天井耐震改修の実際:基本計画編
港区の特定天井等の耐震化への取り組み
加藤 峯男((一社)港区建築設計事務所協会 技術担当理事)
この編のはじめに
 この記事は、先月号(『コア東京』2015年12月号)の巻頭の記事「天井耐震改修の実際:調査編」の続きです。先月号を一度お読みいただいた後に今回の記事をご覧いただけると幸いです。また、一読された方でも、先月号の図表を見ながらでないと理解しにくいところがあります。ぜひ先月号を傍らに置いてお読みください。
基本計画の策定対象の抽出/52施設・79部屋
 手に余る数の施設の中から耐震化改修工事が必要な天井を特定することは思いのほかたいへんです。地震時に天井脱落のおそれが高いと国が見なす「特定天井」に該当するものを見つければ、所期の目的は達成されるのですが、それが一筋縄ではいきません。港区がこの難題に対してどのような手順で解決策を見出していったか、それを記すことからこの編を始めます。
 港区は、この事業において、まず天井耐震化改修工事の対象となる天井のある施設を特定し、その施設の用途と構造特性に合った改修工法を選定し、そして工事に移していかなければなりません。また、その計画と実行にあたっては、対象となる施設の現状とそれを取り巻く環境をよく踏まえた上で、工程の各プロセス特有の事業方針をそれぞれ決定していかなければなりません。
 そのための基礎資料となるのが、基本計画の策定対象施設の各部屋ごとに記入した「特定天井等の耐震化改修基本計画策定業務チェックシート」(以降「基本計画チェックシート」)です。
基本計画の策定対象施設は、港区の「平成24年学務課調査報告書」および「平成25年施設課調査報告書」において既に抽出されていた施設に、両調査以降追加された施設を見直して追加抽出したものです。それらはすべて外見的な性状が「平成25年国土交通省告示771号」(以降「告示771号」)が規定する「特定天井」に該当すると思われる次のふたつの要件を満たすものでした。
 ①居室、廊下その他の人が日常立ち入る場所に設けられるもの
 ②高さが6mを超える天井の部分で、水平投影面積が200m2を超える部分を含むもの
このほかに、後者の基準に満たないものであっても、地震時に天井が脱落した場合に重大な危害を及ぼすおそれのある「特定天井に類する部分」(以降「特定天井等」)がある施設についても抽出することにしました。またそれらが、次の3要件のいずれかを満たしているため特定天井等に該当しない可能性があっても、除外することなく抽出しました。
 ① 構造あらわしになっているもの
 ② 吊り天井でないもの
 ③ 天井面構成材の平均質量が2kg/m2以下のもの
この条件で抽出した総数が52施設の計79部屋でした。
基礎資料としての基本計画チェックシート
 これを教育施設(28施設44部屋)とそれ以外の施設(24施設35部屋)に分け、その各部屋について基本計画チェックシートを作成しました。ふたつのグループに分けたのは、平成24年11月の文部科学省からの要請もあって、避難所に指定されている施設が多い教育施設の特定天井等の耐震化を何よりも優先し、その早期実施が望まれていたからです。つまり、平成27年度には、いくつかの学校で夏休みを挟んだ数カ月の工程で特定天井等の耐震化改修工事を行いたいという目論見をもっていたのです。
 それを実行に移すには、平成27年度の予算を審議する港区議会にこの事業計画(案)を上程し、議会承認をもらわなければなりません。計79部屋の基本計画チェックシートはその基礎資料にもなったのです。
基本計画策定プロセスに従ってチェックシート作成
  基本計画チェックシートは2枚のシートから成ります。1枚は、その部屋の現状の天井の概要を記したシート(1/2)、もう1枚がその部屋に対する天井耐震化改修工事の基本計画の概要を記したシート(2/2)です。これを両面コピーすれば1枚のシートになります。この1枚を見れば、誰でも対象となった部屋の現状と、その部屋に適用できる改修工法選択肢の概要が分かることを意図したものです。
図❶ 「青山小学校体育館」を例とした2枚の基本計画チェックシート。これを見れば、誰でも現状と改修工法の概要が一目で分かる。
図❷ 基本計画チェックシート(2/2)上部。改修の要不要、理由、選択肢の評価が記入されている。『コア東京』2015年12月号に全体を表示。
※概算金額は実際の見積金額とは異なります。
(一社)港区建築設計事務所協会(以降「港区設計協会」)は、このシートを作成するにあたって、抽出された79部屋それぞれに作成担当事務所と担当者を決め、各担当者が、自分が担当する部屋について、次の「基本計画策定プロセス」に従ってシートの作成を行いました。

■基本計画策定プロセス
  1. 見直し調査による現状の把握と設計与条件の抽出
  2. 改修工事の要・不要の判定とその理由の明確化
  3. 改修工法選択肢の抽出
  4. ① 告示771号基準工法(建築基準法充足工法)
    ② 非特定天井工法
    (1) 非吊り天井工法
    (2) 超軽量天井工法
    ③ 構造あらわし工法
    ④ 落下防止措置工法
  5. 上記改修工法選択肢ごとの基本計画図の作成
  6. 上記基本計画図にもとづく概算工事費の算出
  7. 概略工程表の作成
  8. 基本計画チェックシートのまとめ
  9. 基本計画チェックシートの総括表の作成
  10. 施工優先順位を決める目安の決定


■基本計画チェックシート(1/2)
 このシート(1/2)は、この部屋の現状の天井を「告示771号仕様ルート基準充足工法」で天井耐震化改修工事を行うことを前提に、それを実施するにあたって障害があるかを把握することを目的としてつくられています。
 また、現状の天井、天井裏、壁の高所等に設けられているバスケットゴール、体育器具、照明器具、ダクト、設備機器、キャットウォーク、ぶどう棚等(以降「設備等」)は、耐震化対策が必要な場合、天井耐震化改修工事と同時に施さなければなりません。それらの取り付け状況を確認すると共に、実際に耐震化対策が必要なものをここで抽出します。

■基本計画チェックシート(2/2)
 このシート(2/2)でまず、この部屋の天井耐震化改修工事の要・不要の判定を行います。そのときに、なぜそう判定したかの判定理由を明確にします。
 そして、「要」と判定した場合には、この部屋の天井耐震化改修工事に適用できると思われる改修工法の選択肢と、天井耐震化改修工事以外に必要となる設備等の耐震化対策工事の概要を記し、それぞれの選択肢で改修工事を行う場合の概算工事費と概算工期を記すようになっています。
 そのほか、このチェックシートを見た人がひと目で、対象となっている部屋の天井の現状が把握できるように、天井や天井裏等の写真、天井の平面模式図、断面模式図等を記載するようにしてあります。
フォーマットシート(帳票)の作成の大切さ
 基本計画チェックシートのフォーマットの作成にあたっては、先月号で記したように、「青山小学校体育館」をモデルに一度調査を行い、その目線の是非を確認するためのたたき台としました。その上で他の部屋の調査にも準用するものに仕立てました。
 各担当者は、このシートに記載された各チェック項目に従ってチェックしていけば、自動的に自分が担当する部屋の現状の天井が、どの程度告示771号の仕様ルート基準を充足するものになっているかを確認できます。
港区設計協会に所属する会員事務所は、事務所ごとに仕事の進め方も、所属建築士の数も、業務経歴も異なります。そのため、同じ類の業務を行っても対応がそれぞれ異ったものになりがちです。それを、あたかもひとつの建築士事務所が対応したかのように、各事務所の業務をひとつに束ねる箍の役割をしてくれるものが、このフォーマットシートです。これが、建築士事務所によって異なるそれぞれの見方、考え方をひとつのものにまとめ、同じ類の課題については同じ考え、同じ方向に向かわせる行動規範になります。
 港区設計協会では、この基本計画チェックシートだけでなく、改修工法選択肢、基本計画図、概算工事費見積書、工事工程表等についても、同じように青山小学校体育館をモデルにしたフォーマットシートを作成し、各担当者がその記入の仕方を見習って自分が担当する各部屋の各プロセスで求められる業務結果を記入するようにしました。
 これによって、部屋ごとに担当者が異なっても、各部屋の最終的な業務の品質、出来栄えについて、ほぼ同じ水準のものが確保できたのではないかと思っています。
基本計画の品質目標
 港区設計協会が、既存区有施設の特定天井等の耐震化改修基本計画策定業務の着手にあたって掲げた基本計画の品質目標は、告示771号のそれと同じものでした。つまり、この基本計画で得られる耐震性能は、告示771号が要求する性能と同等もしくはそれ以上の性能を確保することとしました。
 この目標の達成にあたっては、やむを得ない場合を除き、改修工事を実施する前の部屋の現状の天井高さ、幅、奥行、形態を原則変えないこととし、その部屋が現在保有している音響性能、照明環境性能、防災性能等を変えない、もしくは同等以上の性能を確保することを前提条件としました。
 では、告示771号基準を充足する天井とは、いったいどのぐらいの震度の地震まで天井の損傷・脱落のおそれが少ないといっているのでしょうか。
 これについて告示771号には次のように記されています。
 「この技術基準は、建物の耐用年限中に2〜3回発生する中地震[気象庁の震度階5弱程度(60〜110ガル)]時における天井の損傷を防止することにより、中地震を超える一定の地震時においても、天井等の脱落の低減を図ることを目標とする」。
 なお、これには次のコメントが付されています。
 「天井脱落対策に係る技術基準としては、本来極めて稀な地震動の発生時(大地震時)において脱落しないことを目標とすべきではあるが、現在の技術的知見では、大地震における構造躯体に吊られている天井の性状を明らかにすることが困難であるため、今回の技術基準については、天井の性状がある程度想定することが可能な地震動の発生時(中地震時)において天井の損傷を防止することにより、中地震を超える一定の地震時においても天井脱落の低減を図ることを目標として検討している」。
 このコメントから、事業者が守るべき最低限の基準を定める建築基準法(告示771号)の地震時における特定天井の損傷・脱落防止性能は、中地震程度の地震動を想定し、それを超える大地震については、この技術基準ができたばかりでまだよく分からないところがあるから、事業者のそれぞれの判断で、その施設の用途に応じてその対策を行ってほしいといっていることが分かります。
 以下、告示771号が要求する性能と同等もしくはそれ以上の性能を確保する天井耐震改修工法として設定した5つの選択肢について詳しく解説します。
図❸ 震度と揺れ等の状況(気象庁ホームページより引用)
建築基準法充足工法
 この工法は、建築基準法(告示771号)基準を充足する工法です。この工法の安全性を検証するルートには、次の3つのルートがあります。
①仕様ルート
②計算ルート
 ⅰ 水平震度法 ⅱ 簡易スペクトル法 ⅲ 応答スペクトル法
③大臣認定ルート
 上記のいずれのルートで検証をするにせよ、この工法は、斜め部材(ブレース)等により地震力等による天井の振れを抑制し、併せて天井面と壁等との間に一定の隙間(クリアランス)を設けることで、天井材の損傷・脱落の防止を図ることを基本的な考えとしています。
基本計画に着手した当初は、私たち港区設計協会は、今回の区有施設の特定天井等の耐震化改修工事の多くをこの告示771号を充足する工法、それも仕様ルート基準を充足する工法で行おうと考えていました。
 そう考えた理由のひとつは、改修工事を実施する予定の体育館等の教育施設の現状の天井が、フラット天井であることと、天井材の平均質量が2〜20kg/m2の仕様ルート基準を適用する上での基本要件を満たすものが多かったことでした。もうひとつは、この計画を主導したメンバーが意匠設計者であったことです。仕様ルート基準で設計した方が、計画を立てるにも、安全検証をするにも、意匠設計者にとっては、具体的なイメージをもって取り組むことができるからです。
図❹ 技術基準の基本的考え方(天井脱落に係る技術基準の解説から引用)
写真❶ 建築基準法充足工法の斜め部材(三洋工業カタログから引用)
■建築基準法充足工法の難しさ
 ところが、実際に各担当者が仕様ルート基準の視点で各担当現場を調査してみると、この工法の問題点として浮上してきたのが、多くの部屋で、現状の天井裏に既に配置されている梁、キャットウォーク、ダクト等の存在です。それらが障害となって仕様ルートの11の規定の中で最も肝となる⑨の規定「斜め部材は、V字状に、算定式で必要とされる組数を釣り合い良く配置」すること、を充足することが難しかったのです。
 また、これを実現するには、V字の斜め部材の釣り合いの良い配置の障害となる既存のキャットウォークを撤去したり、ダクト等の敷設替えを行ったりした上で天井改修工事をしなければならず、天井そのものの耐震化改修工事費だけでなく、天井裏の障害となるものの撤去や敷設替えの費用が余計にかかることになります。そのため天井耐震化改修工事以外の工事費がほとんど発生しない他の改修工法より、どうしても割高にならざるを得ません。
 もう一点不利に働いたのが、港区ならではの施設の構造特性です。一般的には、特定天井となることが多い学校の体育館は平屋建てが多いと思います。ところが港区は、学校が高密度高集積市街地にあって、多層階建物で建てられる場合が多く、大架構で積載荷重の軽量化を図ることができる最上階に体育館が設けられている場合が多いのです。その場合、計算ルートで天井にかかる地震荷重を算出するときに使用する水平震度k(表❶参照)が、平屋の場合より大きくなります。その結果、天井の振れを抑制する斜め部材の組み数が多くなり、ますます天井裏にある既存の障害を避けて釣り合い良い配置をすることが難しくなります。
 この建築基準法充足工法を多くの部屋で適用すれば、他の改修工法に比べて全体の事業費が大きく膨らむことは確実でした。
表❶ 水平震度k早見表 (天井脱落に係る技術基準の解説から引用)
非特定天井工法(1) 非吊り天井工法
 この工法は、特定天井の基本要件「吊り天井」を改め、吊り天井でない非特定天井につくり替える工法です。既存の天井材が張られていた位置の直上に、大梁小梁等の構造躯体に緊結する小梁を設け、そこに天井材を直張りするのです。
 この工法でつくり替えられた天井は、地震時には天井材がその下地になっている構造躯体と一緒に揺れます。そのため構造躯体が地震で損傷することがない限り、それに直張りした天井材も損傷・脱落するおそれがないと考えられます。したがって、この工法で改修された天井の損傷・脱落防止性能は、それが取り付く構造躯体の損傷防止性能とほぼ同じ性能が確保できると考えられます。

■公共施設の天井等の損傷・脱落防止性能の考え方
 震災時の避難所となる公共施設は、一般建物が、通常「構造躯体の損傷防止に関する耐震等級」の等級1(まれに[数十年に一度程度]発生する地震による力[建築基準法施行令第88条第2項に定めるもの]の1倍の力に対して損傷を生じない程度)の耐震性能の確保を求められるところを、その1.25倍の力に対しても損傷を生じない程度の耐震性能の確保を求められます。それだけ一般建物より耐震性能が優れた建物が求められているのです。
 一方、それが優れた建物であっても、その建物の天井等の損傷・脱落防止性能がそれに見合ったものでなければ、震災時の避難所として使いたいときに、天井等が脱落して使用できなくなるおそれがあります。そうなっては元も子もありません。
 公共施設のように、地震時における天井の損傷・脱落防止性能を、建築基準法で要求する性能以上の優れたものにする必要がある場合は、構造躯体の損傷防止性能とほぼ同程度の性能を確保できるこの非吊り天井工法を選択することをお勧めします。

■直張り天井材料への配慮点
 なお、既存建物の天井改修工事において、非吊り天井工法の採用する場合に注意しなければならないことが一点あります。それは、改修によって既存の状態より荷重が増える設計をしてはならないことです。
 図❺のように既存の天井材を撤去し、既存の屋根の小屋組みを利用して新たな天井材を直張りする場合は問題ありませんが、既存の大梁等の下端に新たに小梁を設置して、その小梁に新たな天井材を直張りする場合は、新たに設置した小梁の分だけ荷重増になります。そのため、既存の天井材より軽い天井材を選定して既存の状態より荷重が増えることがないようにしなければなりません。
 この天井材の軽量化対策と、直張りした天井材が万が一脱落した場合のことを配慮して、それがたとえ脱落して人や物に衝突したとしてもほとんど衝撃を与えないグラスウールボードを使用することをお勧めします。この考えは、次の超軽量天井工法にも通ずる話です。
写真❷ 非吊り天井工法の事例(桐井製作所カタログから引用)
図❺ 非吊り天井工法の納まり詳細(桐井製作所カタログから引用)
■ 非特定天井工法(2) 超軽量天井工法
 この工法は、改修対象となる天井面構成材の平均質量を2kg/m2以下の超軽量に抑えることで、地震時における天井材の脱落による人や物に対する衝撃の軽減を図る工法です。つまり、特定天井に見なされる基本4要件のうちのひとつの要件を外して、吊り天井形式の天井でありながら特定天井に該当しない天井につくり替え、施設使用者の安全を図る工法です。
 この工法は、告示771号基準充足工法とは天井脱落による安全性確保に関する考え方が異なります。告示771号基準を充足する天井工法は、各天井下地メーカーがその商品を「耐震天井」と呼んでいるように、安全性確保の方法が、地震時における天井の揺れを抑制して天井材の損傷・脱落の防止を図ることに主眼を置いています。つまり、地震時に天井が脱落しないようにすることで安全を確保しようとしています。それに対して、超軽量天井工法は、天井下地メーカー桐井製作所がその商品を「安心天井」と呼んでいるように、地震時にたとえ天井材が脱落したとしても人びとに重大な危害を与えないようにすることに主眼を置いています。
 告示771号基準充足工法は、先にも記したように中地震に対する天井脱落防止性能は確保できます。しかし、それを超える大地震についてはどの程度の地震まで耐えられるかよく分からないところがあります。もちろん大地震に対しても脱落防止性能が高い天井を設計することも可能です。しかし、その設計で想定した地震をさらに超える大地震で天井が損傷し脱落した場合には、質量の重い天井材が凶器に変わるおそれはどこまでも捨てきれません。

■超軽量天井工法の耐震性能
 超軽量天井工法は、耐震性能が劣るわけではありません。天井下地メーカーの振動台実験に見るように、少なくとも告示771号が想定する中地震レベルの地震については天井が損傷・脱落しない性能が確保されています。それでもなお、中地震を超える大地震でたとえ天井材が損傷し脱落する事態が生じたとしても、人や物に重大な危害を与えないようにする更なる配慮がなされているのです。
それでは、なぜ吊り天井形式の天井で、地震時における天井の振れを抑制する斜め部材(V字ブレース)もなく、天井面と壁と接する部分に隙間を設けなくていなくても、中地震程度の地震に対して、損傷・脱落するおそれが少ないのでしょうか。それは、特定天井の基本要件のひとつ「天井面構成部材等の1m2当たりの平均質量が2kgを超えるもの」に対して、天井面構成材の平均質量を2kg/m2以下の超軽量に抑えることで可能にしているのです。
 「地震時に天井面にかかる水平力」(以降「天井地震荷重」)は、[天井面構成材の平均質量×水平震度k]で表せます。つまり、天井面構成材の平均質量に比例します。平均質量が大きくなればなるほどそこにかかる水平力が増大し、それが損傷して脱落する可能性も増大します。
 その逆に天井面の平均質量が小さくなればなるほど、その天井にかかる地震荷重が小さくなります。「超軽量天井工法」は、まさにこの原理を使った工法です。天井材や天井下地材等の天井面構成材の平均質量を、天井面を構成できる最小限の質量に抑えることで、地震時の振れを抑制し、天井材が損傷し、脱落するのを防いでいるのです。
 写真❸は、超軽量天井(桐井製作所:安心天井)の振動台実験の動画のひとコマです。振動台実験に使用されたモデルは、V字ブレースがなく吊りボルトで吊っただけで、天井面と壁との取り合い部分には隙間が設けられていないグラスウールボード張りの天井です。そこに告示771号で要求される最大水平震度2.2G(ちなみに2.2Gは5階建て建物の4階か5階の天井面の水平震度です)で揺らしたものです。結果は、特に落下も損傷もありませんでした。
図❻ 超軽量天井工法の納まり詳細(桐井製作所カタログから引用)
写真❸ 安心天井 振動台実験動画 http://www.kirii.co.jp/movie/
図❼ 安心天井 振動台実験 入力波 K-net仙台
■天井材の地震荷重を比較すると
 超軽量天井材が、いかに地震時における天井の振れを抑制するかについて、異なる重量の他の天井材と比較してみましょう。私たちがよく使っている5種類の天井材と超軽量天井を重量順に並べました。そして、それぞれに告示771号が要求する最大水平震度2.2Gがかかった場合の「天井地震荷重」を算出してみました。それが表❷です。
 表を見ての通り、最軽量の超軽量天井にかかる地震荷重が、最重量のステンレスパネル張りの天井のそれの1/13(=4.4/57.2)になっています。天井の質量が小さいということがいかに地震時における天井面にかかる水平力を小さくしているかがお分かりになると思います。このことにより、天井材が損傷し脱落するおそれを小さくしているのです。
表❷ 各種天井構成材の重量と天井面最大地震荷重(筆者作成)
■超軽量天井にグラスウールボードを使う意味
 超軽量天井は、天井面を構成できる強度をもち、天井面構成材の平均質量が2kg/m2以下であれば告示771号に準拠したものになります。そして、それは、告示771号が要求する天井脱落防止性能が中地震程度の地震に対してはその性能を発揮するようになっています。しかし、中地震を超える大地震に対してはその性能を保持することまでは保証していません。つまり中地震を超える大地震がきた場合には損傷し脱落する可能性があります。その際に人や物に重大な危害を与えないよう配慮してつくられた天井が真の超軽量天井といえるものです。
 その工法の天井材として適切と思われるのが、その天井材が脱落して人や物に衝突した場合にもほとんど衝撃のないグラスウールボードや幕材です。
 図❽は、各種天井材の人頭模型への激突実験の結果表です。この実験結果は、天井材の落下時にグラスウールボードが他の天井材に比べて人体への衝撃がいかに小さいかを証明しています。天井高さがいかに高かろうともほとんど衝撃がありません。

■頭部への衝撃傷害耐性値
 天井落下の危険性は、落下する天井材とその接触により発生する人体被害の程度によって客観的に判断することができます。Nahumにより提案されている側頭頭頂骨の障害下限値(450lbs=2000N)は、女性の側頭頭頂骨の崩壊加重実験値を参考にAISレベル2を閾値として決められたことによります。これを超えると頭蓋骨に大きな損傷が出る可能性があります。
図❽ 天井材の重量と落下高さによる最大衝撃荷重
各種天井板の人頭模型への激突実験(マグ・イゾベールのカタログから)
■超軽量天井工法の既存天井改修工事への対応の容易さ
 既存施設の天井耐震化工事は、既存の天井裏に既にある撤去できない構造躯体や敷設替えができないダクト、設備機器等を前提にして改修計画を立てなければなりません。そのときにその計画を容易にしてくれるのが、既存と同じ吊り天井形式で、吊りボルト部分にV字ブレースの設置を要しないこの工法です。告示771号基準充足工法による改修は、吊りボルト部分にV字ブレースのX方向Y方向とも釣り合い良い配置を必要とするため、それが既存の構造躯体やダクト等と干渉して計画が非常に難しくなります。これが、今回の改修工事において、超軽量天井工法による改修が多くなっている理由のひとつです。

■超軽量天井工法の弱点
 ここまで記してくると、超軽量天井工法がいいこと尽くめのように見えますが、この工法にはひとつ弱点があります。それは、天井面構成材の平均質量を2kg/m2以下に抑えるため、グラスウールボードを使うことで天井材を超軽量にしているだけでなく、天井面を構成するための骨組みも、石膏ボード等を仕上げ材に用いる一般的な天井工法のそれよりも華奢にできています。そのため、それらの工法より耐衝撃性能が劣ります。この工法でつくり替える天井にボール等による衝撃が加わることが予測される場合には、ボードの破損や外れ等のおそれがあるので、ボールの耐衝撃性能に配慮した天井高さを確保する等、その特性に配慮した使い方をしなければなりません。バレーボールに対する耐衝撃性能については、商品によって異なりますが、参考に「安心天井」のその検証動画を見てください(写真❹)。
写真❹ 安心天井 バレーボール衝突実験動画 http://www.kirii.co.jp/movie/
構造あらわし工法
 この工法は、地震時に損傷・脱落の危険性がある天井を撤去し、天井裏に隠れていた構造躯体やダクト等をあらわしにする工法です。私たちはこれを「構造あらわし工法」または「スケルトン工法」と呼んでいます。
 これまでの地震時における天井の脱落防止性能を突き詰めて考えていくと、最も安全な天井は、「構造あらわし工法」でつくり替える天井ではないかという結論に行き着きます。もちろん、構造躯体に取り付けられている照明器具やダクト等についてはそれ相応の脱落防止対策をとる必要がありますが、この工法によってつくり替える天井は、構造躯体そのものが即天井になりますので、構造躯体の損傷防止性能や建物の倒壊防止性能が、そのままその施設の天井の脱落防止性能になります。また、ものが天井に衝突した場合の耐衝撃性能においても構造躯体に優るものはありません。
 そのほかの工法によってつくり替える天井は、どうしても構造躯体とは本来異なる天井材(非構造部材)で化粧することになります。それが告示771号に準拠したものであっても、中地震を超える大地震に対してどの程度の震度の地震まで耐えられるものかが、不確実なものになります。また、その天井にものが衝突した場合の耐衝撃性能についても躯体より劣ることは明らかです。
こうしたこともあって、港区は、大規模空間をもつ施設の新築案件で、音楽ホール等の施設のように天井に音響性能等について厳しい性能を要求されるものを除き、天井脱落防止性能について確実な水準設定ができ、耐衝撃性能が優れた「構造あらわし工法」で設計を行うようにしています。
 ところが、今回のように既存施設の天井の耐震化改修ではなかなかその方針を踏襲することができません。というのは、この改修計画の基本方針が、既存の天井の耐震化改修を行った上で、施設が現在備えている機能や景観を原状に近い形で復することが前提にあり、多くの施設の現況が「特定天井」の構造になっているからです。
 唯一構造あらわし工法を採用できるのは、スイミングプール施設の改修の場合です。他の改修工法で特定天井の改修工事を行ったとしても、塩素によって天井下地金物が腐食し、地震によらなくても天井が脱落するおそれがあるからです。この場合に限り、原状に復するという前提を守らなくてよいこととしています。
写真❺ 港区立白金が丘学園アリーナ 構造あらわし工法(筆者撮影)
落下防止措置工法
 この工法は、天井や天井に設置されている設備等が崩落しても、それをネットやワイヤー等で一時的に受け止め、人体等に危害を与えない措置をする工法です。「フェイルセーフ工法」ともいいます。この工法は、あくまでも一時的な措置です。恒久的な耐震対策を目指す港区では、特定天井部分の脱落防止対策としてはこの工法を採用していません。
 ただし、天井や壁の高所に取り付けられていて地震時に脱落するおそれのある小物類(壁時計、ダウンライトのアクセサリー枠等)については、たとえ脱落しても人に衝突しないレベルで食い止めるワイヤーによる落下防止措置を行うことにしています。

この編の終わりに
 次回は、基本計画で検討した5つの特定天井改修工法選択肢の中から、港区がどの選択肢工法を選定し、それを具体的にどういう形にしたかを記したいと思います。「実施設計編」です。
加藤 峯男(かとう・みねお)
株式会社エンドウ・アソシエイツ代表取締役、(一社)東京都建築士事務所協会理事、港支部
1946年 愛知県豊田市生まれ/1969年 名古屋大学工学部建築学科卒業、同年 圓堂建築設計事務所入所/1991年 同所パートナーに就任/2002年 株式会社エンドウ・アソシエイツ取締役に就任/2003年 株式会社エンドウ・アソシエイツ代表取締役に就任/2011年〜 一般社団法人東京都建築士事務所協会理事
記事カテゴリー:建築法規 / 行政