支部セミナー開催──今川憲英氏講演会
文京支部|平成30(2018)年8月2日(木)
米田 正彦|文京支部
 
講演する今川憲英先生。
 
会場風景。(撮影:花田 阿門)
 第11回目を迎えた文京支部セミナーは、構造家の今川憲英東京電機大学名誉教授にご講演いただいた。暑さ厳しい日にもかかわらず支部会員はもとより第2ブロック、本会、そして、他の建築団体から多数の方が参加し盛況となった。
レクチャーのタイトルは「Material speaks Timber's Arch.」。「大館樹海ドーム」をはじめとして、「木」という素材に対峙しその本質を見極め設計された木質構造建築についての講義である。
 講演では数多くの構造設計作品等から海外の集合住宅や巨大な遊具など、多岐にわたる設計作品をご紹介いただいた。そのなかで個々の構造の特徴を図表にダイアグラム化された説明は特に興味深いものだった。近日出版される著書(四部作)を拝見するのが楽しみである。
 講演の後半は参加した若手建築士や学生向けにQ&A形式の講義となった。ガウディがサグラダ・ファミリアの構造に採用したカテナリー曲線(懸垂曲線)については眼鏡の吊鎖を小道具に、また、圧縮力が働く材の周囲に張力を負担する線材を配した構造の「テンセグリティ」(バックミンスター・フラーによる造語、構造概念、tension+integrity)では、身体の腕を輪にする仕草をしながら、多様な構造形式についてわかり易く解説していただいた。懇親会でも興味深い話は尽きず、日本と海外の伝統文化にまつわるエピソードを織り交ぜた京都町屋の耐震改修事例の話に皆聴き入った。
 有意義な時間の後に感じたことのひとつは、今川先生の思想が構造設計の範疇を越え、建築全体を思考することから、さらにその「外」へと向かおうとしていることである。そこには、設計実績から生まれた構造ダイアグラムのように、新たな視点、モノの見方が生まれる可能性を感じる。建築的行為を俯瞰し、諸条件に縛られる建築へ適切な物理的処方を施す仕事は、今川先生が肩書に掲げる「外科医的建築家」の行いであるといえるだろう。
 今回、私たちは構造技術について学びつつ、建築士という職能の可能性についてあらためて気づかされる機会となったようだ。
米田 正彦(よねだ・まさひこ)
(株)ATELIERFOLIUM代表取締役、東京都建築士事務所協会文京支部 支部長
1962年生まれ/(株)坂倉建築研究所を経て、1998年 事務所開設/2006年 株式会社ATELIER FOLIUM一級建築士事務所に改称