労災保険の認定──これって労災の対象になるの?
社労士豆知識 第9回
鍋島 知未(なべしま社会保険労務士事務所 所長)
労災保険とは
 労働者災害補償保険法に基づく制度で、業務災害または通勤災害により、労働者がケガをした場合、病気にかかった場合、障害が残った場合、死亡した場合等について、被災労働者又はその遺族に対し所定の保険給付を行う制度です。
 今回は、「これって労災の対象になるの?」と迷いがちな事例の判断基準についてみていきたいと思います。
「業務災害」とは
業務災害として労災保険給付の対象になるためには、①業務遂行性(事業主の指揮命令下で労働を提供している過程であること)と、②業務起因性(災害の原因が業務であること)を満たす必要があります。
Q. 社宅が火事になり、消火中にやけどをしたときは?
A. 社宅も普通のアパートと同様に私的生活空間ですので、残念ながら業務災害とはなりません。
Q. 出張帰りに2時間程度観光をし、改めて本来の帰路に戻ってからケガをしたときは?
A. 出張中は特別の事情がない限り出張過程の全般について事業主の指揮命令下にあると言えます。住居と出張先との往復は通勤ではなく、業務行為となります。この場合、観光をしている時間は私的行為ですが、その後の帰路でのケガは「業務災害」となる可能性があります。
「通勤災害」とは
 労災保険給付の対象になるのは、言葉通り「通勤」による災害です。この場合「通勤」とは、労働者が、①就業に関して、②住居と就業場所との間を、③合理的な経路および方法により、移動することをいい、業務の性質を有するものを除きます。
【原則】通勤の途中で合理的な経路をそれたり(逸脱)、通勤とは関係ない行為(中断)をした場合は、その逸脱・中断の間及びその後の移動は通勤となりません。
 ※経路上の店で渇きをいやすためにごく短時間お茶、ビール等を飲む等のささいな行為については、この行為も含め通勤とされます。
【例外】日常生活に必要な行為を行うための最小限度の逸脱・中断については、その逸脱・中断の後の移動は通勤とされます(帰路で惣菜を購入する、独身者の食事、クリーニング店、理美容院への立ち寄り、病院等での受診など)。

Q. マンション自室の玄関を出た所で転倒した場合は? A. どこから通勤が始まるかというと、マンションの場合は自室玄関のドアが住居と通勤経路の境界になります。一戸建ての場合は自宅敷地を出たところが境界になります。
Q. 会議終了後、打ち上げをかねて社外の飲食店で2時間ほど飲んだあと、その帰り道での災害は?
A. 会社内での意見交換であれば、業務が継続しているという判断もあるかもしれませんが、飲食店での2時間にわたる飲食は業務の延長とはならず、その後の災害については認められないでしょう。
Q. 会社からバスの定期代をもらっているが、実際は自転車通勤をしているときのケガは?
A. 自転車での通勤は、合理的な方法での通勤と考えられますので通勤災害となります。会社によっては定期代の返還等のペナルティはあるかもしれません。また、最近の健康志向の高まりから自転車で1時間以上かけて出社するような場合は、所要時間からみて合理的な方法とは言えないでしょう。
実際は、個々の事案を具体的に判断するため、類似のケースでも必ず認定されるとは限りません。
ただ考え方が分かると労災保険に興味が湧いてくるかもしれません。
鍋島 知未(なべしま・ともみ)
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