働き方改革を考える 第5回
小さな組織の働き方改革を考える
井元 美佐代(東京都建築士事務所協会働き方改革推進ワーキングクループ委員、世田谷支部、有限会社シーアーク)
 働き方改革の推進を、「大手企業の義務」、「自社にはあまり関係ない」と思っておられる方も、まだまだ多いのではないでしょうか。
 近年の話題としては、①労働時間制の見直しや、②雇用形態に関わらない公正な待遇確保が挙げられますが、その他にも、③柔軟な働き方がしやすい環境整備、④ダイバーシティの推進、⑤賃金引き上げと労働生産性の向上、⑥再就職支援と人材育成、⑦ハラスメント防止対策 など、さまざまな視点から実現に向けた取り組みが掲げられています。
 働き方改革の推進には、日本において雇用の7割を占める中小企業や小規模事業者で、これらの取り組みが実施されることが必要とされています。東京都建築士事務所協会の会員事務所の多くがこうした規模の企業です。
 今回は、小規模設計事務所の取り組みについて、株式会社フレイム一級建築士事務所を訪ねました。小俣忠義所長と所員の金子有太さんの2名の事務所で、業務は主に住宅の設計のほか、住民主体のまちづくりを支援しています。
子育ての役割分担から9時〜5時の勤務に
 金子さんは、2年ほど前から、朝9時から午後5時までの勤務として労働時間の見直しを実践しています。朝夕の保育園への子どもの送り迎えを金子さんが分担されているためです。ご本人曰く、「実は『働き方改革』を意識的に行ったわけではなく、パートナーの産休が終わり職場に復帰することをきっかけに、『子育ての役割分担』が変わった。自然な流れで会社と家庭の双方の時間配分の調整につながり、バランスを保っている」とのことでした。
 以前は、仕事量を最優先して残業もしていたそうですが、時代の流れと重なり、金子さんは労働時間を減らすとともに、事務所としての仕事量や利益も調整する働き方改革につながりました。しかし、金子さんは子育てにより多く関わることで、生活の質は向上したと感じており、「住宅の設計をしているので、この経験は、これからの自分の設計に役立ち、長い目で見てプラスになると感じている。」とも語られました。現在も、設計業務で不可欠となる「腰を据えて考える作業」を土日に確保するなど調整しながら、柔軟な働き方を実践されています。
 そこには、小規模な事務所であるからこそ、コミュニケーションがとれ、お互いの理解のもとに、臨機応変な対応ができる強みがありました。所長の小俣さんは、金子さんとともに勤務体制について検討し、今回のことで、就業バランスを考える良いきっかけなったとのことでした。
 さらに金子さんの場合、事務所と自宅が近いという「職住近接」であること、自宅近くに病気にかかった子どもでも預かってくれる「病児保育ルーム」があることなど、さまざまな好条件が整っていたことも現在の働き方を可能にしている要因としてあげられました。
小規模ならではの調整のしやすさ
 今回の訪問では、小規模な事務所であるからこそ、会社と個人がお互いに調整しやすいという展望が開けました。一律に制度化してそれを利用してもらうのではなく、所員それぞれの状況に合わせ、最もよい方法を探し出し、柔軟に規則をつくりあげること、ワークライフバランスが取れることで、生活の質が向上し、今後の仕事への意欲・活力などプラスの発想が生まれていくことが期待できると考えられます。
 こうした小規模な環境だからこそとれる互いの信頼と理解をもとに、企業として何を目標に掲げていくかが大きなポイントとなるのではないかと感じた訪問になりました。
(訪問委員:寺田 宏|中央支部、井元 美佐代|世田谷支部)
井元 美佐代(いもと・みさよ)
東京都建築士事務所協会 働き方改革推進ワーキングクループ委員、世田谷支部
1965年 兵庫県生まれ/女子美術大学卒業/赤沼設計工房/現在、有限会社シーアーク取締役