社労士豆知識 第46回
人生100年時代の老後設計──ゆとりある老後生活の資金計画を検討する
佐久間 豊(SKM社会保険労務士事務所)
老後資金2,000万円問題
 2017年9月11日に開催された第1回「人生100年時代構想会議」では、リンダ・グラットン英国ロンドンビジネススクール教授より、「2007年に⽇本で⽣まれた⼦どもについては、107歳まで⽣きる確率が50%もある」という数字が出され、このころからにわかに「人生100年時代へ対応するための老後資金をどうするのか」と騒がれ始めました。
 2019年には国会でも「老後資金2,000万円問題」が大きく取り上げられました。今回は、老後への金銭的な備えをしていくポイントについて考えていきたいと思います。
 ゆとりある老後生活を送る上では、その生活環境にもよりますが公的年金では不足するといわれています。
 総務省2018年家計調査によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の実月収入222,834円のうち91.5%(203,824円)が公的年金収入で、264,706円の支出に対して41,872円不足(公的年金だけだと60,882円不足)するとの結果が出ました。個々の環境を度外視して単純計算すると、65〜100歳(35年、420月)で17,586,240〜25,570,440円(約2,000万円)足りないことになります。
 また、2019年8月27日の社会保障年金部会の資料「2019(令和元)年財政検証について」の「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」では、「マクロ経済スライド終了時に、所得代替率50%以上を維持」とされていますが、現在の所得代替率(61.7%)と比べて減少していくことには変わりありません。
 このようななか、安定・満足・充実した老後生活を維持していくためにどのような計画を建てるべきなのか。個人個人環境が違いますが、一般的に考え得る意見を述べさせていただきます。
老後資金計画
 老後資金計画として、①iDeCoの活用、②つみたてNISAの活用、③公的年金の繰下げ、などを検討してみてはどうでしょうか。この場合、重要なのは、60〜70歳の初老期間をどう生活するのかということです。
 平成26(2014)年度「高齢者の日常生活に関する意識調査」によれば、60歳以降働きたい方が71.9%、その内「働けるうちはいつまでも」が28.9%という統計になっています。2014年のものですので、働きたいという数字は、現在はもう少し高いのではないかと思われます。
 また、健康寿命(日常生活に制限のない期間の平均及び自分が健康であると自覚している期間の平均)も、男性72歳、女性75歳(2016年)であり、65歳時点での平均余命が男性85歳、女性90歳を考えると、多少働きながら健康な間、就労と趣味を満喫する姿が頭に浮かんできます。
 そう考えると、75〜80歳(老齢高齢期)から資産活用だけで生活することを起点として、早くに(40代、50代の早い時期に)60〜70歳の人生設計づくりを検討していくことが必要だと思います。
 高齢者が高齢となって直面した意見として、──長生きのリスクを考えて、貯蓄すべきだった/定年後の人生がこれほど長いとは! もっと早くから考えておけばと悔やまれる/公的年金を当てにしすぎた(部分年金や在職老齢年金……誤算だった)/生活設計の大幅な軌道修正が難しいとつくづく思った/大幅な収入増が見込めない/親の介護で貯蓄をかなり使ってしまった/定年までに住宅ローンを見直しておけばよかった/生命保険に加入しすぎていた/きちんとポートフォリオを考えておけばよかった/金融機関が破綻するとは思わなかった/気力は充分あるが体力がついていかない──等があるようです。その時になっては、もう遅いかも知れません。
iDeCo、つみたてNISA、公的年金の繰下げ
 「iDeCo」と、「つみたてNISA」には投資戦略が必要になりますが、一般的には、a. 長期的な保有
b. 投資時期の分散(積立)
c. グローバルな分散
d. インデックス投信(低コスト)
e. NISAとiDeCo(非課税)、
を組み合わせて活用することが有効と考えます。
 「公的年金の繰下げ」は、老齢厚生年金と老齢基礎年金は別々に考えて繰下げできることを念頭において、65歳から最大5年間70歳まで繰下げると支給率142%になります。
 この時、70歳になる途中(たとえば69歳)の時に病気などでこの先永くない、早く資金が必要となれば、繰下げをやめて65〜69歳までの全額の年金をもらうことも可能です。
 多少余裕があれば、年金受給の判断は65歳時にあせってする必要はなく、その後の生き方等環境を考えて判断していけばよいと思います。ただし、繰下げ中は加給年金は止まるなど、注意を要する点があることを考慮に入れておく必要があります。
佐久間 豊(さくま・ゆたか)
SKM社会保険労務士事務所
大手情報処理サービス企業にて30余年SE、コンサルティング、営業、マネジメント/2011年 経営コンサルティング会社設立/2016年 社労士事務所開設
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士