思い出のスケッチ #340
旧日本郵船小樽支店
早川 佳孝(東京都建築士事務所協会賛助会員会情報委員、『コア東京』編集委員、富田商事株式会社 企画・デザイン部 建築意匠参与)
 富田商事の社員旅行2日目は、妻とふたりで北海道の観光名所「小樽運河」を歩いた。時は2018年6月30日の晴れた日。社長以下全員での札幌2泊というコンパクトにまとまった会社ならではの行事である。
 小樽運河は高度経済成長の時代、道路として埋め立てる話が出た。論争の末に一部を埋立てて運河の幅の半分が道路となり、散策路や街園が整備された現在の風景となった。その昔、海運が物資輸送の重要な時代、小樽には一流建築家たちが代表的作品を残したが、その草創期の象徴的存在が旧日本郵船小樽支店である。小樽運河をさかのぼった先に存在し、重要文化財として一般公開されている。
 建物は、明治38(1905)年着工、同39(1906)年10月に落成した近世ヨーロッパ復興様式の石造二階建てで、設計者は佐立七次郎、施工は地元大工棟梁の山口岩吉である。佐立七次郎は工部大学校造家学科(現東京大学工学部建築学科)の第一期生で、同期には辰野金吾、片山東熊、曽禰達蔵の3人がおり、小樽には、辰野が日本銀行小樽支店(大正元/1912年)、曽根が三井銀行小樽支店(昭和2/1927年)を残している。
 木材で内装された内部の保存もよく、照明器具、暖炉など当初のものがよく残っている。内外の調和もいい。見学空間として整頓されているとはいえ、テレワーク時代の今に使っても落ち着く場であると思うのは私だけではないだろう。
早川 佳孝(はやかわ・よしたか)
東京都建築士事務所協会賛助会員会幹事、会誌・HP専門委員、富田商事株式会社企画・デザイン部 建築意匠参与