働き方改革を考える 第13回
多様な働き方に対応したワーキングスペースを訪ねて──イトーキショールーム見学・新しい時代のオフィス
村上 淳(東京都建築士事務所協会理事、働き方改革推進ワーキンググループ委員、株式会社山下設計)
アイデア出し|インフォーマルなブレストやワークショップを行う場。
高集中|個人作業に集中するために、周囲の音や視線から遮断された空間。
光|心地よい日差しに包まれながら過ごせる空間。
知識共有|プレゼンや報告会など、知識・情報を共有する場。
電話/WEB会議|遠隔地とのコミュニケーションを行う個人用ブース。
こころ|ワーカーの集中力、リチャージや睡眠をサポートできる空間。(写真6点提供:株式会社イトーキ)
 働き方改革推進WGでは、これまで規模や専門分野の異なる複数の事務所にヒアリングを行い、各社が独自に試行するそれぞれの働き方改革について『コア東京』の誌面で紹介してきた。今回は平成30(2018)年10月から稼働している株式会社イトーキ新本社オフィスを訪問した。ワーキングスペースのハードからソフトに至る総合的なソリューションを提供する企業として、新本社オフィスでは、「コロナ」後の働き方の変化までも展望した、さまざまな意欲的な提案がされていた。
 以下、その概要を報告する。
株式会社イトーキ新本社概要
  • 東京都中央区の中央通りに面する再開発ビル※1の3フロアを新本社オフィススペースとして利用している。
  • 総テナント面積:約7,200㎡。
  • 本社在籍人員:約850人(約8.5㎡/人)。
    ただし、移転当初からリモートワーク(在宅勤務)が実施されており、実際の社員の出社率は35%、見学者を含めたオフィス内の滞在率も50%になるようにコントロールされている。
  • WELL認証※2『Gold』を取得。
Activity Based Working
 イトーキ新本社オフィスは、打ち合わせやミーティングなどの多様な活動に合わせてさまざまな設えを用意する「Activity Based Working(ABW)」というコンセプトで計画されている。
 在席管理は100%フリーアドレス化され、さらに業務に必要な情報もデジタルで共有されており、社員は自分のシンクライアントPCとともに、その時々のワーキング形態にいちばん相応しい場所に移動しながら業務を処理する。
 また、業務中にも自然に体を動かせる仕掛けがオフィスレイアウトや家具に組み込まれ、生産性と創造性を追求する一方で、ワーカーの心身の健康にも巧みに配慮された執務空間となっている。
 私たちがスタンダードと考える、見通しのよい均質な空間の中にデスクが整然と並ぶこれまでの執務空間とは異なり、たとえれば大学のキャンパスを連想させるような風景がオフィスに広がっていた。
 今回のコロナ禍により、われわれ建築設計の職場でもリモートワークを中心とした働き方の変革が進行中だが、新本社オフィスで提案されているさまざまなワーキングスペースは、私たちの今後の働き方を考える上でも多くの示唆を得られるものであった。
※1:2018年6月完成、地上32階、基準階の専有床面積:約2,600㎡
※2:(WELL Building Standard) ビルやオフィスなどの空間の品質を、「人間の健康」の視点で評価する認証制度。2014年に米国で始まり、達成された性能のレベルに応じて、『Platinum』『Gold』『Silver』の3つのランクがある。日本ではイトーキ新本社オフィスを含めて、7件のプロジェクトが認証を取得している。(令和2/2020年8月時点)
村上 淳(むらかみ・あつし)
東京都建築士事務所協会理事、株式会社山下設計
1956年秋田県生まれ/1982年 東京工業大学理工学研究科修了後、株式会社山下設計入社/現在、同社監理技術部門長/中央支部