緊急事態を乗り越え、未来を見据えて
緊急特集:新型コロナウイルス感染症と建築士事務所
児玉 耕二(東京都建築士事務所協会会長、江東支部、株式会社久米設計)
 令和2年5月25日に緊急事態宣言が解除され、2カ月近くに及んだ緊急事態対応も漸く緩和の段階になりました。しかしこれで事態が終結するわけではなく、長い道のりの通過点に過ぎません。引き続き三密の回避やテレワーク推進が求められ、私たちの生活も仕事も新しいやり方へと変容していくことが必要となっています。またこの緩和の先には今までの生活に戻る出口があるのではなく、大きく変貌した社会が待っていることが予感されます。私たちの業界も例外ではなく、これをきっかけに大きな変化が起こると思います。

 当協会では、20年継続してきた9月の恒例行事である「建築ふれあいフェア」を今年は中止することにしました。苦渋の決断ではありますが、三密を避けてフェアをやることも急にWeb主体のフェアに変えることも容易ではありません。委員の方と相談し、来年に向けて新たなやり方を模索することにしました。また、多くの委員会等がWeb会議による開催を余儀なくされる事態となっていますが、今後は委員会のやり方もWebでの参加を前提とした形に変わっていくものと思います。
会員の皆様におかれましても、この事態に対応して在宅勤務やWeb会議等を導入しての働き方を試行されたことと推察します。まだ不十分な点はあるもののそのやり方を改善して、平常時の新しい働き方として今後は実行していくことになると予感されたことでしょう。IT化社会が確実に進展していく中、リアルとバーチャルの好ましい融合点を見出し、柔軟に対応していくことが必要です。皆様がこの機会に積極果敢に挑戦し、ピンチをチャンスに変え、未来を見据えて設計業務も働き方も大きな変革を成し遂げられることを期待しています。
 また、景気の先行き不安の中、プロジェクトの中止や延期が出現し始めたとの情報も寄せられています。今回の緊急事態の影響は社会全体に波及し、感染症が収束に向かったとしても、経済活動における影響は次第に深刻なものとなってきています。健康安全を第一に業務遂行継続に奮闘されている会員の方々への救済・支援は切迫したものとなっているとの認識に立ち、当協会としては、会員事務所への緊急救済並びに業務支援の緊急対策の検討・実施を急いでいるところです。4月中旬からは、支部長を通じて会員への緊急アンケートを実施して実態把握に努めた上で、会員への支援策の第一段として、「会費納入期限の猶予」や「公的融資のための利子貸付」等を行うことにしました。今後さらに、建設計画の前倒し実施や、新たな緊急業務の実施の景気対策等を求めて、都をはじめ行政への緊急要望も強力に進めていきます。

 現在は未曽有の緊急事態ですが、この国難を脱した将来には、われわれの建築設計業界も大きく変貌する可能性があり、この機会を利用して建築設計のさまざまな改革改善を推進するよいチャンスです。当協会としては、中長期的にネットワーク技術による業務改革や、デジタル化による業務効率化のトライアル・実行、建築に係る行政諸制度改革提言も視野に入れて対応していきます。それは建築設計業界の将来発展に、また事務所協会の拡大発展に繋がるものと確信しています。
 今回の事態ではあらゆる業種すべての会社が影響を受けているわけですから、救いの手を他に求めるのは困難です。われわれ自身が連携し、お互いに協力支援しあっていく他ありません。会員間の相互協力はもちろん、東京三会建築会議での協力、さらには業界全体での協力も必要なときです。外出自粛で途切れがちな情報共有を積極的に行い、参考となる事例・技術を紹介したり困ったことを相談したりすることも重要です。マネジメント支援センター等をうまく活用し、会員間のネットワークをさらに強くして相互に支援しあってこの事態を乗り切りましょう。

 要望相談・支援協力の申し出などをお寄せ下さい。時々刻々に変わる状況に応じて、会員の皆様のニーズ、アイデアを受け止め、施策に反映させ、柔軟に対応していきたいと思っています。
児玉 耕二(こだま・こうじ)
東京都建築士事務所協会会長、江東支部、株式会社久米設計
1951年 宮崎県生まれ/東京大学大学院修士課程修了/1976年株式会社久米設計入社/同取締役副社長を経て現在、同監査役/2017年11月に一般社団法人東京都建築士事務所協会会長に就任