新規登録建築士事務所実務講習会
研修委員会|令和2(2020)年2月13日(木)@新宿ワシントンホテル
文:倉部 広大(東京都建築士事務所協会青年部会幹事、豊島支部、株式会社ビームス・デザイン・コンサルタント)
写真:大平 孝至(東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員、台東支部監事、株式会社ダイリン一級建築士事務所)
 東京都建築士事務所協会主催の新規登録建築士事務所を対象とした「実務講習会」が開催された。3名の講師を招いて、新たに建築士事務所登録をされた方々と各支部長や協会役員が参加した。また、講習後はテーブルごとで共に会食をしながら意見交換が行われた。受講者は56名であった。
児玉会長の挨拶。
児玉耕二東京都建築士事務所協会会長挨拶(要約)
 「建築士事務所をやって行く上で期待と不安があると思いますが、本日の講習はそのどちらにも答えるような講習になります。建築士事務所を運営していく中でポイントがあります。ぜひ掴んで貰いたいと思います。まずは設計。よい設計は皆様が得意とされるところと思います。次に営業。設計をされてきた方がほとんどでしょうから、営業には不慣れな方も多いと思います。最後に情報。インターネットで色々と調べられますが真偽の判断が難しい。本日の講習会後には情報交換の場として各支部長も参加する交流会もあります。それぞれの支部で地域の問題や意見を交換していただきたい。この機会を有効活用していただくとともに、本会に入会して活動に参加されることで、経験を積んだ先輩との交流や仲間づくりに繋げていただきたいと思います」。
菅谷朋子氏(聖橋法律事務所、弁護士、一級建築士)。
講習会1──建築士事務所業務と民法改正
菅谷朋子(聖橋法律事務所、弁護士、一級建築士)
 元々建築で働いていたが、建築から法律へ転職をされた菅谷弁護士より「建築士に対する縦と横の法的制約~良い仕事をするためのリスク管理~」、「建築士業務と民法改正」について説明があった。
 リスクを避けるにはリスクを知ることである。法律には国や地方自治体等が規制する「公法」と、私人間の権利・義務を規律する「私法(民法)」がある。「公法」は上から下におりてくる規制で縦の制約となる。例として建築基準法+関係法令や建築士法が挙げられる。「私法」は横と横と繋がりによる規制となる。例として契約責任や不法行為責任が挙げられる。現在、契約行為にない責任が問題となることが多いが、良い仕事をするためには、契約に基づく対等な義務の履行をすることで生まれる。公法と私法は独立した縦・横の関係となり、それぞれが別のリスクであるという説明があった。
 続いて契約全般に関する法律である債権法の改正に関して説明があった。
 債権法は明治29(1896)年の制定から約120年の間改正がなかったが、社会経済への変化への対応や国民一般に分かり易い民法とするために改正された。建築士業関連の重要改正項目として請負に関する項目が多く、契約不適合責任や請負報酬に関する説明があった。契約不適合責任においては変更が多い内容であったが新旧の比較をしながら分かり易く説明いただいた。
西野貴久東京都建築士事務所協会総務課長。
講習会2──事務所登録と業務報告書『おさえて安心!今年の改正ポイント』
西野貴久(東京都建築士事務所協会総務課長)
 初めに令和元年度に法改正された「登録拒否要件の見直し」、「建築士試験の受験資格の見直し」、「図書保存制度の見直し」に関する説明があった。続いて登録状況や建築士事務所登録の仕方、業務報告制度についての説明があった。登録状況では平成20(2008)年から建築士事務所数が減っていること。事務所登録についてはデータベースシステムに関して、業務報告については記載例を見ながら説明がされた。
竹山文氏(竹山社会保険労務士事務所代表)。
講習会3──知っていそうで知らない労務管理10問10答
竹山文(竹山社会保険労務士事務所代表)
 労務管理について1問1答のクイズ形式で10個の問題に対して説明があった。講習中には答えは配らずに、受講者も一緒に考えながら講習が進められた。時間外労働や労働時間の考え方、休職した社員の考え方等の説明があった。中でも出張時間は労働時間か、自宅持ち帰り業務は、仮眠時間はといった問題に関しては受講者も積極的に挙手にて参加していたが、多数派が間違っている問題もあった。経営者にとってこのような労務管理についての話を聴くことはありがたく、必要不可欠な事項なのだと感じた。
鈴木文雄氏(有限会社鈴木設計一級建築士事務所)。
講習会4──設計事務所の業務と活動|設計事務所のネットワークづくり
鈴木文雄(有限会社鈴木設計一級建築士事務所)
 「墨田区にある祖父の設計事務所を引き継いだ。その時はひとりで仕事もない中であったが、今までやってこれた。それがネットワークづくりに役に立つのではないか」といった言葉から始まった。建築士事務所のあるべき姿として、まじめに正しく仕事をしましょう、いいものを創りましょう、自分を磨きましょう、仲良くしましょう、まちのためにできることをしましょうといった考えの中で、事務所協会に入会することによって講習会や勉強会等の情報収集が合理的に入ってくる、気軽に相談できるネットワークができたこと。事務所協会は行政と一緒に動くことが多いので行政懇談会や防災訓練など地域貢献もできる。その一方、地域あっての活動なので単純な営業目的での活動は望ましくない、といった例の説明もあった。また仕事がないときに役に立ったこととして、定期調査やデューデリジェンス、修繕計画といった業務の説明があった。
 最後に「事務所協会に誰でも入会してくださいというつもりはありません。活動を通じて会を盛り立ててくれる方、牽引してくれる方、そういった意欲のある方にぜひ入会してほしい。」といった言葉で講習は終了となった。
各テーブルの受講者の顔ぶれ。
川越裕章東京都建築士事務所協会理事。
意見交換
 講義後の意見交換会は当該ブロックごとに丸テーブルが分けられ、各支部の支部長や協会役員が加わり、名刺交換から自己紹介、約1時間を掛けて軽食をとりながら、意見交換、交流をする場が設けられた。
 最後にテーブルごとに会話の内容を発表する時間が設けられた。どういった仕事の取り方があるのか、在宅勤務に関する考え方といった内容から、支部活動によりどういったネットワークがつくられるのか、地域貢献や行政との繋がりはあるのかなど、時間の許す限り前向きな時間になったようであった。
 最後に東京都建築士事務所協会の川越裕章理事より「建築士事務所協会は皆様の活発な意見をひとつひとつ取り上げて、それを伝えていく協会でありたいし、皆様から協会に入りたいと思える環境にしていきたい」と閉会の挨拶があり、講習会は終了となった。
倉部 広大(くらべ・こうだい)
東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員会、青年部会幹事、豊島支部、株式会社ビームス・デザイン・コンサルタント
1987年東京都生まれ/現在、株式会社ビームス・デザイン・コンサルタント構造設計部生産設計課課長
大平 孝至(おおひら・たかし)
東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員会、台東支部監事
1984年 東京電機大学建築学科卒業/株式会社ダイリン一級建築士事務所勤務。マクドナルド、松屋、鳥貴族等、チェーン展開の飲食店の建築設計及び店舗デザイン設計をする