シーリング入門
漏水クレームをなくすために:前編
飯島 義仁(コニシ株式会社)
小山 義典(化研マテリアル株式会社)
はじめに
 シーリング防水は、不定形シーリング材が現場で施工されて最終製品となり防水機能を発揮する。そのためには設計・材料・施工の連携を確実に行うことが重要である。1970年代よりシーリング防水について「日本建築学会JASS 8 防水工事」等、仕様類の整備により、当初よりは不具合は大幅に減少していると推定されるが、いまだ発生しているのが現状である。「シーリング材防水における不具合責任に関する事例研究」*1によると、シーリング目地の不具合は、多くの場合単独ではなく複数の関係者が存在すること、責任の所在は関係者全体に分散しているものの、従来指摘されることの少なかった設計、部材メーカー、ゼネコンもかなりの割合で関与していることが報告されている。
 ここでは漏水クレームをなくすために、シーリング防水における事前検討、目地設計の重要性などについて述べる。

 *1 田中享二・榎本教良「日本建築学会大会学術講演概論集」pp917-918, 2013年
シーリング材とは
 ビルや住宅の外壁を見ると、遠目には壁いっぱいに1枚板が取り付けてあるように見えるが、接近して見ると壁をいくつかに分割した外壁部材が、縦横に少し隙間をあけて取り付けてあるのが分かる。この隙間を目地と呼ぶ。目地をつくる理由は、部材が温度や湿度の変化によって伸び縮みしたり、あるいは地震や風圧によってたわんだり位置がずれたりして、部材が相互にぶつかり合うのを防ぐためである。しかし、このままの状態では目地から水や空気が出入りし、水密性・気密性を損なうので、外壁としては機能を果さない。そこで、そこに何か詰め物が必要になるが、この詰め物をシーリング材と呼び、一般的に伸び縮みする弾性シーリング材が使用されている。
 日本の住宅やオフィスビルは、木造や鉄骨造のプレファブ住宅から、RC・SRC造の低層、高層、超高層のカーテンウォールまで、建築構法や外壁に使用される部材はさまざまである。建物に雨を侵入させないために、低層では屋上のメンブレン防水がメインとなるが、外壁が多い高層や超高層ではシーリング材による線防水が重要となる。
 現代の建築物には必要不可欠なシーリング材に求められる条件は、
 ① 水密性・気密性を付与できる材料であること(各種建築部材に接着)
 ② 目地のムーブメントに追従できること(毎日の温度による動き、地震時の動き)
 ③ 耐久性に優れていること(少なくても10年間)
 ④ 意匠性に優れていること(汚れなどがない)
 などであり、硬化後硬くなるガラスパテ材や油性コーキング材はこの要件に適合しない。ここでは弾性シーリング材について述べる。
シーリング材の歴史
 わが国のシーリング材の歴史は、建築構法の発展と共に、新しいシーリング材の登場や改良が続けられてきた。一方、これに合わせて共通仕様書、JIS、JASSの、制定・改正が行われ、現在に至っている。
表1 シーリング材の歴史
シーリング材の種類
 シーリング材を製品形態、硬化機構及び主成分別に分類したものを図1に示す。シーリング材の性能を表2に示す。なお、同一材種でも製品により性能差があるので、シーリング材製造会社への確認が必要である。
図1 シーリング材の分類
表2 シーリング材の種類と特徴
 なお、建築用シーリング材は、圧縮加熱温度と変形率により耐久性が区分され、主成分により適用される耐久性区分が規定されている。それを、表3、表4に示す。
表3 耐久性の区分による試験条件
表4 主成分に適用する耐久性区分
 シーリング材の国内生産開始は1955年油性コーキング材からである。その後、ポリサルファイド系、シリコーン系、ポリウレタン系、変成シリコーン系などの生産が開始されている。生産統計は1967年に開始され現在に至っている。主な建築用シーリング材の生産動向は図2の通りである。
図2 主な建築用シーリング材の生産動向
 1970年代は、油性コーキング材、アクリル系、ブチルゴム系が生産量の過半数を占めていたが、1980年代に入ると「適材適所」の普及と共に、ポリサルファイド系、シリコーン系、ポリウレタン系、変成シリコーン系などの弾性タイプが増えている。
シーリング材の適材適所
 外壁の目地(ワーキングジョイント及びノンワーキングジョイント)における構法・部位・構成材とシーリング材との適切な組み合わせを表5に示す。この表は一般的な目安であり、実際の適用にはシーリング材製造会社や専門施工店に事前に問い合わせを行い、十分に確認することが必要である。
表5 シーリング材の適材適所(PDF)
シーリング目地の設計施工上の確認
 漏水クレームをなくすためには、シーリング材を施工する前の事前検討が大切である。シーリング材を施す目地の設計・施工上の条件や問題点を検討するに当たり、必要な確認事項とチェックポイントを表6に示す。
表6 設計条件確認一覧表-1(PDF)
表6 設計条件確認一覧表-2(PDF)
別表 地震の頻度と層間変位の目安
スパンクリートパネルとシーリング材
 設計時のディテール検討の例として、スパンクリートパネルとシーリング材の関係を示す。層間変位と外壁が保持すべき性能などから、シーリング材の目地幅と深さを検討する必要がある。
図3 スパンクリートパネルとシーリング材 日本スパンクリート協会技術資料より表6(PDF)
飯島 義仁(いいじま・よしひと)
1955年 山梨県生まれ/東京電機大学応用理化学科卒業/1977年 日本添加剤工業入社、建築・土木用シーリング材の開発に携わる/1992年 コニシ(株)浦和研究所に入社、1996年から日本シーリング材工業会の広報を担当、専門書・ハンドブック・Q&A119などを出版/現在、コニシ(株)東京建設部 参与
小山 義典(こやま・よしのり)
1953年 宮城県生まれ/東洋大学応用化学科卒業/1977年 日本添加剤工業入社、建築用シーリング材の開発に携わる/1992年 コニシ(株)に入社、シーリング材の劣化診断業務などに従事。マンションリフォーム技術協会・タイル分科会リーダーなどを歴任/現在、化研マテリアル(株)リニューアル開発部マーケティンググループ