シーリング材を正しく使う
漏水クレームをなくすために:後編
飯島 義仁 (コニシ株式会社)
小山 義典 (化研マテリアル株式会社)
保証と耐用年数
 品確法の制定(平成12年4月1日)により、シーリング材は「雨水の侵入を防止する部分(屋根・外壁仕上・下地等)」に含まれ、新築住宅を対象にシーリング防水を含む10年の瑕疵担保期間が義務付けられた。
 これを受けて、日本シーリング材工業会と日本シーリング工事協同組合連合会は、RC造、SRC造を中心とした新築住宅(マンション等)のノーワーキング目地におけるシーリング防水の保証条件と保証範囲について見解書を作成している。詳細については「日本シーリング材工業会」のホームページ(http://www.sealant.gr.jp/)に見解書と納まりの参考図などを掲載しているので参照願いたい。
 また、シーリング材の耐用年数については『建築防水の耐久性向上技術』(1987年)における「シーリング材防水の耐久設計指針・同解説」で算出式が提案されている。補修・改修工事の場合は、新しい技術の進展もあり、材料面を中心に『外壁接合部の水密設計および施工に関する技術指針・同解説』(2008年)で見直しが行われた。提案されている算出式では、新築工事の場合、補修・改修工事の場合とも、リファレンス耐用年数を10年としている。
シーリング目地の寿命
 シーリング材の寿命については、建設省(当時)が実施した総合技術開発プロジェクト「建築物の耐久性向上技術の開発」(耐久性総プロ、建築研究所、1980-84年)で、信頼性工学に基づくバスタブ(bath-tub)曲線によりおおよその傾向が把握されている。この時の調査研究ではビルのメタルカーテンウォール目地が多く、7年を過ぎると故障率が高くなり寿命を迎えるという結果を示している。
 単位時間内に故障を引き起こす割合を故障率といい、故障率はバスタブ曲線を描き、経過年数1〜3年が初期故障、4〜6年が偶発故障、7年以降が摩耗故障と考えられる。
 このバスタブ曲線はシーリング防水の定期的な補修・改修の根拠としてよく使われている。
図4 バスタブ曲線
シーリング目地の故障のパターン
 初期、偶発そして摩耗という3つの故障のパターンについて、その原因と対策をまとめて表7に示す。初期故障は設計・施工・材料上のミスや不良によるもの、偶発故障は不可抗力によるもの、そして摩耗故障は寿命・耐用年数によるものと考えられる。
表7 故障のパターンと対策
シーリング目地の劣化現象
 シーリング目地の劣化現象の種類を表8に、また、代表的な劣化現象の模式図を図5に示す。
 シーリング材は有機材料であり、雨水・太陽光・温度変化・部材の動き等により経年で劣化するため打ち替えなどの定期的なメンテナンスが必要となる。シーリング材の耐用年数は10年といわれており、一般的にマンションなどの大規模修繕工事の際に(10年〜12年)打ち替えが行われている。
 経年等により劣化現象が見られるシーリング材については打ち替えなどのメンテナンスが必要かどうか劣化診断を行う必要がある。劣化診断では、目視・指触による外観調査、材種の判定、接着性や目地形状(目地幅と深さ)の確認、既存シーリング材の物性を調べる引張試験などを実施し、劣化の進行状態を判定して既存シーリング材の打ち替えが必要かどうかを決める。
表8 シーリング目地の劣化現象の種類
図5 シーリング目地の劣化現象の模式図
改修工法
 劣化診断の結果、既存シーリング材の打ち替えが必要と判定された場合は改修工法の検討が必要となる。
 シーリング材の改修工法は、既存シーリング材の劣化要因などによって「再充填工法」、「拡幅再充填工法」、「ブリッジ工法」の3工法が採用されている。
 改修に用いるシーリング材は、JIS A 5758(建築用シーリング材)の規格品の中から、改修シーリング目地の推定耐用年数が改修後の使用予定期間以上になるよう選定する。通常は改修後の使用予定期間を10年とするので、推定耐用年数が10年以上のシーリング材を選定する。
図6 改修工法選定フロー
表9 改修用シーリング材の選定例
防火戸用指定シーリング材
平成12年6月の建築基準法の改正に伴い、施行例で性能に関する技術的基準が定められた。これまでの甲種・乙種防火戸という表現がなくなり、統合して「防火設備」となった。その遮炎性能上の最低基準としては20分間の遮炎時間(旧乙種防火戸相当レベル)が明確に設定され、事前に発熱特性試験に合格した防火戸用指定シーリング材の使用が義務付けられた。また、バックアップ材は不燃性のものと規定されており、外部・内部の両側に使う必要がある。
図7 防火戸用シーリング材の目地納まり
シーリング材の資格制度
 シーリング工事においては、要求された条件を十分に満足する設計・材料を使用したとしても、誤った施工がなされた場合は、シーリング材本来の性能が発揮されない。シーリング工事の施工品質すなわち防水性能は、それを行うシーリング工事作業員の技能により大きく左右されるので、資格者による施工が重要である。シーリング工事に関しては、施工の技量として一級技能士(厚生労働省認定)と二級技能士(都道府県知事認定)の公的資格があり、現在、全国に約2万人の資格者がいる。
 また、日本シーリング材工業会が工事の事前検討や施工管理を含め工事関係者との検討・調整などに関する技術及び知識を有する資格として「シーリング管理士」を認定している。「シーリング管理士」制度は1971年に発足し、1980年から実施された建設省総合技術開発プロジェクト「建築物の耐久性向上技術の開発」においても、「シーリング管理士」の参画による効用が記述されている。
まとめ
 日本は、世界の中でもまれな豊かな自然に恵まれている。しかし、火山・地震活動が活発で、夏から秋の台風やゲリラ豪雨、冬の大雪など厳しい自然と向き合っている。日本の建築物は、台風・地震の襲来、直射日光や四季の寒暖に耐えつつ、降雨時には建物内への雨水浸入を防止する必要がある。したがって、建築物の屋根や外壁を設計、施工するときには、強風及び降雨、地震挙動、温度差、太陽光などの作用に対して、十分な強度と耐久性を備えつつ、長期間にわたって防水性を維持する配慮が必要となる。
 建築部材は温度が高くなると伸び、低温では縮む。また、木材などは吸湿すると伸び、乾燥すると縮む。人間は熱くなれば薄着になり、寒くなれば炬燵で丸くなる。ゴムは温度が高いと軟らかく、低温では固くなる。
 しかし、建物の目地は夏になると部材が伸びるために縮み、冬は伸びるという自然と逆の動きをする。
 そこに使われているシーリング材は、自然の動きとは逆に動かされるかわいそうな材料なのである。それゆえに、建物の目地には思いやりのある設計が欠かせない。
 漏水クレームをなくすためには、十年から数十年の間一滴の雨も漏らさぬように、一次シールだけに頼らず二次シールや排水経路の確保など、設計時の配慮が大切である。

引用文献
田中亨二・榎本教良:日本建築学会大会学術講演概論集
pp917〜918、2013年
「建築物の耐久性向上技術の開発」建設省総合技術開発プロジェクト、建築研究所、1980〜1984年
『建築防水の耐久性向上技術』建設大臣官房技術調査室監修、技報堂出版、1987年
『外壁接合部の水密設計および施工に関する技術指針・同解説』日本建築学会、2008年
『改訂新版 建築用シーリング材-基礎と正しい使い方-』日本シーリング材工業会、2012年
『建築用シーリング材ハンドブック 2013』日本シーリング材工業会、2013年
『建築用シーリング材のQ&A 119』日本シーリング材工業会、2013年
『別冊 & SEALANT シーリング材と超高層の歴史』日本シーリング材工業会、2013年

参考図書
英語版『BUILDING SEALANT HANDBOOK』日本シーリング材工業会、2015年
『シーリング防水施工法』日本シーリング工事業協同組合連合会、2014年
『建築工事標準仕様書・同解説JASS 8 防水工事』日本建築学会、2014年
『事例に学ぶシーリング工事』(社)建築業協会、2002年
『新築現場が知らない知識』日刊建設通信新聞社・リニューアル技術開発協会、2014年
飯島 義仁(いいじま・よしひと)
1955年 山梨県生まれ/東京電機大学応用理化学科卒業/1977年 日本添加剤工業入社、建築・土木用シーリング材の開発に携わる/1992年 コニシ(株)浦和研究所に入社、1996年から日本シーリング材工業会の広報を担当、専門書・ハンドブック・Q&A119などを出版/現在、コニシ(株)東京建設部 参与
小山 義典(こやま・よしのり)
1953年 宮城県生まれ/東洋大学応用化学科卒業/1977年 日本添加剤工業入社、建築用シーリング材の開発に携わる/1992年 コニシ(株)に入社、シーリング材の劣化診断業務などに従事。マンションリフォーム技術協会・タイル分科会リーダーなどを歴任/現在、化研マテリアル(株)リニューアル開発部マーケティンググループ