社労士豆知識 第28回
年金の繰上げ・繰下げ【繰上げ編】
竹山 文(竹山社会保険労務士事務所 所長)
  年金を通常より早くもらい始めることを「繰上げ受給」、遅くもらい始めることを「繰下げ受給」といいます。今月は、「繰上げ受給」について、そのしくみと注意点についてご説明いたします。
繰上げできる人は?
 老齢厚生年金の支給開始年齢は、これまで60歳でしたが、法改正により段階的に引き上げられ、平成37(2025)年度(女性は平成42/2030年度)には、完全に65歳からの支給となります。
 引き上げ経過措置中である、昭和28(1953)年(女性は昭和33年)4月2日以降に生まれた人の「特別支給の老齢厚生年金」は、希望すれば60歳から受給開始年齢の前月になるまでの間にいつでも繰り上げて受けることができます。年金額は1カ月につき0.5%減額されます。
※60歳〜64歳の年金を「特別支給の老齢厚生年金」、
65歳からの年金を「老齢厚生年金」といいます。

【繰上げ受給率】
 下の図表のケースの場合、本来ならば63歳からもらう報酬比例部分を3年前倒しで60歳からもらうので、「繰上げ支給の老齢厚生年金」の額は、本来の年金額から18%(0.5%×36カ月)減額され、老齢基礎年金は、本来支給が65歳なので、5年前倒しのため30%(0.5%×60ヶ月)の減額です。
 受給開始年齢前に繰り上げる場合は、老齢厚生年金と老齢基礎年金は同時に繰上げ請求しなければなりませんが、63歳を過ぎてから老齢基礎年金のみ繰り上げることは可能です。
 また、ふたつ以上の種別(民間会社員と公務員など)の加入期間がある人も同時に繰上げ請求しなければなりません。
昭和32年4月2日〜昭和34年4月1日生まれの男性が60歳から受給するケース
繰上げ請求の注意点
 一度請求すると、請求の取り消し、変更は絶対にできません。また、請求したときの年齢に応じて、一定の額が減額になり、一生涯減額された年金を受け取ることになりますので、よく検討してから請求して下さい。
 他にもデメリットがいくつかあり、「それを承知の上で請求します」という文書にサインし、繰上げ請求書とともに日本年金機構に提出することになっています。
【その他のデメリット】
・65歳前に障害者や寡婦になった場合、障害基礎年金(事後重症等)や寡婦年金は支給されません。寡婦年金の受給権がある方はその権利を失います。
・65歳になるまでに配偶者の死亡により遺族年金が受け取れるようになった場合、65歳になるまでは、繰上げの老齢年金か遺族年金のどちらか一方しか支給されません。
・厚生年金基金の加入員又は加入員だった人が国に老齢厚生年金の繰上げ請求をする場合は、基金の代行部分も同時に繰上げの対象となり、減額支給となります。
・国民年金に任意加入中の人は繰上げ請求できません。
・繰上げ請求後に国民年金に任意加入することはできず、保険料の追納もできなくなります。
・老齢基礎年金を繰り上げて請求した場合、国民年金保険料の後納制度による保険料納付ができません。
次回は「繰下げ編」です。
竹山 文(たけやま・あや)
特定社会保険労務士・年金アドバイザー/北海道釧路市出身/出版社勤務を経て、2006年12月、竹山社会保険労務士事務所を設立し独立開業/2010年4月、株式会社ベストアビリティを設立し取締役就任
http://best-ability.com/
記事カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士