することが必要となります。使用者は安全配慮義務を負っていることは変わりません。長時間労働など心身の健康を害するような働き方をしていないかに気を配り、必要に応じで適切な対応を取ることが求められます。
塚田 育子(つかだ・いくこ)
社会保険労務士、塚田パーソネルサポート 代表
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