令和3年度東京都への予算等に対する要望を提出
東京都建築士事務所協会事務局
 当会は、昨年7月に発足した東京建築設計関連事務所協会協議会(通称TARC)のメンバーである(一社)東京構造設計事務所協会、(一社)東京都設備設計事務所協会、(一社)日本建築積算事務所協会関東支部の3団体と共同して、東京都を皮切りに、東京都議会自由民主党、都議会立憲民主党・民主クラブ、都民ファーストの会東京都議団、並びに都議会公明党の5者に対して、令和3年度東京都への予算等に対する要望書を提出しました。
 以下に提出した要望書の概要を示します。
1 建築物の設計・工事監理業務の発注・契約に際しては、品確法等の主旨に則りプロポーザル方式等の価格以外の要素を考慮した選定方法を要望致します。
 また、やむを得ず入札方式を採用する場合には、早期かつ全面的に最低制限価格制度を導入してくださいますよう要望致します。
 建築物の安全性の確保と質の向上を図るには、設計・工事監理業務が、適切かつ円滑に実施されるよう、業務報酬が合理的かつ適正に算定されることが必要であり、価格のみによる設計者選定は、設計等業務の質の低下を招き、ひいては建築物の品質の低下につながる恐れがあり、品確法や環境配慮契約法の主旨に反することにもなります。
 したがいまして、建築物の設計・工事監理業務の設計者選定に際しては、「公共工事品確法」の趣旨に則り、発注業務の平滑化を図りつつ適切な設計工期を確保するとともに、価格以外の要素を考慮したプロポーザル方式等の選定方式を採用されますよう特段のご配慮をお願いします。
 これにより難い場合入札方式が採られることになりますが、これに関して、東京都財務局より、令和2年10月1日以降に発注する建築設計の委託業務に係る案件について、その一定数を対象として最低制限価格制度を試験的に導入する旨並びに各局発注案件へも試行対象を拡大していくことを予定している旨の表明がなされております。
 そこでこの試行を踏まえ、価格競争による入札方式で設計者の選定をする場合は、早期かつ全面的に最低制限価格制度を導入してくださいますよう要望致します。
2 特定沿道建築物に加え、東京都内の主要な防災拠点や区市町村庁舎と震災時に実際に避難住民が滞在する避難所との間を結ぶ道路の沿道建築物についても、耐震診断を義務付ける措置を講じて頂きますよう要望致します。
 震災発生時には、特定緊急輸送道路を用いて東京都内の拠点まで物資を運搬した後、さらに実際に避難住民が滞在している避難所まで物資を運搬していく必要があります。しかしながら、集積拠点まで物資が届いても、避難所までの運搬経路沿いの建築物が倒壊し、当該経路が使用できなくなった場合、結局避難している方々に物資を運搬することが不可能となる事態を招来しかねません。
 したがいまして、都民の生命、身体及び財産を保護するため、上記のとおり耐震診断義務化の対象範囲を拡大する措置を講じて頂きますよう要望致します。
3 新型コロナウイルスを含む感染症の流行期に大規模地震や水害等の災害が発生した場合、都内の避難者を収容するには区市町村所管の施設のみでは不十分であり、補完的に東京都所管の施設を避難所として使用することを想定する必要があることから、避難所として使用可能な東京都所管施設の収容人数を調査すること、及び、一般社団法人東京都建築士事務所協会(以下「東事協」)への当該調査の一括業務委託を要望致します。
 現下のような感染症が蔓延している時期に大規模地震等の災害が発生し東京都民が避難所に避難することとなった場合、従来の避難所だけではいわゆる「3つの密」を避けることができません。
 東京都では避難所の収容人数を約317万人と算定していますが、この人数は「3つの密」を避けることを想定した人数ではありません。現実的に「3つの密」を避けつつ避難者を収容するには、区市町村所管の施設のみでは不十分であり、補完的に東京都所管の施設を避難所として使用することを想定する必要があります。
 したがって、事前に「3つの密」を避けることを前提とした各避難所の適正収容人数を調査しておくことが有効な解決手段となると考えられますので、避難所として使用可能な東京都所管施設の収容人数を調査するよう要望いたします。
 あわせて各建築関連事務所協会、とりわけ東事協の会員である建築士事務所は図面や現地調査に基づいて計算を行うプロフェッショナルであり、東事協に当該調査を一括委託することで質の高い業務水準を確保することもできることから、東事協に当該調査の一括業務委託されるよう要望致します。
4 東京建築設計関連事務所協会協議会(以下「各協会」)は、それぞれ業界団体として会員向けの講習会やセミナーを通じて会員の建築士事務所等(以下「事務所」)の資質向上に努めるとともに都民に対して消費者相談等を行っています。さらに、一般社団法人東京都建築士事務所協会(以下「東事協」)では建築士法第27条の2第3項に定める業務等も実施しています。今次のコロナ禍においてもこれらの活動を維持して行くとともに会員事務所の経営支援を実施するために、各協会に対して助成などを実施して頂きますよう要望致します。
 各協会は、それぞれ日頃から講習会やセミナーを通じた建築士事務所の資質向上に努めていることはもちろんのこと特定緊急輸送道路沿道建築物耐震化業務や受動喫煙防止業務などの行政に対する協力を行っています。とりわけ東事協は法定団体として、建築士法第27条の2第3項で(1)契約の適正化その他建築主の利益保護、(2)苦情解決、(3)設計に関する研修等の業務を行うことが定められています。これらの各協会の活動は、事務所の高い業務水準を確保し建築設計業界の秩序維持に大きな役割を果たすとともに、都民が日々の暮らしにおいて安心して住める街や建築物を通して都市の発展に大きく寄与しています。
 しかしながら、今次のコロナ禍は事務所の経営に甚大な影響を及ぼしており、既に経営不振から各協会から退会を希望する会員が出始めています。こうしたことにより協会活動が停滞することは、事務所の業務水準の低下さらには建築設計等の業界全体の混乱を招きかねず、結果として都民の福祉が損なわれる恐れがあります。
 この流れの中で、東事協では希望する会員向けに会費の猶予を実施し、さらには会費免除についても検討する必要があると考えております。さらに、コロナ対策としてリモートによりセミナーや講習会を開催し、3密状況を回避して執務環境を改善するためオフィス内のレイアウトの変更も進めています。しかしながら、これらの施策を実施するにあたり、会費やセミナー等の受講料が減少する一方で、WEB資器材の調達経費や工事費用が大きな負担となっております。
 上記のように会勢の維持確保はもちろんのこと研修やセミナーの開催さらには登録業務等の行政協力などの協会活動を継続していくために、事業者である会員への直接支援はもちろんのこと各協会への財政的支援をしていただくよう要望いたします。
5 学校内部の教室や体育館は、学習指導、スポーツ及び式典開催等の様々な用途に使用されます。さらに加えて地震等の災害が発生した場合には避難所として使用される可能性もあります。このような多目的の用に供される教室や体育館について換気や気流等に関する環境実態調査を行い建築的側面及び設備的側面から対応策を策定するよう要望致します。
 多くの学校では教室内部の換気量が不足し加湿設備も未整備となっていることが見受けられます。また、利用実態が文部科学省の基準や建築物における衛生的環境の確保に関する法律(以下「法」)に必ずしも沿ったものとなっていません。とりわけ、スポーツや式典開催等の多目的の用に供される体育館に関しては、様々な状況に対応することが要請されます。
 さらに、教室や体育館はこうした本来の用途に加え、地震等の災害が発生した場合には避難所としても使用されることが見込まれます。とりわけ、感染症流行期に体育館や教室が避難所として使用される場合には、室内温度とともに換気と気流について充分に留意する必要が生じてきますが、現実には多くの学校施設では、そうした環境が整備されていないケースが多く見受けられます。
 そこで、教室や体育館が文部科学省の基準や法を充足させ教育の場において生徒が良好な環境の下で学習できる場を創出するとともに、併せて避難所として使用する場合にも良好な環境を提供するために環境実態調査を実施し建築的側面及び設備的側面から対応策を策定して頂くよう要望致します。