東京消防庁からのお知らせ 第18回
電気火災の抑制方策に関する検討結果について
東京消防庁予防部予防課
1 はじめに
 東京消防庁管内の火災件数は減少傾向にあるなか、電気製品や配線などから出火する電気火災が占める割合は、平成17年の15%から平成26年の21%に増加し、高い割合となっています(図❶)。このことから、電気火災の抑制が火災予防の喫緊の課題となっています。そこで、東京消防庁では、平成27年度に「電気火災の抑制方策に関する検討部会」を設置し、2か年にわたり検討を重ねました。
図❶ 火災件数に対する電気火災の割合の推移
2 電気火災の死者数及び件数の検討
 高齢者を65歳以上の前期高齢者と75歳以上の後期高齢者に分けて分析を行った結果、後期高齢者の死者数の増加が、全死者数の増加につながっている実態が分かりました(図❷)。
 電気火災による死者については、データ化されている平成2年から平成26年の25年間を分析しました。電気火災の発生件数は、昭和60年から平成26年の30年間を分析したところ、電気ストーブが最も多く2,860件、次いで電気こんろが1,803件であり、電気ストーブが突出して多いことが分かりました。
 火災件数、死者数共に多くの被害を出しているのは電気ストーブ、コード、電気こんろの3種類です。
図❷ 電気火災の死者数の推移を表す回帰分析
2-2 現行の抑制方策及び今後の見込み
 電気こんろ及びコードは、電気用品安全法の改正によりハード的な対策がとられ、今後の抑制効果が期待できます。一方、電気ストーブはハード的な対策は一部のみであることから、電気ストーブの出火メカニズムを解明する検証実験を行いました。
3 増加傾向にある電気火災の分析
(1)10年間の増加
 火災件数が多い電気製品について、平成17年から平成26年までの10年間の火災件数の推移を分析しました。カーボンヒーターの火災が、平成17年から平成21年までの前半5年間では5件であったものが、平成22年から平成26年までの後半5年間では82件に増加しています。リチウムイオン蓄電池の火災は、前半5年間では8件であったものが、後半5年間では32件に増加しています。この2製品の火災を抑制する必要があります。カーボンヒーターは、電気ストーブに属するものとして検証実験を行いました。更に、リチウムイオン蓄電池の出火メカニズムを解明する検証実験を行いました。
(2)30年間の増加
 火災件数が多い電気製品について、前2とは異なり対象を拡大し、更に集計期間を直近まで変更(昭和61年から平成27年まで)した30年間の火災件数で分析しました。その結果、コンセント、蛍光灯、電子レンジの火災件数の増加率が高いことから、この3製品の火災を抑制する必要があります。コンセントはすでに電気用品安全法に基づく技術基準が見直されており、蛍光灯は今後LEDに移行することを考慮して、電子レンジの出火メカニズムを解明する検証実験を行いました。
4 電気ストーブ火災の検証実験
(1)発火実験
 市場に多く流通している石英管式、シーズヒーター、カーボンヒーターの3種類の電気ストーブを使用し、羽毛布団及び綿のパジャマを距離と方向を変化させ接近させます。布団等の表面温度、一酸化炭素、熱流束等の測定を行いました。図❸に示す羽毛布団を用いた実験で、布団に火がついていない煙だけの状態では、一酸化炭素の濃度が高く、1時間程度で重篤な状態となり、死亡する可能性があることが確認できました。布団がストーブに接していなくても、熱を発している正面10cm程まで近づいた状態では熱流束の値から時間の経過により可燃物が発火する状況にあることも確認できました。
図❸ 発火実験の概要
(2)安全装置の有効性評価実験
 現在、サーモスタットによる異常温度や赤外線センサーによる可燃物等の接触の検出による電源の停止機能を備えた電気ストーブがあります。その他、現在ある技術として、煙センサーやCOセンサーによる想定される安全装置の評価を目的とした検証実験を行いました。
 検証実験は、150℃で作動するサーモスタット、数cmの物体の接触を検出する赤外線センサー、光電式スポット型1種煙感知器、一酸化炭素の濃度が50ppmと100ppmで作動するCO警報器をそれぞれ電気ストーブに設置しました。作動した時点で電源を遮断し、温度、煙及び一酸化炭素の濃度を測定し、安全機能がないものとの比較を行いました。
 検証結果は、赤外線センサーが早く作動し、煙が発生する前に遮断され、次いで早く作動したのが煙感知器で、うす煙の段階で遮断されましたが、一酸化炭素は多少発生しました。CO警報器は、煙及び一酸化炭素が多量に発生してから遮断されました。最後に作動したのがサーモスタットでした(図❹)。
図❹ 安全機能の有効性評価
5 リチウムイオン蓄電池火災の検証実験
 充電したポータブル蓄電装置(リチウムイオン蓄電池内臓)を複数のジグで圧壊しました。押し潰される様相によらず高い出火危険が確認できました。内蔵電池の表面は、最高で784℃に達し、白煙、火花、火炎の噴出と発火が観測されました。周囲に可燃物があれば着火する可能性が非常に高いことが分かりました。
6 電子レンジ火災の検証実験
 電子レンジの注意書きには、庫内の食品が燃えだしたときに電子レンジの扉を開けると、酸素が入り、勢いよく燃えることから扉を開けないこととされています。このことから、食材ごとの燃焼性状の確認、扉を開けた際の燃焼性状の確認、扉を開けずに行う消火の効果についての検証実験を行いました。
(1)食材ごとの燃焼性状確認実験
 実際に火災が多い次の食材を加熱しました。
① さつま芋(冷えた焼き芋)
② 肉まん
③ 包装にアルミ蒸着を使用した鳥の唐揚げの冷凍食品
 実験の結果、さつま芋及び肉まんは爆発的な燃焼により電子レンジの扉が開放し、火炎が噴出しました。冷凍食品は最初に包装が発火し、徐々に樹脂製トレー、食品へと延焼しました。以降の実験では冷凍食品を使用しました。
写真 肉まんの燃焼状況
(2)扉の開放実験
 庫内で出火した際に電源を停止し、扉を閉鎖したままの場合と扉を開放した場合を比較しました。出火後10秒で電源を停止し扉を閉鎖した場合は、直後に鎮火しましたが、扉を開放した場合は、内容物である樹脂製のトレー及び食品に延焼しました。
(3)消火実験
 粉末消火器や散水などによる消火実験を実施しました。食品の燃焼危険、庫内外への延焼危険について評価しました。
 正面からの消火、吸気口及び排気口への消火は、いずれも庫内に水や消火薬剤は届かず消火の効果は確認できませんでした。しかし、電子レンジの外装の温度は40〜50℃に抑えられました。消火を行わず庫内の燃焼が継続すると電子レンジ外装の温度は127℃まで上昇したことから、周囲の可燃物への延焼を抑制する効果があります。
7 提言
 電気火災の抑制に向け、以下について提言され、東京消防庁では、これらを踏まえた抑制方策を推進していきます。
(1)電気火災の発生状況等の実態を周知
 多くの電気火災が使用者の取扱いの誤り等で発生しています。そこで、使用者等に電気火災に係る実態を正しく認識してもらい、火災抑制に注意を払ってもらう必要があります。
(2)電気ストーブの火災抑制方策
 電気ストーブは、火災件数、死者数共に多く発生し、対策が急がれます。電気ストーブ火災では、後期高齢者の死者が多く発生していることから、適切な取扱いの周知に加え、赤外線センサーや煙センサーのような火災初期の段階で電源を遮断する機能的な対策が望まれます。
(3)リチウムイオン蓄電池の火災抑制方策
 リチウムイオン蓄電池からの火災の実態及び対策を関係行政庁、関係業界、使用者等に周知します。本提言を受け、平成29年4月1日から一般社団法人JBRCにより、リチウムイオン蓄電池を内蔵したポータブル蓄電装置(モバイルバッテリー)の回収・再資源化ができることとなりました。
(4)電子レンジの火災抑制方策
 庫内からの出火を抑制するためには、電子レンジ本体や冷凍食品等の包装への表示に加え、以下の内容を使用者に周知する必要があります。
① 出火防止対策
ア 冷凍食品等、包装された食品は、そのまま加熱すると出火危険があるため、包装の表示を確認してから調理する。
イ さつま芋、肉まんなどのように長時間加熱すると急速に燃える危険性を有するものがある。
ウ 庫内の様子を見ながら加熱する。
エ 普段から電子レンジの周囲には、可燃物を置かない。
② 火災時の対応
ア 扉を開けずに電源を遮断する。
イ あわてずに庫内の様子を見る。
ウ 火が消えなければ、扉を閉めたまま、消火器などの消火器具を準備する。
(5)他の火災抑制方策
 分析の結果から、次についても対策が必要とされました。
① コード類の短絡が多く発生しています。製品の電源コードについても、二重被覆化のような延長コードと同様のハード的な対策が望まれます。
② コンセントの接触部過熱と屋内線の短絡が多く発生しています。住宅などでは、既存の分電盤もコード短絡保護用瞬時遮断機能付配線用遮断器を装備した分電盤への交換が望まれます。
③ 外国人旅行客の増加が見込まれています。電気製品の注意には日本語表示に加え、同内容の外国語表示が望まれます。
8 おわりに
 電気火災の抑制方策に関する検討部会の報告書は、東京消防庁ホームページからダウンロードすることができます。検討の詳細は報告書を参照してください。
(http://www.tfd.metro.tokyo.jp/)
記事カテゴリー:建築法規 / 行政