テクノロジー+ 第10回
「燃えない」「割れない」──ロックウール断熱材の木造湿式外張り断熱工法
土屋 弘司(株式会社ヤブ原 特販部)
不燃ライト工法(木造用)とは
 「不燃ライト工法(木造用)」(以下、本工法)は、不燃材であるロックウールに直接モルタルを塗り付けて下地を形成する、木造建築物における湿式外張り断熱工法です。
 平成29(2017)年度に45分準耐火構造の性能評価試験を実施し、平成30(2018)年4月に国土交通大臣認定を取得しました。
 以下に本工法の開発における経緯や背景を踏まえ、大臣認定の概要および本工法の優位性となる特徴について紹介します。
開発の背景①──求められる外張り断熱
 現在、さまざまな分野において温暖化対策としてのエネルギー削減が求められています。建築分野においては省エネ基準に基づく法律の義務化が促進されており、建築物における断熱性能の向上は今後さらに求められてくると思われます。
 木造建築物における断熱工法は、大きく分けて内壁の中に断熱層を設ける充填断熱と、躯体の外側に断熱層を設ける外張り断熱があります。現在は建築計画に応じていずれかを選択することが多い中、今後は省エネ基準法で要求される断熱性能を満たすための方策として、充填断熱と外張り断熱を併用するケースが増えてくると予想されます。
 当社では、この状況を踏まえつつ、木造建築物における多様な性能に対しても応えることができる湿式外張り断熱工法を目指して開発しました。
開発の背景②──実績と技術の結集
 当社は、2008年に日東紡より事業譲渡を受けたことをきっかけにRC造等に施工する「ダンウォール」という外断熱工法に取り組み始めました。
 ダンウォールは事業開始から40年もの実績をもつ工法で、撥水ロックウール断熱材に吊り壁工法を組み合わせた湿式工法の「ダンウォール・ウェット工法」、プラスチック系断熱材と外装板を複合化した乾式パネルによる「ダンウォール・ドライ工法」などがあります。
 一方、当社は創業120年にわたる歴史の中、左官材料を中心に取り扱う湿式建材商社として成長してきました。40年にわたって受け継がれてきた外断熱の技術と、当社が培ってきた湿式に対する知識を結集して開発された湿式外断熱工法が、「ダンウォール・不燃ライト工法」です。
 このRC造用に開発し販売している「ダンウォール・不燃ライト工法」をベースに、需要の多い木造建築物において採用できるよう応用し、大臣認定を取得したものが本工法です。
図1 木造軸組み造 45分準耐火構造外壁 透視図
写真1 45分準耐火評価試験直後の様子(屋外面)
大臣認定の内容について
 本工法にて取得した大臣認定は、木造軸組造外壁、および木造枠組造外壁に適用される45分間準耐火性能です。
 構成内容は、屋内側から順に、せっこうボード重ね張り、気密フィルム、構造体(柱・間柱または枠)、構造用面材、防水性下地調整モルタル、外張り断熱材(ロックウール)、ベースコートモルタル、となります(図1)。
 本工法で採用しているロックウール断熱材は極めて優れた耐熱性能を有していることから、評価試験は遮炎性能においてできるだけ不利な条件(充填断熱材なし、構造用面材は合板9mm釘留めなど)で実施し合格しました。これにより、外張り断熱材のみで計画するか、充填断熱を併用するかを選択することが可能であり、構造用面材も幅広い選択肢から選定できるようになります。つまり、現在、標準的に計画されている構造設計のまま、外張り断熱工法を付加することが可能ということです。このことは、本工法を検討、採用いただく上でのメリットと言えるのではないでしょうか(写真1)。
写真2 45分準耐火評価試験直後の様子(屋内面)
工法の特徴①──燃えない断熱材
 本工法の最大の特徴は、断熱材にロックウール、接着剤とベースコートにモルタルを採用した建設省告示第1400号で定められた不燃材料のみで構成される「燃えない」工法であることです。
 断熱材のロックウールは玄武岩を主原料としており、耐熱温度はヨーロッパ規格適合のA1クラス(約1,000℃以下)。一般的に火災による温度は800℃から900℃といわれていることに対しても安全性の高い断熱材です。
 その安全性を確証することができたのは、他ならぬ45分準耐火認定の評価試験においてでした。900℃に達する試験炉内で45分間放熱した直後でも、屋内側せっこうボード表面の平均上昇温度はわずか16℃程度と、素手で触れる状態だったのです。
 ロックウール断熱材自体の耐火性能のみならず、驚くべき耐熱性能も実証される結果であったことを、ここに特筆させていただきます(写真2)。
 なお、このヨーロッパ規格のロックウールは、断熱材において先進的な欧米諸国においてはミネラルウールと呼ばれ、2017年の英国ロンドンのタワーマンションにおける火災の影響を受けて以降、延焼が懸念されるEPS保温板などのプラスチック系断熱材に代わり需要が急増しているようで、より安全性を重要視する傾向にあるようです。
写真3 ロックウール加工状況
写真4 ベースコート塗布状況
工法の特徴②──優れた施工性
 本工法は、構造用面材の上に防水性下地調整モルタルを塗布することで防水層とモルタル下地を同時に形成します。そのため、ロックウール断熱材を接着モルタルで直貼りすることができるようになり、留付金具が不要となることから胴縁などの下地材は不要。留付金具が不要ということは防水性モルタルを貫通する孔がなくなり、安全性の高い防水層を形成します。
 また、ロックウール断熱材は波状(コルゲート)に製造されているため、圧縮強度、引張強度に優れていることから、コテ圧をしっかりと掛けて直接ベースコートモルタルを塗布できます。そのため、ラス網などの取り付けも必要としません。
 ロックウール断熱材は電動工具を用いず、断熱カッターで容易に加工できます。これらのことから、本工法は作業性がよく、安全性も高い、施工性に優れた工法であるといえます(写真3、4)。
写真5 ロックウール断熱材 貼り状況
工法の特徴③──割れない下地
 ロックウール断熱材は、繊維質の断熱材であるため躯体の動きを限りなく緩衝してくれます。その理論に初めて気付いたのは、社内試験における層間変位試験においてでした。試験結果として、層間変位率が1/60以下になってもベースコートモルタルが影響を受けることはなく、最終的には試験装置の限界範囲まで稼働しても一切の変化がなかったのです。
 前述の通り、留付金具を使用しないことも要因のひとつであったかもしれません。
 この結果を基に、テスト施工に踏み切った現場がありました。まだ不燃ライト工法の開発段階で、木造45分準耐火認定を取得する以前のことであったことから、窯業系サイディングを用いて認定外壁としていただき、その上に本工法を施工させていただきました。
 コテ塗りの大壁下地とするため、ロックウール断熱材は窯業系サイディングの板間をすべて跨いで貼り付け、必要最低限の伸縮目地を設けただけの仕上げとしました(写真5)。
 結果としては、引き渡し後の1年点検のみならず、約5年経過した現在に至っても、応力が掛かりクラックの発生しやすい開口回りや、出隅部などであっても、目視において一切のクラックは確認できておりません。
 ベースコートであるモルタル自体の収縮性クラックが発生する可能性があるため、ノンクラックを保証することはできませんが、繊維系断熱材であるロックウールを採用した本工法は、躯体や下地の応力を受けることのない、極めてクラックが発生しにくい工法であるといえます。
写真6 不燃ライト工法(木造用)完成写真
木造建築物における不燃ライト工法の意義
 約5年前のことになりますが、平成28(2016)年12月に発生した糸魚川市における大規模火災は未だ記憶されている方は多いのではないでしょうか。老朽化した住宅であったことや強風などの複合的な要因があったとはいえ、木造住宅における延焼の危険性に不安を覚えた方も多くいらっしゃると思われます。さらに、今後どこで起こるかもしれない大地震が引起こす大火災も危険視されています。
 その一方で、国土交通省(林野庁)の推進事業として健康な森林の維持・生産、温暖化防止の施策から、住宅や公共物件での国産木材の利用が指導されています。ウッドショックにより国産木材の需給率低迷が明るみに出たことから、今後はさらに促進され、木造建築物の比率はこれからも高まっていくと考えられます。
 本工法は、火災が発生した際の延焼を最大限防ぐことができる工法です。湿式工法としての意匠性や、省エネ基準に適合する断熱性を提供するだけではなく、まずは安心して木造を選択できるように、木造住宅に住む人に安全・安心を与えることができるように、「不燃ライト工法(木造用)」という外壁を多くの人に広めていきたいと思います。
土屋 弘司(つちや・こうじ)
株式会社ヤブ原 特販部
1977年 東京都生まれ/2000年 東京理科大学卒業/設計事務所勤務を経て、2011年 株式会社ヤブ原に入社/同社では営業として勤務。主に工事管理と外断熱事業を担当