ストレスチェック義務化法について
社労士豆知識 第14回
佐々木 隆(佐々木社会保険労務士事務所 所長)
 平成26年11月1日より過労死等防止対策推進法が施行されました。施行の目的として、近年、大きな社会問題となっている過労死等が、本人、家族はもとより、社会にとっても多大な損失であることに鑑み、過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けられる社会を実現することとなっています。世間でいわれている過労死等とはどのような定義かというと、「業務における過重な負荷による脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡もしくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患・心臓疾患もしくは精神障害」と決められています。
 ここで注目したいのが、過労死等と強い因果関係にあるのが長時間労働だということです。以下が各疾患における時間外労働の基準です。

【脳血管疾患、心臓疾患の場合】
❶発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること。
❷発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。

【精神障害の場合】
❶発症前1カ月の時間外労働がおおむね160時間以上。
❷発症前3週間の時間外労働がおおむね120時間以上。
❸発症前の連続した2カ月間の時間外労働がおおむね120時間以上。
❹発症前の連続した3カ月間の時間外労働がおおむね100時間以上。

 このように、ポイントが長時間労働と決めていることにあります。こういった労働環境においてメンタルヘルス対策の充実・強化等を目的として、従業員数50人以上のすべての事業場にストレスチェックの実施を義務付ける、通称:ストレスチェック義務化法が2015年12月1日に施行されました。ストレスチェックの具体的な実施方法は以下の通りです。

❶実施者:医師、保健師、一定の研修を受けた看護師・精神保健福祉士など産業医の関与が望ましい。
❷対象者:正社員、1年以上の雇用が予定されている契約社員・パート従業員でかつ週の労働時間が正社員の4分の3以上の者(健康診断と同基準)。
❸実施方法:1年以内ごとに1回以上、調査票によることが基本(一般健康診断との同時実施も可能)。
❹チェック項目:厚労省「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)が推奨だが、企業が独自に選定してもよい。

 ただし注意点としては、会社はストレスチェックの規程や実施案内を労働者に行いますが、労働者に強制的に実施することまではできません。また、ストレスチェックの結果は、労働者の同意なしには事業主に結果を伝えることもできません。なお、ストレスチェックを実施した結果をもとに高ストレス者として面接指導が必要と評価された労働者から申し出があった場合は、医師による面接指導を行うことが事業主の義務となります。ちなみにこの申し出があった場合は、先の労働者の同意があったものとみなすことができ実施結果を確認することができます。また、ストレスチェックに関しては以下の不利益な取り扱いが禁じられておりますので注意が必要です。

❶ストレスチェックを受けないことによる不利益取り扱い。
❷ストレスチェックの結果の提供に同意しないことによる不利益取り扱い。
❸面接指導の申し出をしたことによる不利益取り扱い。
❹面接指導の結果を理由とした解雇、雇止め、退職勧奨、配置転換等。
❺医師の意見と著しく異なる不利益な措置を講じる。

 さらに、ストレスチェックや面接指導の実施状況を労働基準監督署に報告もしなければなりません。メンタルヘルスの近況については、平成26年度の精神障害に係る労災請求件数は過去最多で、請求件数1456件、決定件数1307件、支給決定件数497件(38.0%)となっています。メンタルヘルスについて企業は曖昧な対応ではなく、現状を理解した上での適切な対応が必要となります。
佐々木 隆(ささき・りゅう)
社会保険労務士、佐々木社会保険労務士事務所所長
1970年東京生まれ/血液型:O型/趣味:海釣り(アオリイカ、ヒラメ、マダイ、鬼カサゴ、シロキス、カワハギ)、野球、水泳
記事カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士