はじめに
われわれ越井木材工業は木材を正しく使い、日本の森林と林業を活性化させ、次世代に持続可能で健全な社会を引き継いでいくことを理念のひとつに掲げています。国産材に付加価値を付けて、都市部の必要な場所へ使い、林業へと還元していく。森林整備が進み、問題視されている土砂災害の抑制や水質改善へとつなげ、さらに近隣の農作物・工業へも良い影響を与えていく。そんな未来を描いています。この未来には、ただ木を切って使うだけではなく、付加価値として、木が育つサイクルと同じだけ永く使えるようにすることが重要です。越井木材工業には、木材を永く使うためのさまざまな技術があります。今回は代表的な4つの技術をご紹介します。
薬剤注入技術(加圧注入処理)
越井木材工業は創業当時(1890年頃~)、電柱や線路の枕木として防腐薬剤を注入した防腐木材を販売していました。現在は、その技術を土台や胴縁などの構造材に使用しています(図1)。加圧注入処理(図2、3)とは、
① 製材した材料を窯に入れます。
② 木材の空気を抜くために減圧します。
③ 薬剤を窯に充填します。
④ 圧力をかけながら薬剤を木材に含浸させていきます。
建物の強度を永く持たせるには、構造となる木材を永く持たせる必要があります。震災などで倒壊の恐れがある木造住宅のほとんどは、構造として使用している木材の腐れやシロアリによる被害がみられます。表面に塗布しただけではなく、しっかりと木材に薬剤を入れて長期にわたって防腐・防蟻の効果を維持させるのが、加圧注入処理です(図4 – 7)。
また、この技術は、国内の木製ジェットコースター(図8)にも使用されています。
さらに、この薬剤注入の技術を応用して、薬剤を変えることで防火木材の製造も行っています。
防火木材には、空気中の水分を吸収して薬剤が染み出てしまう「潮解」と染み出た薬剤が乾燥して白く固まる「白華」という現象が問題となっていました。
越井木材工業では新しい薬剤を使用することで「潮解・白華」を抑制した防火木材を開発しました(図9、10)。内装制限がかかる場所にも安心してご使用いただける木材です。
樹脂含浸技術
樹脂含浸技術は主にウッドデッキ材に使用している技術です。① 丸太を桂剥きにした薄い単板を製造します。
② 1枚1枚に樹脂を染み込ませます。
③ 樹脂を染み込ませた単板を乾燥後、積層して接着します。
木材の寸法変化は、木材の細胞内に水分が出入りすることで生じます。この樹脂含浸技術では、木材の細胞にフェノール樹脂を含浸させて、個々の細胞を固めることにより水分の出入りを防ぎ、木材の寸法変化を抑制しています。この技術を用いて製造しているのが「マクセラム」という製品です(図11 – 13)。
「マクセラム」は寸法を安定させると同時に、棘やささくれも抑制した木質材料です。また、一般的な樹脂木でつくられたデッキ材に比べて、「マクセラム」は積層材なので、木材の質感はそのままで、公共施設や幼稚園・保育園などの児童施設にも多数採用されています(図14)。
水蒸気式高温熱処理
水蒸気式高温熱処理は、その名の通り、水蒸気の熱で処理を行います(図15、16)。① 装置の中で、木材の含水率がほぼ0%になるまで乾燥させます。
② 水蒸気で満たされた状態のまま、目標となる温度(180~240℃)まで上昇させて処理を行います。
③ 処理材の含水率を調整しながら温度を下げていきます。
薬剤を一切使わないこの処理を行うことで、木材の寸法安定性と耐久性を向上させています。
もともとはフィンランドの技術ですが、日本に取り入れるために、日本の気候と木材(スギやヒノキ)に合うように改良した独自の技術です。この技術を用いて製造しているのが「コシイ・スーパーサーモ」です。
先にも記述したように、木材の寸法変化は水分の出入りによって生じます。この水蒸気式高温熱処理で、木材の性質を変化させて「水分を保持しにくく」したことにより、寸法の安定性へとつながります。
また、木材が腐る原因は腐朽菌と呼ばれるものにより、腐朽菌が活発になる条件は「養分・空気・水分・温度」の4つがあります。このうちひとつでも管理できれば、腐朽菌の活動を抑え、木材は腐りにくくなります。ただ、養分は木材本体で減らすことはできません。使用する環境を真空にすることもできませんし、建物全体の温度管理も現実的ではありません。のこる「水分」に関して、コシイ・スーパーサーモは低い含水率を維持するため、腐朽菌の活動を抑え、木材の腐朽を抑制することができるのです。
水分を保持しにくいコシイ・スーパーサーモは「寸法が変わりにくく、腐りにくい」という特徴を実現し、さらに水分が少ないことで「軽い」材料になります。その特徴から、内装材としてだけでなく、外装材としてもお使いいただいています(図17〜20)。
接着加工技術
最後にご紹介するのは、「接着加工技術」です。木材には切っても切れない技術で、木材ならではの加工が可能です。弊社製品の中で、加工技術を用いた代表的な例として「木製サッシ」があります。建具に求められる繊細な加工を特殊な機械を用いて加工しています。木製ならではの意匠性と断熱性を兼ね備えた窓です。すべて木製でカスタムメイドになる「Kikoのまど」と、規格サイズを用意した枠がアルミ製の「Kikoのまどhybrid」の2種類を用意しています(図21、22)。また、接着技術を活かした例では、小さな木片から長さ・幅を接着により伸ばしたトラックの床板(図23)や、異素材を張り合わす技術を応用してトラックのドア(図24)や電車のパネルも製造しています。
おわりに
今回ご紹介した技術は「木材をより永く使う」ということを考え、今もなお改良され続けている技術です。腐りにくくした構造材だけでなく、見えるところ・触れるところに木を使い、多くの方に木材を身近に感じてもらいたいと考えています。
穐吉 孝典(あきよし・たかのり)
1986年 島根大学農学部林学科卒業後、越井木材工業株式会社入社/木材防腐部、東京支店、東日本木材防腐部、総務部、コシナール社、西日本SD部を経て、現在SD部東京出張所 勤務
カテゴリー:構造 / 設備 / テクノロジー / プロダクツ
タグ:テクノロジープラス