社労士豆知識 第29回
年金の繰上げ・繰下げ【繰下げ編】
竹山 文(竹山社会保険労務士事務所 所長)
 年金を通常より早くもらい始めることを「繰上げ受給」、遅くもらい始めることを「繰下げ受給」といいます。今月は、「繰下げ受給」について、しくみと注意点についてご説明いたします。
繰下げはいつから?
 老齢基礎年金または老齢厚生年金を65歳のときに請求せず、66歳以後に申し出て受給することを「繰下げ受給」といいます。年金額は1か月につき0.7%増額されます。少なくとも1年待たなくては増額されません。
 老齢基礎年金と老齢厚生年金、別々に繰り下げることも可能です。たとえば、老齢基礎年金だけを5年待って70歳からもらうと、779,300円(平成29/2017年度額)の年金が、1,106,606円となり、生涯この額をもらい続けることになります。
 なお、昭和36(1961)年(女性は昭和41/1966年)4月1日以前生まれの人は、一定の要件を満たすと65歳前から受給できる「特別支給の老齢厚生年金」がありますが、これを繰り下げることはできません。
 65歳になるまで特別支給の老齢厚生年金を受給していた人が支給繰下げを希望する場合は、65歳前月に日本年金機構から届く年金請求書(ハガキ)の希望する年金の繰下げ欄に○をつけて提出します。両方(老齢基礎年金と老齢厚生年金)繰下げせずに通常受給する場合は、どちらにも〇をつけずにハガキを出し、両方繰下げを希望する場合は、ハガキを出さないということになります。
 このハガキは繰下げの意思表示のみで、実際にこれからもらい始めたいというときには「繰下げ請求書」を出さなくてはなりません。よく忘れる方がいらっしゃるので注意して下さい。
 厚生年金の中でふたつ以上の種別(民間会社員と公務員など)の加入期間がある人は、同時に繰下げ請求しなければなりません。
繰下げ受給の注意点
・繰下げ請求した翌月から年金支給が始まります。
・65歳以降に加入した期間の年金は、繰下げの対象とはなりません。
・待機中に他の年金の受給権者となったときは、その時点で増額率が止まります。
・厚生年金基金の加入員または加入員だった人が老齢厚生年金の繰下げを国に申し出る場合には、同時に基金へも申し出る必要があります。同じ期間、繰下げ待機となります。
・平成26(2014)年4月より、70歳を過ぎて請求した場合でも70歳時点で請求があったものとみなし支給されるようになりました。なお、施行日前に70歳になっていた人が遡れるのは施行日(平成26/2014年4月)までです。

【在職中の人の繰下げ】
 繰下げ待機中に在職していた場合は、在職により減額調整された年金額が増額の対象となります。
 年金を早くもらうか、何年か待って増額された年金をもらうか、その損得は、その人の寿命次第です。「年金受取累計額」で考えると、何歳から受給し始めてもおおむね77〜78歳で同額になります。それ以上長生きする場合は、繰下げした方が得といえます。
竹山 文(たけやま・あや)
特定社会保険労務士・年金アドバイザー/北海道釧路市出身/出版社勤務を経て、2006年12月、竹山社会保険労務士事務所を設立し独立開業/2010年4月、株式会社ベストアビリティを設立し取締役就任
http://best-ability.com/
記事カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士