社労士豆知識 第51回
テレワーク時に気を付けたいハラスメントについて
松澤 晋平(松澤社会保険労務士事務所、特定社会保険労務士)
 新型コロナウィルスの流行が影響し、テレワークが新しい生活様式のひとつとして急激に普及した令和2年でした。「社外でも業務ができる環境づくり」を優先したことで、ワークスタイルのみを先行した企業が散見されます。カタチはどうにかできたものの「インターネットを経由したコミュニケーションは現実である」という認識の薄さに起因したコミュニケーショントラブルによるハラスメント問題が散見され、その対策が求められるようになりました。
Web会議のハラスメント案件
 テレワークの代表的なツールとしてよく挙げられるWeb会議アプリは、多くの企業がこれを導入してテレワーク業務の環境整備を行ってきました。ただ、デルテクノロジーズ「中小企業のテレワーク導入状況に関する調査結果」*1によると、導入企業の多くが環境整備の構築を急ぎすぎ、また経営者や導入担当者の関心が技術的方面に関心が強かったことが理由で、環境整備自体はできたものの、その新しい環境にどう対応していくか労使ともに模索状態にある状態があるようにも見られます。
 テレワーク先の環境は職場であると同時に私的空間でもあります。たとえば、従業員の背後に映る生活環境(部屋の散らかり具合、室内装飾など)への詮索、マイクが拾ってしまう同居者の声、近隣のさまざまな音声や雑音に対する改善指示などの指摘は、プライベートの詮索としてとられ、ハラスメント案件に発展することがあります。実例として、映像に映り込んだ写真の人物に対する「その写真の人って恋人?」のような詮索や、映像の背景のインテリアをきっかけに「部屋をもっと見たい」といわれたというような事例があります。これらの事例は現実の職場内であれば、ハラスメント案件になると気付くはずが、バーチャル空間を経由することでハラスメント意識が低下してしまう、公私が混在したテレワーク環境だからこそ発生している問題と考えられます。
トラブル対策1:就業規則への記載
 ただこうしたトラブルの対策は決して特殊なことをするというわけではありません。
第1にまず就業規則を確認してみましょう。ちなみに令和2(2020)年6月1日から「改正労働施策総合推進法」の30条の二(いわゆる「ハラスメント規制法」)が施行(中小企業は令和4年4月1日前までは努力義務で同日以降は義務として施行)されています。パワーハラスメントの防止措置が事業主の義務となりますので、就業規則等にその旨の記載と周知をしておく必要があるでしょう。
トラブル対策2:基礎ルールの確立
 第2にテレワークツール機能についての知識を役職・世代に関係なく一定のレベルまで身に着けることです。これと第1に行ったハラスメント規制法に対応した就業規則類の内容確認をもとにテレワークツールを利用する際の会社における基礎ルールを確立させます。
基礎ルール例:
  • WEB会議時は必ず録画をすること。
    →議事録としての利用に加えた言葉によるハラスメントの防止効果が期待。
  • WEB会議時は背景を設定すること(背景設定が困難な場合はクロマキーグリーン(緑の背景布)を支給する)。
    →私生活に立ち入らせない効果。
トラブル対策3:就業時間中は会社という認識
 第3にインターネットに対して全社の認識を統一します。インターネット経由の世界はバーチャルではなく現実の世界であるという認識の薄さから、画面上の相手に対して現実ではNGと認識しているハラスメントをはじめとした行為をとってしまいがちです。テレワーク下では画面の先にある世界は現実であり、そこにいる、ある人、物、場所は実在している、普段の職場であるという認識を全社が統一して持つことです。たとえば、身だしなみを整えるや、背景に余計なものを映さないのような「自宅だけれども、就業時間中は会社」という認識を持つことが大切です。一方で不可抗力的に映り込んでしまうものや、音声に対しての寛容さも求められるところでしょう。

 急激に利用の度合いが増えたテレワークに対し、就業規則他、各種ルールやマナーについて振り返り、テレワークであっても、これらを守るということを忘れずにおくことで、WEB技術の向上と相まって、より良い職場環境の構築ができるようになるといえるでしょう。
松澤 晋平(まつざわ・しんぺい)
特定社会保険労務士
専門学校・社会人向け職業訓練スクールでキャリアアドバイザーとして従事/2016年に社労士登録。個人向けのキャリア相談を中心に支援活動を行う
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士