VOICE
田口 吉則(東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員会委員長、江戸川支部副支部長、株式会社チーム建築設計)
コロナで『コア東京』は苦戦をしいられている。ページがなかなか埋まらない、紙面の半分は会員の活動報告からなりたっているからだ。一刻も早くワクチンの普及が望まれところだが、無理に急いで地球が「猿の惑星」になったらたいへんだ。
『猿の惑星』は1963年フランスの作家ピエール・ブールが執筆した小説。SF小説だが第2次世界大戦時に日本の捕虜になった経験から、弱者の視点での人間の文化や技術の批判も垣間見られる。映画化した「猿の惑星」は1968年にアメリカで制作され、エンディングのシ-ンは誰もが驚愕したであろう。爆発的大ヒットになりリブート版も含め8作品も続編が制作された。
リブート版では、地球が猿の惑星になるのは、アルツハイマー病用につくったウイルスを1匹のサルに投与したところから始まった。サルは飛躍的に有能になる一方、人間には致死率の高いインフルエンザとして世界中に広まっていった。そしてお互いの戦争まで発展し、人類による文明は崩壊していった。中国では人間のDNAを猿の脳に植え付ける実験をしているという(2019年のWEBニュース)。アメリカとの最近の不和もあり、ウイルス・猿・戦争と「猿の惑星」のピ-スが埋まってきたから恐ろしい。
新築から20年たった自宅のカーテンを変えた。コロナで仕事が保留になり時間があったので多くのサンプルを取り寄せて、ショールームにも行き、じっくり考えて満足するものを選定できた。また、不要なものも処分し、読みかけていた本も見たりして以前からやろうと思っていたことができてスッキリした。そして新しい事にチャレンジしようとする気分になってきた。そう、余裕は大切だと実感した。
国立競技場は、ザハ・ハディド氏の建物を見たかった。国際コンペで選ばれた作品なのだからその案の実現に向けて、じっくり余裕をもって協議してほしかった。もしできていたら、全国から建築少年(この場合女性も含む)が見学に駆けつけてきたであろう。そして東京のエッフェル塔になっていったかもしれない。
5年ほど前に購入し、今までろくに葉もつけなかったヤマブキとツツジが、「時期が来ましたよ」といわんばかりに今年初めて綺麗にそれぞれ花を咲かせた。その姿は店で購入した商品ではなく、野原に咲く初々しいたたずまいがあり、しばし見入ってしまった。そして「新しい生活様式」には効率やスピードを競うだけでなく心の余裕を持っていたいと思った。「サルの惑星」でもウイルスの間違った開発や戦争は、心の余裕がないところから始まっている。
田口 吉則(たぐち・よしのり)
東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員長、江戸川支部副支部長
1953年東京生まれ/(株)チーム建築設計代表取締役
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