思い出のスケッチ #312
夏の輝き
加藤 峯男(東京都建築士事務所協会港支部、株式会社エンドウ・アソシエイツ)
私はミクロネシア系の血が混じっているのか、地黒です。それが嫌いではないので、メラニン色素コーティングでさらに磨きをかけられる夏が大好きです。それもその効果が顕著に出る、真っ青な空に入道雲がくっきりと立ち上がり太陽がぎらぎらと照りつける夏なら最高です。この絵はその最高の夏だった朝日が昇り日が落ちるまで一日中戸外で遊び通した小学五年の夏休みの「思い出のスケッチ」です。
真ん中で後足立ちするのは、初めての写真撮影に興奮するペコ。口からだらしなく出しているベロを小刻みに出し入れし、「はーあっが、はーあっが」と今にも死にそうな苦しげな息を吐いています。その興奮の吐息は今でも耳に残ります。ポーズを取らせるためにペコを一所懸命に押える母。われ関せずと自分だけしっかりとポーズを決めこむ私。
この絵のもとになった写真をなぜ撮ることになったのか、理由をはっきりとは覚えていません。おそらく、父が買ったばかりの写真機の試し撮りをしたかったのでしょう。ほとんどの家庭では写真機をまだ一台ももっていなかったころのことです。突然、裏庭に家族全員が駆り出され、写真を撮ることになったのです。
肌が黒いことを気にして、外に出るときは時間をかけて念入りに化粧し身支度する母が普段着のままです。しかも縁側の前に置いてあった突っ掛けの下駄をよほど慌てたのか、右足の鼻緒を人差し指と中指の間に入れ、足の指も爪も私と同じ形の地黒の生足をさらけ出しています。夏休み中のぎらぎらと輝いた真夏の日差しを受けて、親子そろって真っ黒に日焼けした夏でした。
その母も、ペコも、私たちの前で箱型の写真機を上から覗き込んでいた父も、もういません。写真を撮った木造長屋も裏庭もありません。この庭でどんな生活が営まれていたかを知るのは今、私ひとりです。描くうちにこの裏庭で起こったことがひとつひとつ思い出され、一シーン一シーンを思い出しながらの作画となりました。
加藤 峯男(かとう・みねお)
東京都建築士事務所協会理事、株式会社エンドウ・アソシエイツ
1946年 愛知県豊田市生まれ/1969年 名古屋大学工学部建築学科卒業、同年圓堂建築設計事務所入所/1991年 同所パートナー/2002年 株式会社エンドウ・アソシエイツ取締役/2003年 同代表取締役/港支部
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