東京消防庁からのお知らせ 第20回
令9について
東京消防庁予防部予防課
はじめに
 消防用設備等は棟単位で設置が義務付けられるか否かを判断するのが原則です。本稿では、その例外を定めた消防法施行令第9条(令9)について紹介します。
複合用途への消防法施行令第9条の適用
本誌2月号で紹介したとおり、1つの建築物内に異なる2つ以上の用途がある場合の消防法令上の用途は消防法施行令別表第1(16)項となります。
 消防用設備等の設置を義務付ける条文は、用途の危険性に応じて規定されています。
 単一用途の防火対象物は、その用途の規定がある条文を適用すればよいですが、(16)項の防火対象物は、(16)項として適用すればよいのか、防火対象物内にあるそれぞれの用途ごとに適用すればよいのかよくわかりません。これを明確にしたのが令9です。

消防法施行令第9条 別表第1(16)項に掲げる防火対象物の部分で、同表各項((16)項から(20)項までを除く。)の防火対象物の用途のいずれかに該当する用途に供されるものは、この節(第12条第1項第3号及び第10号から第12号まで、第21条第1項第3号、第7号、第10号及び第14号、第21条の2第1項第5号、第22条第1項第6号及び第7号、第24条第2項第2号並びに第3項第2号及び第3号、第25条第1項第5号並びに第26条を除く。)の規定の適用については、当該用途に供される一の防火対象物とみなす。
消防法施行令第9条の考え方
(1)原則
 令9の適用を受ける条文の場合、(16)項は(1)項から(15)項までに掲げる防火対象物の用途のいずれかに該当する部分については、それぞれを一の防火対象物とみなして規定を適用します。
 例えば、1階が(4)項の物品販売店舗、2階が(15)項の事務所で、各用途の面積が200㎡の(16)項イの防火対象物に消火器具の設置が義務付けられるか否かを考えてみます。
 消火器具については(16)項に設置が義務付けられる条文がなく全て令9の適用を受けるので、それぞれの用途ごとに判断する必要があり、その結果、(4)項は床面積150㎡以上のため設置が義務付けられ、(15)項は床面積300㎡未満のため設置が義務付けられないことになります(図❶)。
図❶ 令9を適用した際の消火器具の設置義務
 令9の適用を受ける消防用設備等については、(16)項の防火対象物の一部に存していても、単一用途であっても、同じ用途で同じ規模のものには、同じものを設置する必要があることになります(図❷)。
図❷ (16)項と単項の消火器具の設置義務
 次に、1階が(4)項の物品販売店舗、3階が(3)項ロの飲食店で各用途の床面積が600㎡の防火対象物に屋内消火栓設備の設置が義務付けられるか否かを考えてみます。
 令9を適用して、それぞれの用途ごとに判断すると、いずれの用途も床面積700㎡未満のため設置が義務付けられないことになります(図❸)。
 ここで、(3)項ロも(4)項も床面積700㎡以上のものに設置が義務付けられるのに、令9を適用することで全体の延べ面積が700㎡以上であるにもかかわらず、設置が義務付けられなくなることに少し疑問に感じる方もいらっしゃると思いますが、条文上やむを得ません。
 なお、東京都には複合用途の防火対象物が多くあることを踏まえ、火災予防条例(都条例)で、(16)項の防火対象物で延べ面積1000㎡以上のものに屋内消火栓設備の設置が義務付けられています(図❸)。
図❸ 令9を適用した際の屋内消火栓設備の設置義務
(2)例外
 一部の規定(2の条文の網掛け部分)は、防火対象物全体で火災時の避難安全等を確保するため、令9の適用対象から除外されています。
 具体的には、スプリンクラー設備、自動火災報知設備、ガス漏れ警報設備及び非常警報設備は、一部の規定で建物内にいる人の火災発生時の避難安全性確保のため、用途部分に限らず防火対象物全体に火災やガス漏れが発生した旨を知らせる必要があるので、令9が適用されず、(16)項の防火対象物として設置の有無を判断します(図❺)。
図❺ 自動火災報知設備の設置義務
 また、誘導灯及び誘導標識は、当該用途部分からだけでなく避難階等まで建物内にいる人を安全に避難させる必要があるので、令9が適用されず防火対象物全体に設置が義務付けられています(図❻)。
 なお、避難器具は、火災発生時に当該階にいる全員の避難安全等を確保するため、当該用途部分だけでなく、当該階全体で収容人員を算定し設置を義務付けられるものもあります。
図❻ 誘導灯の設置義務
おわりに
 令9は、「この節」とあるように消防法施行令第2章第3節の消防用設備等の設置及び維持の技術上の基準にのみ適用されるので、防火管理など他の規定には適用されません。
 令9を適用し、一部例外を除き、ある用途部分だけに設置が義務付けられる場合であっても、火災予防条例で防火対象物全体に設置が義務付けられる場合がありますので、注意が必要です。
記事カテゴリー:建築法規 / 行政