1 はじめに
消防法令には、建築士の方々にはあまり耳なじみのないさまざまな用語があります。本稿では、「特定一階段等防火対象物」をご紹介します。
2 特定一階段等防火対象物ができた経緯
平成13年9月1日未明、新宿区歌舞伎町の雑居ビルで火災が発生しました。火災のあった建物(防火対象物)の規模は地上5階地下2階、延べ面積516㎡で、焼損床面積160㎡にもかかわらず、死者44名、傷者3名と小規模な防火対象物の火災で発生した被害としては、未曾有の大惨事となりました。火災は、3階エレベーターホール付近で発生。3階遊技場に延焼し、1系統しかない屋内階段を経由して4階の飲食店に延焼拡大しました。階段には、ロッカー等の物品やビールケース等の可燃物が大量に置かれていたうえ、防火戸も閉鎖せず、延焼経路となるとともに、避難の障害となっていたと考えられます。
この火災を受け、東京消防庁では直ちに検討会を設置し、小規模雑居ビルの防火安全対策や法令基準への適合性を確保する方策のあり方等について検討を行いました。総務省消防庁でも消防審議会において議論され、当庁からの要望などを踏まえ、平成13年12月に答申書が出されました。答申書では、多数の死者が発生した要因として次の4つがあげられています。1)
① 階段の物品存置等防火管理が不適切であったこと。
② 自動火災報知設備のベルが停止されていた可能性が高いこと等により、火災の発見が遅れ、初期対応を的確に行うことができなかったこと。
③ 直通階段が1本しかなく、当該階段からの出火であったため、避難経路を確保できなかったこと。
④ 防火戸が閉鎖しなかったため、急激に火煙が店舗内に流入したこと。
これを受けた平成14年以降の消防法令の一部改正により、特定一階段等防火対象物が定義され、本防火対象物には、自動火災報知設備及び避難器具の設置や、防火対象物点検などが義務付けられました。
3 特定一階段等防火対象物
当時の特定一階段等防火対象物の定義は、以下のとおりです。
① 用途
② ①の用途の存する階
③ 直通階段の数
(1)用途
用途は、一般に特定用途と呼ばれる「消防法施行令別表第1(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに掲げる防火対象物の用途」です。
具体的には、劇場、遊技場、風俗店、飲食店、物品販売店舗、ホテル、診療所、社会福祉施設などを指します。
(2)用途の存する階
特定用途が避難階以外の階に存するものが該当します。条文の「避難階以外の階」の詳細は、消防法施行令第4条の2の2で規定されています。
ポイントの1点目は、1階及び2階を除くことです。したがって、避難階以外の地階又は3階以上の階に特定用途がある場合が該当します(図❶)。
避難階又は地上に直通する階段又は傾斜路が1系統しか設けられていないものが該当します。
ただし、次に掲げる階段がある場合は、1系統しかない場合でも特定一階段等防火対象物にはなりません(消防法施行規則第4条の2の3。図❸)。
② 屋内避難階段のうち消防庁長官が定める部分を有するもの
③ 特別避難階段
②の消防庁長官が定める部分を有するものとは、屋内避難階段のうち、階段の各階又は各階の中間の部分ごとに、次のいずれにも適合する直接外気に開放された排煙上有効な開口部を設けたものをいいます(平成14年消防庁告示第7号。図❹)。
ⓐ 開口部の開口面積が2㎡以上
ⓑ 開口部の上端が階段の部分の天井の高さの位置にある。
又は、階段の最上部の天井の高さの位置に500c㎡以上の外気に開放された排煙上有効な換気口がある。
4 おわりに
平成26年の消防法施行規則の一部改正により、現在は、3月号でご紹介した小規模特定用途複合防火対象物は、特定一階段等防火対象物に含まれないことが追加されています。法令の制定経緯から、特定用途が地階又は3階以上にあり、階段が屋内階段1系統のもの全般を「特定一階段」と呼ぶ傾向があるようです。このような建物は、火災時の危険性が高いため、小規模でも消防用設備等の設置が義務付けられるとイメージしてください。出典 1) 「小規模雑居ビルの防火安全対策に関する答申」平成13年12月26日消防審議会