テクノロジープラス ⑧
コンクリート構造物を長寿命化させる技術とこれからの展望──リフリート工法の提案
後藤 栄太(東京都建築士事務所協会賛助会員、ゼネラルボンド株式会社)
はじめに
 わが国では、20世紀後半は社会資本を整備するためコンクリート構造物を建設する時代であった。これに対し、21世紀はこれらのストックを維持管理することが最大の課題であるとされている。コンクリートの維持管理技術については、劣化診断、劣化予測、補修・補強の実施など多岐に及び、これらの各手法や技術についてはコンクリート工学の重要課題のひとつとされ、現在も研究開発が進められている。本稿では、コンクリート劣化の一部である「中性化」、「塩害」による「鉄筋腐食」に対する改修方法のひとつとして「リフリート工法」を紹介する。
図1 コンクリート劣化メカニズム。
■リフリート工法について
リフリート工法の概要──3つの仕様
 リフリート工法は、鉄筋コンクリート構造物の劣化防止、耐久性向上を目的とした躯体改修工法である。リフリート工法には、コンクリートの劣化原因別にいくつかの仕様があり、状況に応じて適切な仕様を選択することで、より効果的な躯体改修を図ることができる。主な仕様については、中性化劣化に対する「RF仕様」、塩害劣化に対する「DS仕様」、そして内部鉄筋の劣化防止・予防保全を目的とした「DS-HG仕様」の3つがある。
鉄筋腐食とコンクリート劣化のメカニズム
 鉄筋コンクリートの中性化*1及び塩害*2による鉄筋腐食は以下の条件により生じる。
(a)コンクリートの中性化+酸素と水分の存在
(b)コンクリート中への塩化物の侵入+酸素と水分の存在
 鉄筋が腐食すると膨張し、腐食膨張圧によりかぶりコンクリートにひび割れが発生する。発生したひびわれから酸素、水、二酸化炭素または塩化物イオンが浸入し、鉄筋腐食を助長させ、かぶりコンクリートの剥離、剥落を引き起こし、さらに鉄筋コンクリートの応力の負担は、基本的にはコンクリートが圧縮応力を、鉄筋が引張り応力を受け持っているため、鉄筋の腐食が進行し鉄筋断面積が小さくなると、鉄筋が受け持つべき荷重を負担できなくなる(図1 コンクリート劣化メカニズム)。
*1 コンクリートの中性化とは?
 コンクリートは、セメントの水和反応により生成された水酸化カルシウムによってpH12~13の強アルカリ性であるが、アルカリ源である水酸化カルシウムが空気中の炭酸ガスと徐々に反応しアルカリ性を失っていく。これを中性化(炭酸化)という。コンクリートの中性化深さの測定方法として、中性化深さを測定するコンクリート面に1%フェノールフタレイン溶液を噴霧し、赤色化の有無により測定する方法がある(図 中性化深さ測定例)。
図1 RIBAが提供しているDesign Responsibility Matrix(DRM)
*2 コンクリートの塩害とは?
 コンクリート中の鉄筋はpH12~13の強アルカリ性による不動態被膜で覆われているが、コンクリート中に許容濃度以上の塩化物イオンが存在するとこの不動態被膜が破壊され、鉄筋が腐食する。これを塩害という。
図2リフリート工法 標準作業手順。
図3 仕様イメージ図。
図4 DS仕様イメージ図。
リフリート工法の特徴
 上項で生じた劣化状況を改善するために開発されたのがリフリート工法である。使用材料として「RF-100」(アルカリ付与材)、「DS-400」(浸透性防錆材)、「RF防錆セメント」、「RFモルタル・パウダー」および「RF混和液」があり、標準的な作業の流れについては図2の通りである(リフリート工法 標準作業手順)。
 リフリート工法の特徴のひとつとして、「RF仕様」が挙げられる。RF仕様は「RF-100」、「RF防錆ペースト」、「RFモルタル」で構成される工法であり、コンクリートの中性化による劣化や経年劣化に対してRF-100を塗布することにより、コンクリートにアルカリ性を付与すると同時に表面強化をすることができ、さらにはRF防錆ペースト及びRFモルタルでコンクリート表面を覆うことで水や二酸化炭素の侵入を防ぐことができる。これにより、施工後の中性化防止と鉄筋の腐食抑制効果を高めることができる(図3 RF仕様イメージ図)。
 リフリート工法のふたつ目の特徴として、「DS仕様」で使用される浸透性防錆材「DS-400」が挙げられる。DS-400はコンクリートへの塗布型防錆材であり、主成分が「亜硝酸リチウム」である。コンクリート素地にDS-400を塗布することで、防錆成分がコンクリート中に浸透・拡散し鉄筋表面に不動態被膜を形成することで鉄筋腐食を抑止する。
 また、DS-400の主成分である「亜硝酸リチウム」が近年、断面修復工事で問題になっている「マクロセル腐食」*3に対して有効であることも特徴のひとつである(図4 DS仕様イメージ図)。
図5 リフリート工法(塩害仕様)暴露試験試験体の仕様。
図6 リフリート工法(塩害仕様)暴露試験試験体の形状。
図7 リフリート工法(塩害仕様)暴露10年後の鉄筋の錆。
図8 リフリート工法(左)と他工法(右)との暴露試験結果(境界部)
リフリート工法(塩害仕様)の実験と検証
 実験で検証した仕様は、図5(リフリート工法(塩害仕様)暴露試験試験体の仕様)の通り。
 試験体は、鉄筋を2本設置した塩化物イオン2.4㎏/m3を加えたコンクリートに中央部を断面修復した図6(リフリート工法(塩害仕様)暴露試験試験体の形状)のような形状・寸法である。
 暴露10年後の試験体から鉄筋を取り出し、鉄筋の錆の状態や面積を測定・算出した(図7)。
 鉄筋に沿ってコンクリートを切り出し、防錆有効成分(亜硝酸イオン量)と腐食因子(塩化物イオン量)を境界部から10mmごとに分析した。
 鉄筋のマクロセル腐食についての暴露試験(10年暴露)結果を図8 (リフリート工法と他工法との暴露試験結果(境界部))に示す。断面修復工事をリフリート工法と他工法とで比較したものであるが、境界部分における鉄筋の局部腐食が抑えられていることが分かる。(リフリート工法に関する問い合わせはリフリート工業会【http://www.refrete.com】までお願いします。)
■施工実績 建造物*(*印:リフリート工業会資料)
■施工実績 土木構造物*(*印:リフリート工業会資料)
おわりに──これからの展望について
 これまで述べたように、コンクリートの中性化・塩害に対してリフリート工法は有効である。また、再劣化防止という維持管理の点からも有効であるとあると考える。
 今回はリフリート工法について提案を行ったが、コンクリート構造物全体の維持管理に視点を向けてみると、点検、調査、診断、補修、補強などの維持管理業務に対する関心が高まり、それらの重要性が広く認識されるようになり、それに伴いコンクリート構造物の維持管理の取り組みも黎明期から成熟期へと移行しつつあると実感している。私たちはこれまで多くのコンクリート補修工事に携わってきたが、黎明期に経験した補修工事の内容を見ると、「ひび割れが生じているからひび割れ注入を行う」、「鉄筋が露出しているから断面修復を行う」といった、いわば変状に対する対処療法的な工法選定が多かったように感じる。これから必要なのは「なぜひび割れが発生したのか?」、「なぜ鉄筋が腐食したのか?」というような根本的な原因推定と、それを基にした再劣化防止対策を組み込んだ補修計画と補修工事であると考える。これですべてが解決できると考えてはいないが、日々直面する課題に対して「これまで」と「これから」をしっかり考えて最善の選択ができるように精進していきたいと思う。
「RF-100」(左)と「DS-400」(右)
「RF-100」と「DS-400」
 「RF-100」は、素地強化機能を有するケイ酸リチウム系アルカリ性付与材である。中性化ならびに表層劣化したコンクリート素地面に塗布含浸させることによって、コンクリート表面強度を増進させるとともにアルカリ性を付与する。「RF-100」の塗布量は、200~400g/㎡で、コンクリート表層の劣化状況によって変動する。
 「DS-400」は、亜硝酸リチウムを主成分とした塗布形防錆材である。コンクリート素地に塗布することにで、防錆成分がコンクリート中に浸透・拡散し、鉄筋表面に緻密な被膜(不働態被膜)を形成し、鉄筋の腐食を抑止する。
 DS仕様:DS-400の塗布量は、300g/㎡で、コンクリートの品質、塩化物イオン含有量および内部鉄筋の位置等の条件によって変動する。DS-400塗布後にRF防錆ペーストを塗り付ける。
 DS-HG仕様:DS-400の塗布量は、200g/㎡で、コンクリートの品質、塩化物イオン含有量および内部鉄筋の位置等の条件によって変動する。DS-400塗布後にDS防錆ペーストを塗り付ける。
後藤 栄太(ごとう・えいた)
ゼネラルボンド株式会社代表取締役、リフリート工業会副会長
1962年 東京都生まれ/1985年 日本大学経済学部産業経営学科卒業、同年当社入社/自社製品のコンクリートボンド、ウォーターストップ等の販売、一般廃棄物処分場のしゃ水シート等の営業担当ののち、外壁改修・防水改修・耐震補強工事に携わる/リフリート工法施工管理士、二級建築士、1級施工管理技士(建築・土木)、コンクリート診断士