社労士豆知識 第25回
労務におけるリスクマネジメント──ハラスメントについて
内田 力(内田社会保険労務士事務所所長、東京都社会保険労務士会理事・台東支部長)
 現代社会においては、さまざまな「ハラスメント」が猛威を振るっております。今回は皆様が企業(事業)経営を行う上でリスクとなりうる、このハラスメントについて考えてみたいと思います。
 この言葉については何度か耳にされていると思いますが、その意味は「相手に迷惑をかけること」です。かなり幅が広いので、先ずはその種類と定義を以下にまとめてみました。
セクシャル・ハラスメント(セクハラ)
定義:
時間や場所、相手をわきまえずに、相手を不愉快にさせる性的な言動
・卑猥な発言や身振り
具体例:
・不必要な身体接触
・交際を迫る
ジェンダー・ハラスメント
定義:
性的ではないが、性別に関係する相手を不愉快にさせる言動
具体例:
・容姿、年齢、結婚(離婚等)に関して、デブ、おばさん、男のくせになどの発言
パワー・ハラスメント(パワハラ)
定義:
職務権限などの権力を背景に、本来の業務の範囲を超えて、継続的に人格と尊厳を侵害する言動
具体例:
・私用をいいつける
・人前で過剰に叱責する
・能力や性格について不適切な発言
・相手によってあからさまに応対に差をつける
モラル・ハラスメント(モラハラ)
定義:
言葉・態度・文書により、静かに・じわじわと・陰湿に繰り返される精神的な嫌がらせや迷惑行為
具体例:
・周囲を取り込んで孤立させる
・挨拶をしない等無視をする
・ネットのサイトで個人攻撃をする
アカデミック・ハラスメント(アカハラ)
定義:
研究上、教育上または職場での権限を乱用して、研究活動、教育指導もしくは労働に関係する妨害、嫌がらせまたは不利益を与えること
具体例:
・研究発表、論文作成等を妨害する
・正当な理由がないのに退職を促したり、または示唆する
・慣れない仕事への頻繁な配置転換または意味のない仕事を強制する
ドクター・ハラスメント(ドクハラ)
定義:
患者の心にトラウマを残すような医師や医療従事者の暴言、行動、態度、雰囲気などのすべて
具体例:
・強引に治療に従わせる(脅し型)
・患者や家族を絶望に追い込む(告知型)
・患者の治療や回復よりも病院の利益を優先する(エゴ型)
 など

 このようなハラスメントは、それぞれが完全に分離独立となっているわけではなく、重なる部分もあります。
 セクハラでも職場の上司が行えばパワハラにもなり、嫌がらせの要因が含まれるとモラハラにもなります。ドクハラの概念は、「キャンサーフリートピア」の代表であった故・土屋繁裕先生が提唱されたものです。
 ハラスメントは受ける人だけの問題ではなく、周囲の人びとがそうした事実を知ることで、仕事への意欲が低下し職場の生産性に悪影響を及ぼす可能性が大いにあります。ハラッサー(ハラスメントを行う人)にならないためには、相手が止めてほしいというサインを示したら、すぐにその言動を改める必要があります。言葉が足りなかったときは、事後にフォローを行うことで解消される場合もあります。日常の言動に注意を払い、相手を尊重し、適度なコミュニケーションを通じて周囲の人びととよい関係を築くことが大切です。
 ぜひこの機会に日常の職場での言動を全員で確認して、ハラスメントのない環境をつくり、企業(事業)の発展に役立ててください。
内田 力(うちだ・つとむ)
内田社会保険労務士事務所所長、東京都社会保険労務士会理事・台東支部長
1982年 専修大学経営学部経営学科卒業後、株式会社オリエンタルランド入社/1988年 浅草青色申告会事務局入局/1998年 内田社会保険労務士事務所開業
記事カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士