社会保険未加入問題
連載:社労士豆知識 第7回
山本 浩二(山本労務管理事務所 代表)
社会保険の加入義務について
 ご存じの方も多いかと思いますが、社会保険(健康保険・厚生年金)は個人事業者であれば労働者5人以上、法人であれば社長ひとりでも加入が義務付けられています。
 しかし、保険料の負担が大きく(給与額の約14〜15%が会社負担)となりますので、加入が義務付けられている企業でも未加入のままになっているケースがあるのも事実です。そこで最近は各行政が未加入企業に対し、加入促進対策を積極的に進めています。
国土交通省の建設業未加入企業への取り組み
 建設業の社会保険加入状況は平成23年度時点において、元請78%、1次55%、2次44%となっており、一般企業と比べても加入率が極めて低い状況にあります。そこで、国土交通省では建設業に対して平成29年度までに許可業者100%加入を目標とし、未加入企業対策を始めています。主な取り組みは以下の通りです。
  1. 経営事項審査における評価の減点。
   健康保険未加入-40点、厚生年金未加入-40点。
  2. 建設業許可・更新の申請時に保険加入状況確認。
  3. 元請企業が下請企業に対して指導をするよう要請。
   施工体制台帳や再下請通知書等を利用しての確認。
   また、平成29年度以降については、適切な保険に未加入の作業員に対して工事現場に入場を認めない取り扱いとすべき、との方向性を打ち出していることから、未加入企業にとっては大きな問題を抱えることになりそうです。
パートの社会保険加入について
 業種に関わらず、パートの社会保険加入は労働時間(年収は関係ありません)で判断されます。正社員の労働時間の4分の3以上で加入義務が発生しますので、正社員が週40時間労働の場合は週30時間以上の就労時間で加入義務が発生することになります。したがって労働時間の短い場合は加入義務はありませんが、平成28年10月からは、規模等の一定の条件を満たす企業について、パートも加入が義務付けられます(学生は除く)。
 【社会保険加入義務条件】(①〜④すべてを満たす場合)
 ①従業員501人以上の企業。②週20時間以上労働。
 ③年収106万円以上。④勤務期間1年以上。
 501人未満の企業では現行通り、正社員の4分の3以上の基準で変わりませんが、将来は同じような基準が中小企業にも適用されるかも知れません。
国民年金未納問題
 社会保険未加入企業の問題やパートの社会保険加入義務は、国民年金の未納問題に通じるところがあります。時間の短いパート等で収入の少ない方は国民年金を滞納している場合も多く、将来的に年金の受給権を満たさない、いわゆる無年金になってしまう場合もあります。
 厚生年金に加入した場合は国民年金にも加入したこととなる2階建て制度であるため、厚生年金の加入者が増加すれば、必然的に国民年金の未納者が減少する可能性が高くなるのです。平成25年度における国民年金未納者・未加入者は、全国で268万人いますが、国としてはこれらの対策に本腰を入れ始めたといえます。
今後の年金制度
 年金を受給するために必要な加入期間ですが、現在は原則として国民年金に25年以上加入することが条件となります。1ヶ月でも加入期間が不足すると年金が受給できません。しかし消費税が10%となる時点に合わせて、10年以上加入で受給可能に変更される予定です。保険料を納めても25年に満たないから、と年金を納めていない方も年金を受給できる可能性が出てきます。
 冒頭でもお伝えしたとおり、企業にとって社会保険料は大きな負担であるのは間違いありませんが、社員が年金に未加入のまま、将来、無年金となってしまうことは防がなくてはなりません。年金制度には将来の老齢年金ばかりでなく、障害年金や遺族年金といった保障もありますので保険料だけで損得は計れません。
 いざという時の社会保障ですので、国にもしっかりと運用や計画を立ててもらい、社員や家族が安心した老後をすごせる年金制度を確立してほしいものです。
山本 浩二(やまもと・こうじ)
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